80年ほど前の太平洋戦争の頃に製造された旧日本軍の戦車が戦後、ブルドーザーに改造されて北海道の開拓などで活躍してきた。その改造ブルドーザーの「最後の生き残り」とみられる1台が静岡県御殿場市に到着した。日本の戦車を集める博物館での展示をめざす。

「令和の時代まで残っているとは」

御殿場市に到着した改造ブルドーザー(2023年9月10日)
御殿場市に到着した改造ブルドーザー(2023年9月10日)
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2023年9月、富士山の麓の街・御殿場市に、大型トレーラーに積載された改造ブルドーザーが到着した。北海道からフェリーと陸路で運ばれてきた。
2027年に御殿場市で日本の戦車を展示する博物館のオープンをめざしているNPO法人「防衛技術博物館を創る会」が、北海道の所有者から譲り受けた。「創る会」代表で、自動車整備工場を営む小林雅彦さんが、分解されて運ばれてきたブルドーザーをエンジニアたちと組み立て試運転をした。

試運転をする小林さん
試運転をする小林さん

小林さんによるとエンジンを昭和30年代に、油圧システムを昭和40年代に入れ替えてあるそうだが、その性能については「すごくゆっくり動いて、踏ん張りがきいて力がある。戦車からブルドーザーとして使うために改造したのだろう。細かい方向修正ができるようになっていて、動かしていておもしろい」と評価する。

試運転をする小林さん
試運転をする小林さん

防衛技術博物館を創る会・小林雅彦代表理事:
おそらくこれが最後の生き残りの1台、これ以外はもうおそらく全部鉄くずになって無くなっている。まさか令和の時代まで残っているとは思わなかったので、本当にびっくり。奇跡的だ

GHQが改造を認めた更生ブルドーザー

九五式軽戦車(2023年4月のお披露目会)
九五式軽戦車(2023年4月のお披露目会)

もともとは日本陸軍が1935年に採用した小型の戦車「九五式軽戦車」だ。日本の戦車としては最も多い2300台以上が生産された。
小林さんによると、戦車を製造していたメーカーが戦後にGHQにお願いして、使わなくなった戦車をブルドーザーに改造したそうだ。当時、“更生ブルドーザー”と呼ばれた。戦闘に使ってきたものを、生活再建に使うようになったため、その姿が「心を入れ替えた」ように見えたのだろうか。

改造ブルドーザーの車輪
改造ブルドーザーの車輪

戦車・装甲車・牽引車など数百台が改造され、ビルや道路の建設現場やダム工事、田畑の開墾などに使われた。しかし、高度経済成長に向かう昭和30年代からは国産のブルドーザーやアメリカの中古品が出回り、さらに鉄くずの値段が高騰したため、ほとんどが鉄くずとして処分してしまったという。
小林さんは10数年前に改造ブルドーザーのことを調べ探していたが、このほどようやく、北海道の所有者から譲り受けることができた。つい最近まで除雪や整地で活躍していたものだ。

博物館めざし英国から戦車の里帰り

試運転する小林さん
試運転する小林さん

小林さんは自動車修理業を営む家に生まれ、機械に囲まれて育った。また故郷の御殿場には東富士演習場や陸上自衛隊駐屯地があり、子供の頃から戦車に憧れていた。
「機械技術遺産として防衛装備を後世に残したい」と、日本の戦車を展示する博物館の創設をめざしている。

里帰りした九五式軽戦車(2023年4月)
里帰りした九五式軽戦車(2023年4月)

九五式軽戦車のうち世界に残った動態展示できる2台のうち1台を、NPO有志の寄付やクラウドファンディングでイギリスから里帰りさせた。

里帰り戦車のお披露目会(2023年4月)
里帰り戦車のお披露目会(2023年4月)

2023年4月に御殿場市で開かれた「お披露目会」には、クラウドファンディングに応じた約600人が集まり、里帰りを熱狂的に祝福した。
戦車博物館には100年前のものから、自衛隊の最新式まで展示する計画だ。改造ブルドーザーは、戦後の製造の空白期間を埋める“つなぎ”の役割を果たしてくれると期待する。

「日本を作ってくれた人の思いを」

改造ブルドーザーの組み立て
改造ブルドーザーの組み立て

改造ブルドーザーには復員してきた戦車操縦技術のある人たちが乗り、10数年にわたりビルや道路やダムの工事現場、開拓地などで働いていたのだろう。今も私たちが使っている生活のインフラを作ってくれたのかもしれない。

改造ブルドーザーの運転席
改造ブルドーザーの運転席

小林さんは「戦車は守ってもらう側から見ればスーパーマンだが、攻められる側から見ると悪魔だ」という。使い方で人を楽しませる道具にも傷つける道具にもなる包丁に似ているかもしれない。戦車が大砲をとってブルドーザーになってから日本中で活躍したことを知って、思いをはせてもらいたいことがあるという。

改造ブルドーザーの試運転をする小林さん
改造ブルドーザーの試運転をする小林さん

防衛技術博物館を創る会・小林雅彦代表理事:
機械には意思もないし心もない。ただ使った人の思いがあるだけ。改造ブルドーザーには戦後の日本を作ってくれた人たちの思いが詰まっている。これを見て自分なら子供たちの未来のために何ができるか考えてもらえれば

形を変えて戦後の日本の復興を支えてきた戦車。
小林さんたちは有識者などの意見も聞いて塗装をし直し、博物館に展示する計画だ。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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