7月末に捕らえられたヒグマが、DND鑑定の結果、66頭の牛を襲った謎のヒグマ「OSO18」だと判明した。Mr.サンデーはOSO18を追った人々を取材。住民たちを震撼させた“怪物”の誕生の裏には意外な真実が隠されていた。

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ここ2年、北海道の厳しい雪山に分け入ってはひたすら歩き続ける男たちがいた。彼らが、辿り続けていたのは、熊の足跡だ。

手がかりは18㎝の足跡だけ

「大熊ではない…大熊ではない」

「うん、でも大きくはないわ…」

当時を振り返るのは、「OSO18」特別対策班リーダーの藤本靖さん(61)だ。

「OSO18」特別対策班リーダー 藤本靖さん:
よくヒグマ猟をする場所があるんですけれども。そういったところからスタートして。手がかりは18cmの足跡ということだけだったので…

手がかりは「18cmの足跡」。

そう、彼らが追い続けていたのは、ここ4年もの間に32頭もの牛を食い殺し、住民を震え上がらせていた「OSO18」

初めての被害が「オソツベツ」で出たこと、足跡の幅が18cmだったことから「OSO18」と名付けられたヒグマだった。

しかし、その行方を追って見えてきたのは、OSO18という「モンスターベア」が生まれた意外な背景だった。

牛を襲うヒグマ「OSO18」は人間が生み出した…!?

2019年7月16日。恐怖の始まりは、4年前の7月、標茶町()のある牧場で一頭の牛が、ヒグマに内臓を食い荒らされ、殺されていたことだった。

異例の事態にすぐに、牛などに付着したクマの体毛からDNA鑑定を実施。

一体、なぜ、そこまで一頭のクマを特定することに拘ったのか?と言えば、答えは、一度肉の味を覚えたヒグマは、再び動物を襲うことがわかっていたからだった。

なにせ、被害の出た標茶町は、人の数よりも牛の方が多いと言われる酪農の町。
農家にとって、大切な牛に被害が出ることはまさに死活問題だったが、罠を仕掛けても、牧場で見回りをしても、それから一月も経たぬうちに牛たちは、8頭、4頭、また5頭と襲われた。

2021年9月までの2年あまりで、実に57頭もの牛が被害にあうと、震え上がった酪農家たちは、クマの嫌いな人間の声が24時間響くよう、牧場内にラジオを設置した。

OSO18の被害にあった佐藤農場 佐藤守さん:
これ、車のバッテリーとラジオをつけて製作した24時間鳴らしてるラジオです。

大金をかけ、広い牧場をぐるりと囲むように電気柵を設置していったが…

OSO18の被害にあった厚岸町営牧場 櫻井唯博さん:
(電気柵は)全長で28キロ分ですか…管理しないといけないので結構な手間。

OSO18と名付けられたヒグマは罠にかかるどころか人前には、その姿すら現さない。

当時、取材に答えた猟友会の後藤氏は「我々より、よほど頭の良い熊なんだろうな。それこそよく“忍者熊”って言われている」と話した。

まさに、見えざる敵にお手上げの状態だった。

広大な敷地から一頭の熊を探し出す難事業

そこで、2021年の秋、北海道庁の釧路総合振興局が最後の切り札として頼ったのが、藤本靖さんだった。

道職員「藤本さん、もうあなたしかいないんだ。なんとかOSO18を捕獲してほしい」

藤本さん「う〜ん、そう言われても…」

藤本()靖さん()、61才。ヒグマの生態研究では右に出る者がないと言われる男だった。

では、なぜ、はじめは渋ったのか…?

「OSO18」特別対策班リーダー 藤本靖さん:
あれだけ広大な面積になるから、一匹探せとか無理だよ。あの広い中を俺たちがさまよって歩かなきゃならない。

被害が出ている地域はまさに広大。例えば、東京23区を並べると3つも入ってしまうような地域の中からたった一頭の熊を探し出すという難事業だ。

しかし、藤本さんは…

「わかりました。でも、せめてハンターは私に選ばせてください」

藤本さん:
やろうっていう判断したのはやっぱり「農家が困ってるんですよ」って一言に尽きます。

そんな覚悟をした上で…

藤本さん:
日頃からヒグマ猟をしているハンターの知見を生かして、熊をなんとか捕獲に結びつけようってということで。

ヒグマ猟のベテランばかり10人を選び出した。
その中のひとり、赤石正男さん(71)さんはこれまで、130頭以上の巨大グマを仕留めてきた藤本さんの信頼が最も厚いハンターだ。

そんな男が、まず進言したのは…
「まず初めからまるっきりやり直ししなかったら、何年も追われてすごくずるくなった熊だから…」。

これまでのやり方を一切捨て一からOSOを追いかけることだった。

そこでチームは、まず広大な地域のなか、OSOがねぐらにしていそうな場所を4つに絞り、その一つ一つを足で潰してゆく。

「OSO18」特別対策班リーダー 藤本靖さん:
だって消去法でやるしかないでしょ?何もないんだよ。どうやって捜す?

特に、雪山は足跡が残りやすいので、くまなく歩き回り、そのサイズを測ってみるが…

藤本さん:
18㎝の足跡の熊3頭分見つけて、それをちゃんとDNAでサンプルとったんだけど、それは違った。だって、足跡何個見つけてると思ってるんだよ。半端でない数見つけてんだぜ。

また、新たな被害が出ると、その牧場と森との間にOSOが通ったであろう道を想定。
クマが木に背中をこすりつけマーキングする習性を利用し、OSOが背中をこすりつけそうな木に「ヘアトラップ」という体毛をひっかける有刺鉄線を巻き、その前にカメラを仕掛けた。

その映像を確認すると…

「おおっ!」カメラには、巨大なクマが度々映るものの…

藤本さん:
ヘアトラップで出てきたのは、OSOじゃないでかい熊ばっかり。違う熊ばっかり出てきた。

一体、なぜなのか…?
カメラは全て、かつて被害にあった場所への通り道に設置しているのに、なぜ肝心のOSOだけが映らない…?

OSO18だけがカメラに映らない理由とは…

「待てよ、もしかして…!」藤本さんが思い当たったのは…

「あの〜、被害にあった牛の周りってどれだけの人間が出入りしてますか…?」と尋ねると、農家からはこんな答えが返ってきた。
「そりゃあ取材の人は来るわ、罠を仕掛けに来る人もいるし、そのあとは見張りもつけたし、相当な数だわなぁ」

「やっぱり…」

藤本さん:
あ、これじゃOSOもう来ないわって思った。

ーーそれはなぜですか?

藤本さん:
山ほど人が現場にいたから。そこに人の匂いがもう散々まき散らしているわけだから。何十人もでそこを見張ってたり。

「OSO18」特別対策班ハンター 赤石正男さん:
メディアだとかがみんな行って写真撮ったりなんかして匂いつけるから、全部ばれちゃって、もうこない、二度と。

藤本さん:
ここ行ったら危ないっていうのをクマに教えてしまった。忍者にしたのも人間

そう、次の被害を防ぐための見張りも、罠も、さらには被害を伝えるマスコミも…

藤本さん:
みんな苦労して苦労して(対策を)やっていたんだけど、結局それが熊を近づけないことになってしまっていて。

ーー熊って鼻がいいんですか?

藤本さん:
犬の5倍とか10倍とかって言われています。で、案の定(OSO18は)来ない…。

そこで、藤本さんは農家の人たちにこう伝える。
「みなさん、もし次に被害が出たら、現場には絶対に人を寄せ付けないよう、厳重に通告してください」

藤本さん:
だから、2回目の被害現場以降は『必要最小限以外の人間を入れるな』という指示を出した。途端に熊がまたすぐやってきた。

そう、チーム結成後2度目の被害が出ると、今度は、現場に近づく人間を最小限にしたことにより見事、カメラでの撮影に成功。
今度こそ捕獲できると、罠を仕掛けた。

これがその実際の映像だ。

OSOが通ったと思われる場所に「くくり罠」と呼ばれるトラップを仕掛けてゆく。

その音声をよく聞くと、赤石さんが「匂い、あんまりつけたくないから…人間の匂い」と、細心の注意を払っていることがわかる。

ちなみにこの「くくり罠」、穴を掘りスイッチとなる板を乗せて隠すと、そこにクマの足が乗った瞬間…「バシン!」と周囲のワイヤーが、足を捉えるというもの。
その速さは…

「OSO18」特別対策班リーダー 藤本靖さん:
罠が跳ね上がるスピードだとか、いろんなことを超スピードアップしていくから、OSO専用に改良した罠を使ってるから。

OSOと言えど絶対に逃げられないものだった…のだが、なんとこの仕掛け、実際に、クマが足をかけた痕跡はあるのに、なぜか周囲のワイヤーが作動せず。

藤本さん:
本当は(その時)終わってたんです。普通だったら。

とは言え、確実にOSOには近づいている。
次こそは仕留められると再び被害現場付近の森に入った藤本さんは、そこで奇妙な事実に気づく。

「どうして、こんなに鹿の死骸が多いんだ…!?」

鹿の死骸が急増…OSO18につながる悪循環

そう、OSOの被害にあっていた標茶町と厚岸町はここ数年、シカの数が増加し、農作物の被害が深刻化。増えたエゾシカを狩猟するために、道外からもハンターが押しかけると…

2022年には、こんなニュースまで流れていた。

アナウンサー(当時の映像):
こちら、鹿の毛のかたまりや、骨とみられるものがあたりに散乱しています。このような鹿の死骸の一部がこの先100mほどまで拡がっています。

厚岸町の国有林で確認されたのは100頭以上の鹿の骨や皮。何者かが角や肉以外の不要な部分を不法投棄したとみられるという。

実は、これほど鹿が多くなった原因がある。

「デントコーンか…」

このエリアでは、酪農用に質の良い牧草地を開拓。そのため、牧草を食べるエゾシカが増殖した。
さらに、近年では海外から輸入していたデントコーン、すなわち「飼料用のトウモロコシ」を地域で作り始めると、これも餌になり大量のエサでエゾシカは増殖したのだ。

その増えたエゾシカを狩猟するためにハンターが各地から集結。
鹿を撃った一部のハンターは金になる角や肉だけを持ち去り、あとの部分は現場に捨ててゆく。

それこそが、OSOが牛を襲うようになってしまった本当の原因だったのだ。

「OSO18」特別対策班リーダー 藤本靖さん:
(捨てられた)エゾシカを熊が食べる。それの繰り返し。ラクしてここに行きゃ、鹿があるぞって覚えたら毎日行くじゃん熊だって。人間も同じでしょ。ラクして食いたいんだよ。熊も同じ。ラクして食う。デントコーンもあそこに行きゃたらふく食える。もう覚えてる、熊。エゾシカの捨てる場所、ここにあります、熊が覚えてる、たらふく食える。

こうして、肉の味を覚えてしまった熊は…

藤本さん:
そこの場所に(鹿を)捨てていない時に、牛を襲っているんです。なんでOSOが鹿を主食にしてしまったかっていう背景は人間なのさ。それがOSOを作り出した原因。

赤石さん:
あれは完全に人間が作り出した熊だから。

なんとショッキングで、皮肉な話だろう。

家畜を飼うために牧草やデントコーンを作り、それを食べて増殖した鹿で農家が困り、今度は、ハンターが不法投棄した死骸でクマが肉の味を覚え、最後に、牛を襲われた酪農家が怯えるという悪循環。

ということは…

ーー第二、第三のもっとすごいOSO18って出てくる?

藤本さん:
(出ると)言ってる俺は。まだ熊が自分たちで気づいてないから、気づいたらすぐなる。牛の方が楽だっていうのは…。

結局、2023年7月、OSO18は、なぜか人前に堂々と現れ、地元のハンターに射殺された。
その姿は想像以上に痩せ細り、胃にはなんの残留物もなかったという。

あれほど、賢く人間を避けてきた「OSO18」がなぜ、人前に現れたのか…?
その理由は、今も分かっていない。

赤石さん:
人間の匂いが大嫌いだし、獲物自分で捕って、そこに人間が来たら二度と来ないっていうすごい熊だった。それが簡単に捕られるっていうことは、どうしたもんかねと思ってるけど…。

しかし、もう光が灯ることのない瞳を見ていると、OSOは、人間の身勝手さを私達に突きつけに来たのかもしれない。
(「Mr.サンデー」9月10日放送)

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