子どもたちが病気と闘う際に、痛みや怖さを遊びの力で軽減しようと支援する「HPS」という専門職がある。その数は国内で230人余りとまだ少ない。そのうち、福井で働く1人の女性に密着取材した。
子どもに寄り添い治療をサポート 県内に3人しかいない専門職
福井・永平寺町にある福井大学病院。その小児科病棟で7月、母親に抱えられた1歳半の男の子が処置室に向かっていた。部屋の前で笑顔で出迎えたのは、荒木遥さん。福井に3人いるホスピタル・プレイ・スペシャリスト(HPS)の一人だ。

HPSは、がんなどの重い病気がある子どもたちを病院で支援する専門職。「プレイ = 遊び」の専門家で、治療・検査を受ける子どもたちから痛みや恐怖を軽減させる。ただ、国内では230人余り、福井では3人とまだ少なく、全ての子どもたちをケアできていないのが実情だ。

荒木さんは母親に「動画は何を見る?」と声をかけ、子どもの今のお気に入りを聞く。処置中は常に子どもの隣で、不安を取り除くために言葉をかける。

福井大学病院小児科病棟 病棟保育士・荒木遥さん:
うん、頑張ってるよ。あー、いややな。泣いてもいいよ。ママのところに行こう。頑張ったよってママに教えてあげよう

HPSは、入院や通院する子どもが前向きに医療に向き合うよう、病院内でも日常の「遊び」を届けたり、処置や検査中に気持ちをそらせて治療をサポートする。発祥国のイギリスでは国家資格で、9割以上の小児科病棟で医療チームの一員に加わる。

一方、日本では認定資格にとどまっていて、静岡県立大学短期学部で実施する約5カ月間のプログラムを履修することで資格を取得できる。国内のHPSは230人余りで、保育士や看護師資格を持つ人が多い。

HPSの人件費は全て病院が負担するため、採用は進んでおらず、福井でHPSがいる病院は2カ所にとどまる。
福井大学病院小児科病棟 病棟保育士・荒木遥さん:
処置のときも遊びで気がそれることで、頑張ることができる。入院しているお子さんは家や学校といった普段の生活とはかけ離れていて、決められた時間に薬を飲まなきゃいけないとか、検査をこの時間までにしないといけないなどがある。自分で決められないことが多いので、ストレスになってくる。その子の力で頑張れるような手助けをしている

保育士からHPSへ…医療現場で子どもの支援を
子どもにとって、入院生活は制限だらけだ。「遊び」を通して、子どもと医療とをつなぐ。この日、荒木さんが子どもと遊んでいたのはパズルだった。完成すると拍手をして「いけた! すごーい!」と喜びを分かち合った。

入院中の小学生:
荒木さんは遊んでくれて優しい
子どもの父親:
いつも辛いと言っているが、荒木さんと一緒だとニコニコしている。一緒に検査室に入って寝るまで一緒にいてくれる。すごくありがたい存在

荒木さんがHPSを志したのは8年前にさかのぼる。県外で保育士として働いていた時、医療が必要な園児を受け持ったことがきっかけだった。
福井大学病院小児科病棟 病棟保育士・荒木遥さん:
自分の仕事とはつながらなかった部分があった。入院している子どもの遊びってどうなのかなとまず思って

医療現場で子どもの支援に携わりたいと福井に戻り、2016年から福井大学病院で病棟保育士として働きながらHPSの資格取得を目指した。その翌年、資格を習得。目標だったHPSとして、新たなスタートを切った。
寄り添うことで子どもの“乗り越える力”を引き出す
福井大学病院 小児科・伊藤宏之副看護師長:
検査や処置の時、しゃべれないお子さんの代弁者にもなってくれる。乗り越えられる力を引き出す関わりをしてくれているので、私たちとしても助かっている

福井大学病院 小児科・鈴木孝二医師:
治療をスムーズにするために、いてくれるかどうかは大きな違いがある。荒木さんがいてくれると役割分担ができて、自分たちは検査や処置に集中できる

検査前、事前に練習をして、子どもたちの不安を減らすこともある。治療中に子どもが泣き出しても冷静に対処して、優しく不安を取り除く。子どもが頑張れるラインを見極め、そして後押しする。
福井大学病院の小児科には27の病床がある。荒木さんが1日に関わることのできる人数は多くても10人。入院する子どもたち全員に目を行き届かせることはできない。
福井大学病院小児科病棟 病棟保育士・荒木遥さん:
まだまだ知られていない資格。小児科病棟だけでも関われないない子どもたちがいるので、もっと子どもたちに関わっていきたい

病棟の一角には、七夕の短冊が飾ってある。「はやくおにいちゃんとはしりまわれますように」「パパとソフトクリーム食べられますように」「早くびょうきがなおりますように」…。子どもたちの願いが手書きで込められた短冊だ。

HPSとして6年目を迎えた荒木さん。子どもたちの願いを1日でも早く実現するため、医療チームの一員として、子どもたちに「遊び」を届け続ける。
(福井テレビ)