私たちの生活を支えるバスやタクシーのドライバー不足が深刻化している。国土交通省は、外国人労働者や高齢ドライバーを活用する検討に入った。危機的状況を打開する一手となるのだろうか?

深刻化する人手不足 乗客とのトラブルや賃金が原因か

水鉄タクシーオペレーター:
お電話ありがとうございます。水鉄タクシーです。そうですね。そんなに時間かからずに行けるかなと思います。

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ひっきりなしに配車予約の電話がかかってきているのは、大阪・岸和田市と貝塚市を拠点とする「水鉄タクシー」だ。ここで今、喫緊の課題となっているのが…。

水鉄タクシー・奥利彰部長:
乗務員不足ですね。この乗務員不足というのが、コロナ以前から続いておりまして、コロナになった状態で(需要が激減し)さらに加速したと。

10年ほど前に約90人いたドライバーは、今ではその半数の48人。平均年齢は63歳で、最高齢は78歳だ。なぜ、なり手が少ないのだろうか?

水鉄タクシー・奥利彰部長:
お酒を召しあがっている方もたくさんいらっしゃいますし、トラブルになったり…。

度々ニュースにもなるドライバーへの暴言や暴行事件。乗客とのトラブルを敬遠する傾向があるようだ。

また、年間の平均所得はバスやトラックと比べて低い361万円。賃金に魅力を感じないとも言われている。水鉄タクシーは完全歩合制だが、コロナが落ち着いて以降、業績が向上し、決して低賃金ではないと話す。

水鉄タクシー奥利彰部長:
高給を望んでいる方にとっては、たくさんお客さんに乗っていただいたらその分、給料は上がります。

外国人の受け入れや年齢上限の引き上げ

ドライバーの不足はタクシーだけではない。9月11日、大阪南部で路線バスを運行する「金剛バス」が人手不足などを理由に、事業を廃止すると発表した。そこで国土交通省は、外国人労働者を活用する検討に入った。

外国人労働者の受け入れを認める在留資格「特定技能」。対象はこれまで外食業や農業などに限られていたが、2023年度中に「自動車運送業」を追加することを目指すということだ。

また国交省は、人口おおむね30万人以上の地域に限り認めてきた個人タクシーの営業を、過疎地などでも認め、運転手の年齢の上限を75歳から80歳に引き上げる案を公表した。これについて街で聞いてみると、「80歳でもちゃんと運転できる人ならいいと思う」「えぇ、危ないじゃん。どちらかというと乗りたくないかな、高齢のドライバーだったら」といった声が返ってきた。

2024年4月からは、ドライバーの残業時間に上限が設けられ、人手不足がさらに深刻化する「2024年問題」も懸念されている。

私たちの生活の基盤を支えるドライバー。対策を急ぐ必要がある。

バスもタクシーもドライバー不足が深刻で、地域交通が消えてしまうのではという懸念もある中、打開策はどんなものがあるのか。今議論されている「ライドシェア」についても考えていきたいと思う。

交通事情に詳しい流通経済大学の板谷和也教授に聞いた。

タクシードライバー数は4年間で2割減 バスやトラックも同様

ドライバーが激減しているという現状について、まずタクシードライバーの数だが、この4年間で約2割減ってしまっている。その理由としては、ドライバーの高齢化、コロナで収入が減ったことが挙げられる。

これだけ減ってしまっているという現状だが、これはタクシー業界だけの話ではない。

流通経済大学・板谷和也教授:
バスやトラックなどでも同じような状態になっています。やはり長時間労働しなければならない上、賃金があまり高くならないということが大きな問題ですけれども、さらにコロナ禍で観光客とか外出する人がすごく減ってしまった。それで収入が落ちてしまい、ドライバーとしてやっていけなくなってしまうと。ではもう高齢者なので、引退して年金生活に入ろうか、という人も多かったのかもしれませんね。

さらに、自らがコロナに感染しないようにという理由で引退する人もいる。そんな中で、あの手この手で対策を取っていくということだ。

一つは外国人ドライバーの採用強化。

また、個人タクシーの年齢制限の上限を現在は原則75歳としているが、80歳まで引き上げるということだ。これまでより5年長くドライバーができるようになる。

国交省によると、75歳以上のドライバーを対象に、運行する地域の法人タクシー事業者による運行管理を受けることや、個人タクシーの営業許可を1年ごとの更新の度に健康診断や適性診断を受けることなどが検討されているということだ。上限を80歳に引き上げることについて、問題はどのようなところにあるのだろうか。

流通経済大学・板谷和也教授:
高齢者の方の能力はかなり個人差が大きいので、大丈夫な方は大丈夫なんです。ただ、去年は大丈夫だったけど今年はそうでもない、といったことが割と起こりがちですので、一年ごとにきちんと検査を受けていただいて、大丈夫であればドライバーを継続していいという能力チェックをちゃんとしてもらうということが条件になるのではないでしょうか。ただそれをやっても、若い人たちに比べるとドライビングに不安があるということは出てくると思いますので、色々対策はしておかなければいけないとは思います。

ライドシェア解禁でドライバー不足解決となるか

今、ドライバー不足の解決策として議論されているのが“ライドシェア”を解禁すべきか否かということだ。

ライドシェアとは、一般ドライバーが自家用車を使って乗客を運び、料金をもらうというサービスだ。このサービスはアメリカで始まり、最大手であるウーバー社では現在70カ国以上で展開されている。タクシーのように、配車アプリで利用することができる。

しかし日本では、営業許可を得ずに白ナンバーでお金をもらい乗客を運ぶことは、いわゆる“白タク”行為と呼ばれ、違法だ。これについて街の人は…。

20代:
別にいいとは思うけど、変な人の車もあるし、自分は使わないかな。

50代:
悪いことではないと思うが、自分が使うかと言われれば、それは別の話。ライドシェアだとどうしても、ちょっと手前で(止まる)とか、行き過ぎてしまうということもあると思うんです。

20代:
ウーバーイーツとかと同じで、レビューがいい人なら乗りたいと思うかもしれないです。

ライドシェアのメリット、デメリットは何だろうか。

流通経済大学・板谷和也教授:
ウーバーイーツは便利で、使った方はその良さをすごく評価されているので、日本でもぜひ(ライドシェアを)導入してほしいという声が多いと思います。しかし、諸外国でもそうなのですが、乗客の取り合いになってしまいますので、それまでのタクシー事業者のドライバーが生活できないくらい収入が落ちたりして、(外国では)暴動が起きた事例もあるんです。そういったことを合わせて考えると、何も考えずに導入してしまうと問題が起きると思います。ドライバーが増えることで、短期的には利用者にとってすごく便利な状態になりますが、長期的には、ドライバーの数は少し抑えていかないと生活できない人が増えるかもしれないですね。

――しかし、導入することでドライバー不足の解消にはつながっていくんでしょうか?

流通経済大学・板谷和也教授:
東京のようにたくさんの方が利用されそうなところであれば、それなりに給与も見込めると思うのですが、そうじゃないところだとあまり今までと変わらないので、魅力があまりない職業になってしまうかもしれません。

ライドシェアの安全性、タクシーとの違い

従来のタクシーとライドシェアの違いは何だろうか。ライドシェアは今は日本にはないので、諸外国の一般的な概念として紹介する。

まず運転免許。タクシーは、乗客を乗せる上で必要な二種免許が必要だ。ライドシェアは普通免許だ。そして事故やトラブルが起きた際の対応について、タクシーは会社がきちんと対応してくれるのだが、一方でライドシェアは個人間での取引となるため、個人での話し合いになると思われる。また事故の際の保険だが、タクシーは事業者用の保険に入っているので、もし事故が起きて(乗客が)けがをしてしまった場合、乗客にお金が支払われる。しかしライドシェアは一般車用の自賠責保険しかないため、けがをした際にお金が支払われるかは不透明だ。

板谷教授の視点としては、欧米は保険・車両検査の義務化や免許制度などの規制に乗り出す流れがあるということだ。欧米ではライドシェアを解禁してはいるものの、規制を強めていく動きもあるということだろうか。

流通経済大学・板谷和也教授:
そうです。誰でも車を運転して人を運べるようになってしまうとどうしても、あまり運転が上手くない人や、乗客への対応が上手ではない人、時間を約束通りに守れない人なども(ドライバーの中に)入ってきてしまいます。そういう人たちが入ってこないようにするための対策を、欧米に限らず、(ライドシェアを導入している)途上国などでも行っています。

気軽に利用できる点が魅力ではあるが、それだけでは安全性などの不安がある。しかし、規制を強めていくとライドシェアのドライバーが増えなくなり、ドライバー不足の解消にはつながらないという懸念がある。

流通経済大学・板谷和也教授:
(規制を)厳しくしすぎると、現状とあまり変わらないと思います。日本には個人タクシーがありますので、個人タクシーと同じくらいの質が担保できればタクシー業界としても納得だと思いますが、それだとハードルが高すぎてドライバーになりたい人があまり出てこない。そうするとドライバー不足という問題が解決されないので、もう少し緩い制度が必要ではないかと思います。

ドイツに赴任していた関西テレビ・加藤報道デスクは次のように語った。

関西テレビ・加藤報道デスク:
私がドイツに赴任した年に、初めてウーバーイーツのライドシェアがドイツに参入したんです。利用できるのを楽しみにしていたのですが、一向に始まらない。聞いたところによると、既存のタクシー業界が、「自分たちのシェアを脅かされる」と。

関西テレビ・加藤報道デスク:
ドイツに限らず、ヨーロッパでは規制を巡った裁判がたくさん起きてしまって。結局“ウーバーイーツは運送会社である”ということで、裁判所がウーバーイーツに対して、“既存のタクシー会社と同様の規制を行ってよい”と認めてしまったんです。現在ドイツのケースでいうと、(日本でいう)二種免許のようなものが必要だし、持たないまま運転すると運転免許はく奪になるとか。あとはレンタカー会社と個人が契約しないといけないとか。かなり厳しくなっていっているので、やはり参入のハードルは高いと思います。

まずは待遇の改善が肝要

どこまで規制をかけてどこまで緩めるのか。それによって、ドライバー不足の問題は解消するのかということにもつながってくる。

板谷教授の見解としては、まずは“タクシードライバーの待遇改善が先”だということだ。結局、給料がよくなければ、ライドシェアを解禁したとしても継続的にドライバーは集まらない、ということだ。

何よりも問題なのはドライバーの不足。その特効薬になりうるライドシェアだが、利便性も安全性も重要だ。そのどちらに重きを置くのか。乗客もドライバーも安心できるような落としどころを探る必要がありそうだ。

(関西テレビ「newsランナー」9月20日放送)

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