前人未到の八冠制覇をかけて、藤井聡太七冠が永瀬拓矢王座に挑む王座戦。その第2局は、藤井七冠が勝利して通算成績を1勝1敗のタイに戻した。

この第2局が行われていた12日、「イット!」では元女流棋士の竹俣紅キャスターが、藤井七冠の“予想外の作戦”について解説した。

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「右玉」という戦い方を採用

12日午前9時、神戸市のホテルオークラ神戸で、王座戦5番勝負の第2局が永瀬王座の先手で始まった。

藤井七冠は王座戦に勝利すれば、2017年に現行の八大タイトル戦になってから初の全冠制覇に。一方の永瀬王座はタイトル防衛を果たせば、史上3人目の永世称号である名誉王座となる。

両者にとって絶対に負けられない戦い。8月に行われた第1局は、永瀬王座が勝利。第2局は、藤井七冠にとって負ければ後がなくなる対局だ。

今回も、藤井七冠の得意とする角を交換して戦う「角換わり」という戦型になった。

ただ、その「角換わり」の中でもいろいろ戦い方があり、藤井七冠は「右玉」という戦い方を採用した。藤井七冠がこの戦い方を採用するのはかなり珍しく、早々に右玉にするのはほとんど初めてに近い。

将棋では、強い駒である飛車のいるところが戦場になりやすく危ないので、自分の玉は自分の飛車から遠いところに配置する場合が多い。

しかし、この「右玉」という戦い方は、盤面の右側に自分の飛車がいるにもかかわらず、玉も右側に配置する戦い方だ。

この「右玉」は、角換わりを指すプロ棋士の間では、最近注目されていた戦い方でもあった。

「右玉」は「千日手」になりやすい

なぜ注目されているかというと、「千日手」になりやすい戦い方ともいわれているからだ。

千日手は、同じ局面が4回現れることで、基本的には引き分けとなる。

しかし、プロの将棋では引き分けにせず、先手と後手を入れ替えてもう1度対局する指し直しになる。

そもそも、将棋の世界では先手が少しだけ有利とされている。

さらに、藤井七冠が得意な「角換わり」戦型にする棋士の間では、特に先手が有利とされている。

そのため、藤井七冠としては、後手の際に右玉にする作戦を取ることで千日手として先手をゲットしたいと思ったのかもしれない。

永瀬王座は千日手を得意としているため、永瀬王座が後手の際に千日手を狙う作戦を取ることは想定されていた。しかし、藤井七冠がこの作戦を取ることは想定外だった。

藤井七冠としては、永瀬王座のことをかなりの強敵と認定していて、先手後手に関わる作戦をしっかり立ててきたといえる。

藤井七段の先手勝率100%が崩れる

なぜ、ここまでするかというと、藤井七冠が先手の勝率にある。

藤井七冠の王座戦第1局の対局前までの通算成績は、後手でも勝率77%(160勝46敗)と非常に高い勝率だが、先手での勝率は驚異の89%(176勝21敗)だ。

さらに、2023年度は先手での勝率は100%とすさまじい強さを誇っていた。

第1局で先手の藤井七冠を相手に永瀬王座が勝ったことで、先手勝率100%がついに崩れた。しかも第1局の内容は、藤井七冠がなにかミスをしたということではなく、永瀬王座の強さで押し切ったような将棋だ。

そして12日の対局でも、藤井七冠が想定外の右玉を採用したが、永瀬王座は持ち時間をあまり使わずに次の手を指した。

つまり、藤井七冠の想定外の作戦さえも永瀬王座は想定していたかもしれない。

永瀬王座は先日、藤井七冠のことを「人間だと藤井七冠に勝てるとは思えないですよ。人間を辞めないと無理ですよ。人間の枠から超えた存在にならないと」と語っていた。

しかし、永瀬王座は人間の枠を超えつつあるのか、第1局での勝利や今回の藤井七冠の右玉も想定できたのかもしれない。

ただし、藤井七冠も人間離れしていて、タイトル戦で連敗したことが1度もない。

負けたら、次は必ず勝つ。

第1局で藤井七冠の2023年度先手勝率100%を崩した永瀬王座だが、第2局は藤井七冠が勝利。タイトル戦連敗ゼロを崩すことはできなかった。
(「イット!」 9月12日放送より)