2023年5月、石川県能登地方で最大震度6強の地震が発生。300キロ以上離れた大阪の「あべのハルカス」ではエレベーターが緊急停止した。しかし、当時あべのハルカスのある、大阪市阿倍野区は震度1。なぜ小さな揺れでエレベーターは止まったのか。高層ビルでの災害対策を検証した。

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300キロ以上遠い「あべのハルカス」でエレベーター緊急停止

5日午後2時42分ごろ、石川県で最大震度6強を観測する地震が発生。家が倒れたり、土砂災害が発生したりするなど、1000件を超える被害が出た。当時、震源地から離れた大阪市にある関西テレビの社屋にいた私は、揺れを全く感じなかった。

しかし、日本最大級の高さ300メートルを誇る「あべのハルカス」では、地震発生時刻の4分後の午後2時46分、60階の展望台までつながるエレベーター2台が停止した。

当時「あべのハルカス」59階にいた親子:
59階にいました。ちょうど帰ろうとしてエレベーターを待っていたら、立ちくらみかなと思って。子どもも揺れたと言っていて。(エレベーターから)出てくださいと言われて、みんなしゃがんでいました。80分ぐらいいたと思います

ビルを管理する近鉄不動産によると、当時動いていたエレベーターは、「揺れ」を感知して自動的に最寄りの階に移動。乗っていた人を下ろしてから停止した。近鉄不動産は「余震の可能性や安全確保を考慮し、エレベーターを待つ人は展望台のフロアで待機を依頼した」と説明していて、建物内で停電は発生せず、トイレなども通常通り使用できたという。

復旧前に帰ることを希望した人は、スタッフが同行したうえで非常階段を使用した。エレベーターは停止後およそ30分後にエンジニアがかけつけ、点検と復旧作業を行い、約1時間15分後の午後4時すぎにすべて復旧した。

揺れの正体は「長周期地震動」

気象庁によると、大阪市阿倍野区は震度1の揺れだった。それではなぜ震源から300キロも離れた大阪で、エレベーターが停止したのか。エレベーターを管理する三菱電機ビルソリューションズによると、原因は「長周期地震動」という揺れにあるという。長周期地震動は、比較的大きな地震の時に発生するゆっくりとした大きな揺れで、震源から遠く離れた場所でも、超高層ビルには揺れが伝わりやすいのが特徴だ。

2011年の東日本大震災でも長周期地震動が発生し、福島から直線距離で500キロ以上離れた大阪でもエレベーターの閉じ込めや天井のパネルが落ちるなどの被害が出た。

しかし国土交通省の担当者によると、この地震による関西への影響は小さく、エレベーターが停止した事案はほとんどなかった。なぜ、あべのハルカスのエレベーターは緊急停止したのだろうか。

三菱電機ビルソリューションズ設計・工事統括部 副島弘毅課長代理:
長周期地震動は非常にゆっくりとした揺れで、周期が長いのですが、(従来の)地震検知器では検出できない、ゆっくりとした振動を検知しています

高層ビルのエレベーターには地震発生時に閉じ込めや事故を防ぐため、震度4程度以上の「揺れ」を検知すると自動的に最寄り階に止まり、その後停止する「地震時管制運転装置」の設置が義務付けられている。あべのハルカスのエレベーターには、従来の地震時管制運転装置では検出できない「長周期地震動」まで検知できる最先端の機器が設置されていた。

かごを吊り下げるロープの揺れが一定の大きさ以上になると自動停止する仕組みになっているが、石川県の地震による「長周期地震動」が来てもエレベーターがこの揺れを検知することができ、自動で緊急停止したという。その結果、客を安全な階にすばやく降ろしたことで、幸いにもエレベーターに閉じ込められる人はいなかった。

気象庁でも発表されなかった「観測情報」 なぜ揺れを検知した?

2月1日からは、気象庁は緊急地震速報に「長周期地震動」が予想される地域も対象に加えた。気象庁は被害の程度などをもとに長周期地震動の揺れを4つの階級に分けていて、階級3以上の長周期地震動が予想される地域で、ビルの高層階などに警戒を呼びかける。

しかし今回の地震では、大阪は緊急地震速報の対象にはならなかった。さらに、気象庁が発表する「長周期地震動」の観測情報も、大阪を含む関西では発表されなかった。

ではなぜ、「ハルカス」のエレベーターは自動停止したのか。理由は、超高層ビルが持つ特徴にあった。エレベーターを管理する三菱電機ビルソリューションズによると、建物にはそれぞれ揺れが行き来する「周期」があり、長周期地震動の周期と一致した場合に、大きく揺れる「共振」という現象が起きる。

そのためエレベーターでの「長周期地震動」は、気象庁が発表する「観測情報」とは別に、各エレベーター固有の検知器を用いて計測されるという。結果的に、気象庁では「長周期地震動観測情報」が発表されなかったにも関わらず、エレベーターに備え付けられた検知器で「長周期地震動」が検知され、自動停止したと考えられる。

専門家「事前に止まれば危険をなくすことができる」と指摘

地震の研究を続ける専門家は、危険を察知して事前に停止させることは致し方ないと話す。

名古屋大学・福和伸夫名誉教授:
建物が揺れ始めてから停止すると、閉じ込められる可能性があります。(事前に)最寄り階に止まるのであれば、閉じ込めの危険性をなくすことができる。あべのハルカスでは閉じ込めが生じなかったからこれは大変ラッキーだったなと思います 

一方で、関西でも都市部を中心に高層ビルが建ち並ぶ現在、社会機能を維持するためには利便性とのバランスも必要と指摘する。

名古屋大学・福和伸夫名誉教授:
一回止まってしまったら、誰かが安全性を確認しないと作動できない。安全性と利便性を同時に満足できるようにする。それが世の中に役立つ設備なんだろうなと思います

都会の高層ビルのエレベーターが一斉に止まった時、再開のための安全確認をする保守係員が十分いるとは限らない。なかなか再開できないエレベーターが多数出ることも考えられる。

―Q:南海トラフ地震でも長周期地震動の影響は大きい?
名古屋大学・福和伸夫名誉教授:
東日本大震災の時に震源から放出された周期には、大阪平野が揺れやすいものが含まれていなかったにも関わらず、大阪府咲洲庁舎は往復3メートル弱、揺れました。普通は距離と共に反比例で揺れが減るため、東日本大震災と同じ規模の南海トラフ地震が起きたら、当然大阪の揺れは倍とかではありません。「(高層ビルが)危ない」とだけ恐れるより、よく揺れるという特徴を理解した上で、揺れに対する対策を自分で行ってください。これが都会に住む際のお作法ですね

高層ビルが持つ特徴やリスクを正しく知って、普段から災害に備えておく必要がある。

(2023年9月15日 関西テレビ 鈴村菜央)

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