開催まで600日を切った大阪・関西万博。世界中から153の国と地域が夢洲に集まる。日本館の建設がスタートする中、問題になっているのが海外パビリオンの建設問題だ。本当に間に合うのだろうか?

パビリオン建設中の国はいまだゼロ…

大阪・関西万博の目玉は、世界各国が文化や技術を発信する拠点、「海外パビリオン」だ。前回のドバイ万博でも、来場者は各国がこだわった独創的なデザインにくぎ付け。現地を視察した大阪府の吉村知事も、「万博の華」となる「海外パビリオン」に大きな期待を寄せていた。

大阪府・吉村洋文知事:
本当に面白いなと思いました。個性的なパビリオンが多かった。それぞれの国で外観も含めてすべて作ってもらうのがAタイプなので、できるだけ“Aタイプ”に。個性的なパビリオンを作っていきたいという国をできるだけ早くフィックス(確定)させていきたい。

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「タイプA」とは、参加国が独自で設計して建築を行うパビリオンのことだ。主催者が建てた施設を借りて外装や内装の工事などを行う「タイプB」や、それを複数の国で共同で使用する「タイプC」よりもオリジナリティを出すことができる。

2025年の大阪・関西万博でも60 カ国が「タイプA」での出展を表明。各国は準備を進めていた。

イタリアの担当者(去年10月):
まさに今入札を始めようとしているところです。来年(2023年)のはじめにはパビリオンのデザインを決めないといけない。

アゼルバイジャンの担当者(去年10月):
非常にワクワクしています。今は複数の会社とパビリオン建築のことやデザインのことを詰めています。

しかし8月31日、首相官邸を訪れた吉村知事と横山市長が伝えたのは海外パビリオン建設の遅れだ。

大阪府・吉村知事:
海外パビリオンAタイプがタイトになっている。

現在、会場の夢洲で建設を始めている国はゼロ。それどころか、タイプAで出展する60カ国のうち、なんと46カ国が建設業者すら決まっていない状況なのだ。

岸田文雄首相:
海外パビリオンの建設について楽観できる状況にはありません。極めて厳しい状況に置かれている。

なぜこんなにも建設が遅れているのだろうか。その背景には、建設資材の高騰や人手不足、そしてドバイ万博がコロナの感染拡大で1年延期されたため、通常の万博よりも工事期間が短く、建設業者が工事の受注をためらっているという現状がある。

60年前も同じ問題が発生!当時の大阪万博はどうなった?

「人類の進歩と調和」をスローガンにして大成功した1970年の大阪万博。当時、企業パビリオンを出展していた大阪市・中央区の理美容機器メーカー「タカラベルモント」で、2023年4月、倉庫を整理していた時に出てきたのは、大阪万博を専門に報じていた新聞「SUNDAY EXPO」だ。

発行日は1968年7月7日で、万博開催の約1年半前。ちょうど今と同じ時期に報じられていたのは、「ベタ遅れ会場建設」、「入札不調」、「人手不足!」など。政府代表者会議に参加した海外の担当者からは「ニッポンケンチクヒガタカイデスネ」と、何やら見覚えのある言葉の数々が並んでいた。

当時、オイルショックを前に建築資材の価格が高騰し、万博以外でもあらゆる工事が入札不調に。大阪万博もその影響を受けて、今と同じような課題を抱えていたのだ。

タカラベルモント広報室・石川由紀子さん:
びっくりすることに、本当に2年前のタイミングでいろいろ世の中に報道されていることと全く同じことが書かれていて。万博をやるっていうことは時代を経ても本当に大変だし、同じ苦労を先人たちも抱えていたんだなということがよく分かりましたね。

準備に難航しながらも、無事開催された1970年の大阪万博。しかし、建設業界は今回の万博に際し、当時にはなかったある深刻な問題を指摘する。

日本建設業連合会・宮本洋一会長:
(工期が)ぎゅっと短くなるので、頭数がものすごく必要になる中で、「2024年問題」を本当にクリアできるかはわからない。

建設業界の「2024年問題」。労働環境を改善するため、来年度から適用されるもので、長時間労働の上限に規制がかかる。そのため、昔のような夜通しでの突貫工事はできない。さらに、「夢洲へのアクセスの悪さ」が追い打ちをかける。夢洲へのアクセスは橋とトンネルのみ。一斉に工事が始まると渋滞が起きる可能性が懸念され、建設が始まったとしても、開幕に間に合うという保証はないのだ。

こうした状況に、博覧会協会も危機感をあらわにしている。海外パビリオン建設への協力を求めて今年8月、建設事業者などに向けた説明会を実施。しかし、そこで明らかになったのは「スケジュールの甘さ」という初歩的な問題だった。

大阪府内の施工業者:
皆さん思われている不安事項というのは共通しておりまして、スケジュール感がはっきり出てきていないということ。物事が決まっていないので、こちらも段取りを踏めない。

9月1日、博覧会協会の石毛事務総長は「年末までの着工で間に合う」としていた今年7月中旬の発言を修正した。

日本国際博覧会協会・石毛博行事務総長:
今の建設事情のひっ迫状況からはとにかく急いでくださいと、とにかく早く工事に着手してくださいと。

「タイプX」はただの倉庫!?ゼネコンも困惑

開催まで時間がない中、博覧会協会が苦肉の策として出してきたのが「タイプX」という案だ。博覧会協会がプレハブのような建物を造り、内装や外装は参加する国が独自にデザインする方法だ。2005年の愛知県の愛・地球博のアメリカ館や、去年のドバイ万博の日本館も同じ方法で造られた。しかし、タイプXについても、関係者の間で懸念が浮上している。

日本国際博覧会協会・石毛博行事務総長:
タイプXは協会が建設する施設に参加国が内装・外装などを自ら行うパビリオン。一定の外装工事を施すことで建築の魅力を増したパビリオンとなる。

博覧会協会が各国に提案した「タイプX」。建設が進まない現状を打開するかと思われたが…

タイプAで出展するA国の担当者:
ここまでタイプAを目指して準備を進めてきたことが無駄になる。

タイプAで出展するA国の担当者:
タイプXはパビリオンではなく“倉庫”です。私たちの国が表現できない。

協会は8月末までの回答を求めていたが、現時点で「タイプX」に関心を示しているのは、60カ国のうち、わずか5カ国のみ。参加国の「タイプA」へのこだわりはいまだ強く、工事期間の短縮にはつながっていない。

さらに、複数のパビリオン建設に携わる神戸の設計事務所は、協会から突然「タイプX」の提案があったことで、「タイプA」の工事を受けようとしていた建設業者が撤退してしまったケースがあったと明らかにした。

海外パビリオンを設計 トリーニ・ヤコポさん:
契約の前日くらいで、システム建築(=タイプXで)何とか間に合わせるから(協会が建設を)代行しますと発表があったんですよ。また全部振り戻されて。

今年に入り、政府からも建設業者に対して複数回、協力を要請。建設業者は、開幕に間に合わないリスクもある中で、なんとか引き受けようとした矢先のことだった。

トリーニ・ヤコポさん:
ゼネコンは(政府から)背中を押されていたのに、他の解決方法を協会が提案しているのであれば、我々は無理して参加する必要はないと。必要とされないから勝手にどうぞと。

設計士のヤコポさんは、博覧会協会に、その場しのぎの提案だけではなく、参加国と建設業者をつなぐ役割を果たしてほしいと話す。

トリーニ・ヤコポさん:
整理されていない中途半端な情報がたくさんあって日本の建設会社が混乱している。伝言ゲームのように外国はその半分くらいしか理解できないし、悩ませる情報を流してほしくない。

海外の主要な60カ国はタイプAのパビリオンを造りたいと思っていたが、博覧会協会のスケジュールの甘さや日本の建設業者と間を取り持つ役割を上手く果たせず、結局、建設業者が魅力を感じないタイプXを博覧会協会が提案することになった。

関西テレビ・神崎博解説デスク:
原因の遅れの1つとしては「博覧会協会の調整不足」が指摘されています。各国の「Aタイプで造りたい」との意向と、日本の建設業者が「(Aタイプは)人手も時間もかかる」という考えのミスマッチを、本来は博覧会協会が間に入って、調整する役目が求められていましたが、十分に機能しないままスケジュールが押してきました。その中で博覧会協会がタイプXという新しいアイデアを突然持ってきたため、現場が混乱しています。

3Dプリンタも登場!「低コスト」でも独自のパビリオンに

参加国を取材すると、低コストでも独自性のあるパビリオンをつくろうとしている国もあった。イタリアは木造の大規模な簡易パビリオンを採用する予定で、大阪の企業が技術開発している。
また、数カ国が検討しているのは、3Dプリンタでパビリオンの外装を作る計画で、兵庫県の企業が技術開発している。
混乱を乗り越えて、無事に大阪・関西万博は成功するのか、注目される。

(2023年9月11日 関西テレビ「newsランナー」放送)

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