長崎県出身の垣根涼介さんの「極楽征夷大将軍(ごくらくせいいたいしょうぐん)」が2023年、第169回直木賞に選ばれた。2017年の佐藤正午さん以来、6年ぶり4人目となる県内関係者の受賞となった垣根さんがふるさとへの思いを語った。

足利尊氏の芯がない部分が“逆に面白い”

直木賞作家の垣根涼介さん(57※取材当時)が2023年9月末、長崎市内でテレビ長崎の単独インタビューに応じた。

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直木賞作家・垣根涼介さん:
直木賞はじめ、ほかの賞も含めると、歴史小説を書くようになって、文学賞は5回ほど候補になった。ことごとく受賞を逃していたので、歴史小説を書き始めてからようやく1発目の受賞かと、ホッとしたのが正直なところと

垣根さんは30代前半の2000年「午前三時のルースター」でデビューし、現代小説を手がけてきた。10年ほど前からは歴史小説に活躍の舞台を移し、「極楽征夷大将軍」は5作目だ。

テレビ長崎・磯部翔アナウンサー:
あまりメジャーではない足利尊氏に注目した理由は?

直木賞作家・垣根涼介さん:
足利尊氏について聞くと、「室町幕府を作った人」と答えが返ってくる。ほかに聞くと「わからない」という答えで、すごい印象が薄い人。なぜかというと生き方がフラフラしていて芯がなかったから。尊氏は「これは」って生き方がまったく見当たらない。逆に僕はそこが面白いと思った

「それがしは総領の器ではございませぬ。ですから、足利家の総領になるなど荷が重うございます。」
「今までのように気楽に息をしとうございます」
(「極楽征夷大将軍」著:垣根涼介©文藝春秋)

尊氏の“情けなさ”が描かれた物語

「極楽征夷大将軍」は、やる気も使命感も執着も無い足利尊氏が、弟の直義と側近の高師直に助けられながら武家のトップに上り詰める物語だ。

選考委員からは「巨視的で重厚な力作」と評価を受けているが、尊氏の情けなさや弟・直義の融通の利かない実直さがおかしみを持って描かれている。

尊氏の弟・直義について、「奥さんのことをいちずに思っていて、ものすごく好きになってきた」と語る磯部アナウンサーに、垣根さんが「自分と同じようにですか!?(笑)」と笑顔で話す場面もあった。

テレビ長崎・磯部翔アナウンサー:
こういう人になりたいなと思った。こういう人がいて幕府が開けたと初めて知った

直木賞作家・垣根涼介さん:
「極楽征夷大将軍」に書いたエピソードは事実しか書いていない。実際にああいう性格だったと思う

「人間らしさ」を描く“垣根ワールド”

長崎市内の書店では直木賞受賞を記念して、垣根さんのサイン会が開かれた。いつの時代も変わらない「人間らしさ」を描く“垣根ワールド”にファンもぞっこんの様子だった。

ファン:
リアリティーがすごくある。自分が生きている中でも共感できる部分がある。最近読み始めてファンになった。こういう機会があればと来てみた

ファン:
歴史ものだが、登場人物の心理、気持ちの描写がわかりやすくて、自分も感情移入しやすかった

諫早市出身の垣根さんに、ふるさと・長崎について聞いた。
「今回の受賞で諫早市出身の市川森一さんや野呂邦暢さんに並んだところもあるのでは?」と尋ねると、垣根さんは「そんなことない。いま言われるまで思ったこともなかったですよ」と笑いながら答えた。

そして「長崎は作家を生むような土壌がある?」との質問に、垣根さんは「高校のときの友達とドライブに行くのは東シナ海沿い。ずーっと車の中で友達としゃべっている。『波佐見まで行って飯を食おうか』とか、『雲仙まで行って温泉につかって飯を食ってくるか』とか。つまり(長崎県に)帰ってくると、この土地を楽しんでいる感じ。そういう意味でも気分にゆとりがある土地なのかもしれない」と語った。

気になる今後の作品は…長崎ゆかりの人物?

ズバリ、今後の作品の構想について尋ねると、「いまは歴史上の人物で何人か書きたい人がいるので書く」と語った垣根さん。磯部アナが「その人物を教えていただくことは難しいですか?」と質問したが…。

直木賞作家垣根涼介さん:
えーっと…。それは…難しい(笑)。言えることと言えないことがありますので

テレビ長崎・磯部翔アナウンサー:
ぜひ、長崎ゆかりの人物を書いてほしいですが

直木賞作家・垣根涼介さん:
長崎に帰るたびに皆さんおっしゃいますが、実はひそかにリサーチはしています。ただ、割と長崎の歴史上の人物は偉い人物が多い。中身も偉い。そうすると僕が書きたい「一見偉い人なのに中身がどうしようもない人間」ではない

小説や本でしか味わえない感覚

「活字離れ」が進んでいる現代、垣根さんには伝えたいことがある。

直木賞作家・垣根涼介さん:
今は本以外にもいろんな娯楽がある。ゲームとかSNSとか。ただ小説や本でしか味わえない感覚の楽しみ方がある

テレビ長崎・磯部翔アナウンサー:
いまの現代人が忘れかけている部分ですか?

直木賞作家・垣根涼介さん:
かっこいい、美しい、きれいだ、かわいい。そういう感覚も大事だが、それ以外にも大事な感覚がある。大事な感覚は本が提供してくれるところも相当にある。できれば本は読んでほしい。僕の本じゃなくてもいいので

かっこいいばかりではない「人間」の本質を描き続けてきた作家・垣根涼介さん。今回のインタビューでは、笑顔を絶やさず、作品や長崎への熱い思いを語ってくれた。ふるさとを舞台とした小説が書店に並ぶ日も近いと信じている。

(テレビ長崎)

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