「安くてありがたい学食や給食」…社会の持つそのイメージが、給食業者を追い詰めているのかもしれない。物価高騰などによって“安すぎる”ことが破綻を招き、波紋を広げた「ホーユー」。営業停止から1週間を振り返る。
生徒「学食が元通りに戻ってほしい」
広島県内各地の学校の給食や寮の食事が提供されなくなってから1週間。食堂を運営していた「ホーユー」の従業員などへの取材から、事態の背景が徐々に明らかになってきた。
9月7日早朝。庄原市のコンビニエンスストアに立ち寄り、食事を調達する学校関係者。
この記事の画像(53枚)学校の寮では眠い目をこする生徒たちが食事を受け取る。
西城紫水高校の生徒:
食堂が元通りに戻ってほしいですね
また、神石高原町にある県立油木高校では7日から地場スーパーの「エブリイ」のグループ会社が弁当の提供を始めた。以前から神石高原町と連携協定していた縁もあり、当面の間、昼食分を担うという。
油木高校・藤井啓二 教頭:
学校周辺に食べるところがないので本当に助かっています
一方、寮の厨房(ちゅうぼう)を見せてもらうと、冷凍庫には食材がビッシリと残ったままだ。
従業員「現場から何度も声をあげた」
こうした中、取材班は広島県内の食堂で働いていた「ホーユー」の従業員に話を聞くことができた。
ホーユーの従業員:
9月1日にパートリーダーさんから連絡があり、「もうお昼の準備はやめてすべて廃棄だ」と。もう片付けて従業員は自宅待機するようにと話がありました。私たち従業員も知らないことを報道で見る。実際、現場から見て「いや、でも…」と思うことがものすごくあった
数年前から調理員として働いていた女性は、今回の事態は“起こるべくして起きた”と考えている。
ホーユーの従業員:
業者さんたちが「ホーユーには気をつけた方がいいよ」って忠告してくださっていたんです。「給与の未払いや業者に対しての未払いがあったんだ」と
実際、本社と現場の距離感は遠く、研修などもほとんどなかったという。
ホーユーの従業員:
ある意味、やりたい放題ですよね。管理できる人が現場にいればいいんでしょうけど、もう現場の人の感覚に任せてるっていうところがあるので
また、今回の事態に発展する前に、現場では“危機感”を感じていた。
ホーユーの従業員:
社長が報道に対し、食材高騰が、人件費がとかいろいろおっしゃっていますが、「本当にこれで大丈夫なんですか」って何度も私たちは現場で声をあげたんです。でも管理栄養士が「そういうふうにやってるんだから、もうそれでいいんじゃないか」という話で。人件費についても、ある時から「4時間勤務から休憩時間15分を引いて勤務しなさい」っていう指示があったり
そして、8月31日に支払われるべき給料が支払われず、会社から送られてきた文書には「国税から消費税の納付を8月31日に強制させられたため、支給が不可能になりました」と書かれている。
文書に謝罪の言葉は添えられていたが、取材した時点で会社からの連絡はない。従業員に対する給料の未払いだけでなく、取引き業者にも代金の未払いがあったという情報も入ってきている。ホーユーに食材を卸していた業者はTSSの取材に対し、7月に納入した商品の代金が8月末に入金される予定だったが、現在も入金がなく連絡もないということだ。
ホーユーに関しては以前から入金が遅れることがあったようで、業者の担当者は「誠意はない。謝罪もない。私たちにもしっかり事情を説明してほしい」と話している。
事態は学校現場で“突然”起こった
さかのぼること1週間。広島県内で影響が一気に広がったのは9月1日の金曜日だった。
男女60人の生徒が寮に暮らす県立三次高校。寮の食堂では、委託業者の「ホーユー」によって週7日(平日は1日3食、土日は1日2食)、食事が提供されていたが、9月1日の昼以降、突如、調理員が不在に。学校側は業者に何度も連絡を試みるが、音信不通の状態が続いている。
生徒:
本当に急だったのでびっくりしました
生徒:
土日は自分で食事を用意しないといけなかった。部活動もありましたし、いつ、どう用意しようって…
山北陸斗 記者:
三次高校の学食です。これまでは、ここで昼食が作られていたのですが、現在はガランとしています
異例事態の中、5日朝、教職員が寮生のためのパンや果物など食材の調達に追われた。カートには大きな買い物袋がいくつも積まれていた。
三次高校・高木優子 事務部長:
生徒が不安に思わないように、早い段階で今後の方向性を示せるように考えています。業者は、これから先どうなるかという説明をちゃんとしてほしいと思います
1人あたりの予算は朝食300円、昼食400円、夕食400円。この緊急事態を知った地元の仕出し屋が“儲け度外視”で協力を申し出た。
仕出し屋 鳩家・平田栄さん:
子どもたちを助けてあげたい。子どもたちにとってご飯が一番でしょう
急すぎる… 臨時休校に保護者も困惑
県内では宿舎のある7つの公立高校が給食調理業務を「ホーユー」に委託。これらの高校では食事を提供できない理由で臨時休校の措置を取ったり、通勤途中に教員が買い出しをするなど、全容がわからない非常事態に混乱が起こった。
別の広島市立高校では、食事の提供がストップした9月1日の昼過ぎに保護者にメールが届いた。
食堂が中止になった高校に通う生徒の保護者:
金曜日のお昼12時を過ぎてから連絡がきた。 「急きょ、本日の食堂の営業が中止となり、食事の提供ができなくなったため、4限終了後に下校させます」と
この高校の校長によると、学校では寮生約70人が1日3食を食堂で食べることになっているが、9月1日の朝食後に、食堂の調理員から「本社から指示があり、昼から食堂の運営ができない」と告げられたという。
昼食には寮生以外の生徒も食堂を利用するため、その日、学校は急きょ、午後から臨時休校の措置を取ったのだ。
食堂が中止になった高校に通う生徒の保護者:
お弁当持参できる子はいいけど寮の子は困りますよね。今後、新しい業者を探して運営していくのかもわからないので…
校長からは「事前の連絡がなく、今後の対応を考えるためにも、提供がストップした段階で正式に連絡がほしかった」と困惑の声が聞かれた。
全国約150施設の半数「やむを得ず…」
突然の営業停止で混乱を招いた「ホーユー」。広島市中区にある本社で、山浦芳樹社長がTSSの取材に応じた。
ホーユー・山浦芳樹 社長:
9月1日の夕方、破産することを決めた。予期せぬ動きがあり、本当に急転直下だった。青天の霹靂だった。廃業せざるを得ないことになったことに対して、学生さんや関係各位に申し訳ないという気持ちはありますけれども、実際このままの考え方でやれば学食も寮食も破綻すると思います
8月下旬まで事業を継続したものの、9月から“やむを得ず事業を休止した”という。
これまで幼稚園や学校、病院などの給食事業を展開。運営する食堂は全国各地に約150施設あり、その半数が営業を中止したという。
沖縄県にある那覇駐屯地の関係者によると、隊員食堂の食器洗浄や清掃業務、給食業務をホーユーに委託していたが、この事態を受けて、隊員がみそ汁やサラダなどを協力して作っているほか、弁当やパンを購入して食事をまかなっているという。
また、秋田県消防学校では5日、ホーユーのパート職員が「本日の昼食をもって給食が停止する」と突然告げ、5日の夕食以降は給食が提供されていない。調理を請け負っている業者とは連絡がつかなくなっている。
愛知県の県立総合看護学校では6月に「リニューアルオープンのため食堂を閉める」と言われ、現在も食堂は閉まったままだ。
取材に対し、ホーユーの山浦社長は「以前は続ける意思があった。9月1日に、どうしようもないね…となった」と話す。
そして6日には…。
若木憲子 記者:
県庁の議会棟の1階に入っている県会グリルもホーユーが運営していました。5日までは営業していたということなんですが、今日は中は真っ暗、営業の中止を知らせる張り紙などもありません
さらに、庄原市にある県立広島大学のキャンパスでも、学生寮の食堂や売店が営業されていないことがわかった。
三次高校など6校は、ホーユーが破産申請の意思を示していることや、今後、食堂の運営ができない可能性が高いことなどから6日、契約の解除に踏み切った。県教育委員会と連携し、今後新たに契約を結ぶために業者を探す予定だという。
物価高騰で「やればやるだけマイナス」
日を追うごとに影響の大きさが浮き彫りになる今回の問題。「ホーユー」についてこれまでの経緯をまとめた。
2023年1月、材料費や人件費の高騰を理由に値上げを申し入れ、当時1日1,050円だった食事代が4月以降は1日1,250円に。値上げ前の1年間は、明らかに質が下がっていたため、学校から質を保つよう求めていた。
8月31日、別件で連絡したがその時点で電話は通じなかった。9月1日、調理員が「本社から指示があり昼から食堂の運営ができない」と告げる。
そして5日夜、TSSの取材に対し、「ホーユー」の山浦社長は今回の事態の背景をこう語った。
ホーユー・山浦芳樹 社長:
広島の落札金額は他の府県と比べると半分以下。全国で一番安い。運営できない金額で平然と落札される。安くしないと学校に契約してもらえない
そして、学校側とのやりとりの“実態”を口にした。
ホーユー側:
物価や光熱費が上がり、給食の現状を維持できないです
学校側:
いいから、それでやって
しかし、給食の質を下げると今度は学生側から「改善してください」と言われる“苦しい状況”にあったと打ち明けた。
ホーユー・山浦芳樹 社長:
物価上昇に沿って料金を上げられなかったら、経営がまわらなくなった。やればやるだけマイナスになる。やむを得ず営業を止めた。学生には申し訳ない
学校や役所に値上げを求めても応じてもらえなかったという。
ホーユー・山浦芳樹 社長:
値上げの申請に行っても「わかった。値上げしよう」という学校や役所はゼロ。食材、電気、最低賃金が上がっても値上げできない。安定的な経営ができる環境をつくっていかないと、われわれと同じことが再度起こるだろう。この先、給食・学食・寮食はなくなっていくかな
破綻増、給食業界の“安すぎる”実態
全国に波紋が広がる「ホーユー」の営業停止問題。給食業界にどのような課題があるのか?実態を追跡すると、ある問題が見えてきた。
日本給食業経営総合研究所・井上裕基 副社長:
全国的にも給食会社の経営破綻が非常に増えていて、その相談が多くきています
ホーユーの営業停止をきっかけに浮かび上がった給食業界の問題点。同業者に実際の様子を聞いた。
同業者:
例えば、警察や留置所の入札は入札する業者がいないという現状もあります。安すぎるからです
しかし、一方では…
日本給食業経営総合研究所・井上裕基 副社長:
契約を取りたいために、採算度外視の価格設定で契約をしてしまっているケースが多数あるのが実情です
そもそも、「給食業」とはどのようなものなのか?
日本給食業経営総合研究所・井上裕基 副社長:
大量調理によって、飲食店や他の業界と違って“安く食事を作るプロフェッショナル”というのが給食業の特徴の一つです
同業者:
学食などでは「人数」ですね。多ければ多いほど利益を出しやすいが、20人~50人となると、それなりの単価をもらわないとなかなか経営は難しい
「学食は安い」イメージにも問題
また、学生食堂や社員食堂に対する「イメージ」にも問題があるという。
日本給食業経営総合研究所・井上裕基 副社長:
消費者側においても「給食は安くて当たり前」という風潮があるのも事実で、これも問題だと思います
このイメージが料金設定を低くしなければならないという環境を作り上げている。しかし、食堂の運営は弁当の仕出しなどに比べるとコストがかかる事業だ。
同業者:
学食は安いというイメージ、それは多分もうなくなっていくと思います。現地で人が調理して、温かい食事を提供…というスタイルは、今後はなかなか難しくなっていくのではないか
この状況に、2022年から続く物価高騰が業界を直撃した。
同業者:
戦争やコロナ禍で、当社でも原材料費や光熱費だけで5%上昇しています。その売価転嫁ができているのかというと問題があります
前述の通り、ホーユーの山浦社長も「物価上昇が続く中でも運営できないような安価で平然と落札される。安くしないと学校に契約してもらえない」と話している。これは事実なのだろうか?
ーー200円台や300円台の予算でできますか?
同業者:
できないです。当社だったらその仕事は受けない。普通の判断であればそこは受けない。交渉しないといけなかったと思います
しかし、一度受けてしまうと交渉で値上げをしてもらうことは難しいと話す。
同業者:
それが当たり前という商習慣。「そうだったでしょ」みたいな。でも世の中はどんどん変わっているので変化に対応していかなければいけないが、実際は変化に対して難しいところがあります
今回のホーユーの営業停止問題を同業者はこう分析する。
同業者:
おそらく入札系の仕事、学食や自衛隊などの仕事が多かったのだと思う。そうなると、大きい規模で食事を提供しているので止まれなかったのではないか。止まることができない。契約を取り続けなければならない。売り上げをあげていかないといけないという状況があったのではないかと僕は思います
残る謎… なぜ格安で入札?補助断る?
関係者の証言から、給食事業、特に食堂運営は非常に厳しい状況が以前から続いていたことがわかる。しかし、取材を進めていくと少し不可解な点もあった。
2023年7月、県は物価高騰に対応した給食事業の補助を事業者に提案していた。
ところが、ホーユーは県からの提案を断ったという。
県教委 高校教育指導課・小野裕之 課長:
ホーユーの担当者から「現在の給食費の単価で工夫しながら食事の提供を継続していくので、補助申請は行わない」と回答をいただいています
このホーユーの対応については、同業者も首を傾げる。
同業者:
謎ですね。なぜ断ったのかというのはちょっとわからない。普通は受けると思いますね
県によると補助を受けた業者もあったという。経営が苦しい中、なぜホーユーは県の補助申請を断ったのか…疑問が残る。
さらにTSSの取材で明らかになったのは、不自然とも思える入札金額。今回の問題で給食が停止している、三次高校・庄原実業高校・庄原格致高校・西城紫水高校の4校における令和4年度~令和6年度の3年契約の入札に関してだ。ホーユーも含めて3社が入札に参加し、A社が1億7,640万円、B社が5,899万円という金額に対してホーユーは1,800万円。他社と比べて圧倒的に「格安な金額」で入札していた。県は予定価格を明らかにしていないが1,800万円よりは高く、県の担当者からホーユー側に「本当に大丈夫ですか?」と確認したものの「大丈夫です」と返答があり、ホーユーが落札したというのだ。
この金額がどれだけ格安かを試算した。4校で3年分の契約なので、単純計算で1校当たり月12万5,000円。食材費は別というが、三次高校では4人のスタッフが3食分を調理していたということで、この金額では人件費を賄うことさえ困難に思える。
なぜここまで格安な金額で入札を行ったのか、さらに補助金を使わなかった理由をホーユー側に問いかけたが、明確な回答は得られなかった。
“適正価格”に変えようとする動き
今回の事態を広島の街の人はどう感じているのか。
20代・大学生:
高校生の時、一度、学食を経営する会社が変わった。経営不振らしいです。メニューも少し変わりましたし値段が上がったりして、そこから利用する回数も減りました
中学生の息子が学食を利用:
うちは学食を利用する回数が週1回なので、値段が上がってもお願いしたいです。みんなで、値上げなどつらいことは負担しあって…
給食業界の現状は今後、改善されていくのだろうか。
日本給食業経営総合研究所・井上裕基 副社長:
給食業界に「価格転嫁しづらい」という状況は事実、あります。ただ、食のインフラであるということを念頭に価格をしっかり見直すことで、適正な価格に変えていこうという企業が増えているのも事実です
「ホーユー」は500人以上の従業員解雇し、近く広島地裁に破産申請するという。不可解な点もあるが、安すぎる給食費で運営を続け、追い詰められていったホーユー。同様の事態が再び起こらないためにも、行政・学校側と委託業者が連携して給食の適正価格を見直すことが必要ではないだろうか。
(テレビ新広島)