「森山さんが実質的な党の仕切り役になるだろうな…」
ある自民党関係者は党四役の総務会長に起用された森山裕氏の就任会見を見ながら、こう呟いた。
岸田首相が党内最少派閥の長である森山氏を、総裁・幹事長に次ぐ党のナンバー3である総務会長に抜擢したのには狙いがある。
首相の信頼厚く…変わる「3頭政治」
首相はこれまで、政権運営をするにあたり麻生太郎副総裁と茂木敏充幹事長への相談を重視し、週1回は自民党本部に足を運び3人だけで会談し、意思決定を行ってきた。この様子は共和政ローマで3人の実力者が実権を握った寡頭政治体制になぞらえ「3頭政治」と呼ばれてきた。

一方、森山氏は、これまで党四役の選挙対策委員長を務めながらも、この3頭政治とは一定の距離を置き、非主流派の代表格・菅前首相や二階元幹事長とのパイプ役になってきた。当初、岸田首相としては、非主流派の反発を最小限にとどめたい狙いでの、森山氏の配置だった。しかし、森山氏は選対委員長として、衆議院小選挙区の区割り変更、いわゆる“10増10減”に伴う候補者調整に尽力した他、歴代最長の国対委員長在任時に培った網の目の人脈を生かし、高木毅国対委員長に度々助言を行い、国会運営にも影響力を発揮した。また、6月には衆議院解散を首相に直言するなど存在感を高め、「人脈が幅広くバランス感覚に優れ、実務能力が高い」(首相周辺)と評価を上げた。
そして、「ポスト岸田」を視野に入れる茂木氏の言動に首相が苛立ちを募らせ「3頭政治」に疑心暗鬼になるのとは対照的に、その穴を埋めるかのごとく、首相は森山氏への信頼感を高めた。

その結果、岸田首相は今回、森山氏を総務会長に抜擢した。総務会長は、自民党に常設される最高意思決定機関「総務会」のトップで、国会に提出する法案や党務に関する案件は全て総務会の了承を経なければ決まらない。森山氏は、幹事長の下で選挙の実務のみを仕切る選対委員長よりも、さらに明確な権限を手にした形だ。
今回の人事でも麻生氏、茂木氏は続投し「3頭」の形は維持されるが、森山氏の昇格で、「これまでとは構図が変わる」(自民党関係者)可能性がある。
ある自民党のベテラン議員は、「岸田総理は『3頭政治』を継続させながら、『森山ルート』で独自に情報収集し、自分で最終判断するのだろう」と強調する。今回の人事のポスト調整をめぐっても森山氏は「非主流派」の重鎮議員らと頻繁に連絡をとり、岸田首相に状況を伝えた。実際、首相周辺は「表では麻生さんや茂木さんとよく会っているが、電話でやりとりしている回数が圧倒的に多いのは森山さんだ。総理は党幹部の中で一番、森山さんを頼りにしている」と話す。
党のあちこちに打たれた「くさび」
こうした“くさび人事”は森山氏だけではない。新たに党四役に抜擢された小渕優子選挙対策委員長と、幹事長代理に起用される首相の側近・木原誠二前官房副長官の存在だ。この2人は、「ポスト岸田を狙う茂木幹事長へのわかりやすい“くさび”」(自民党関係者)とみられている。

岸田首相はもともと茂木幹事長の交代を検討していたものの、麻生副総裁の意向を聞き入れ留任させた。ここで首相が打った手が、同じ茂木派の小渕氏の起用だった。茂木氏が幹事長を務める体制の中で、党四役に同じ茂木派の小渕氏を起用するのは異例のことで、将来の首相候補とも言われている小渕氏の存在は茂木氏への明らかなけん制(自民党幹部)だ。

一方、木原氏は岸田首相のブレーンとされ、少子化対策など政権の重要政策の決定にど真ん中で関わってきた。その木原氏が今回就任する幹事長代理は、その名のとおり幹事長の代理であり、本来は茂木幹事長を支える役職だが、ある自民党の中堅議員は「実態は『茂木さんの監視役』だ」と断言する。
森山氏、小渕氏、木原氏という、打たれた“3つのくさび”。
来年9月には、岸田首相が就任時に決めた党役員の「連続3期まで」という任期規定により、副総裁の麻生氏と幹事長の茂木氏の任期は満期を迎えるため、2人は自動的に今の役職から「退任」となる。
ここからの1年で、岸田首相の党に対するアプローチがどのように変容するのか注目だ。
(フジテレビ政治部)