西武池袋本店が、雇用の維持を求めるストライキによって休館する中、親会社のセブン&アイ・ホールディングスは、経営の立て直しが困難だとして売却を決めた。

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「西武池袋本店を守ろう!!」

「そごう・西武」の売却をめぐる雇用の不安から、労働組合はストライキを決行した。

大手百貨店としては61年ぶりのストライキに、街はものものしい空気に包まれた。

常連客:
西武があっての池袋って感じなので、(今の姿を)なんとか残して欲しい。

東京豊島区・高際みゆき区長:
(ストとなって)私としては残念な気持ち。西武池袋本店が、本当に私たちとしては、パートナーであり仲間なので。

2022年度まで、4年連続で最終赤字となった「そごう・西武」。

親会社のセブン&アイ・ホールディングスは、経営の立て直しは困難と判断して売却を決めた。

セブン&アイ・ホールディングス・井坂社長:
ストが長引かないように、精一杯収束に努めてまいります。

組合との協議が平行線のまま、セブン&アイ・ホールディングスは、2023年8月31日午前の臨時取締役会で、最終的に「そごう・西武」をアメリカの投資ファンドに売却することを決定した。

売却に伴い、「そごう・西武」に対する貸付金約1659億円のうち、約916億円の債権を放棄するとしている。

また、焦点となっている雇用維持については、「そごう・西武」内での配置転換に加え、セブン&アイグループ全体と、売却先の投資ファンドと協力しながら、およそ5000人の従業員の雇用を守っていくとしている。

この決定に、労働組合の寺岡委員長は――。

そごう・西武労働組合・寺岡泰博委員長: 
ある種悔しい思いというのもあります。そもそも「そごう・西武」という百貨店に入社しているメンバーですから、そういった仕事ができる環境で雇用の維持ができるように、(交渉を)やっていきたい。

セブン&アイ・ホールディングスは、9月1日に株式譲渡を行い売却を完了する。

雇用の流動性が高いアメリカでは労組が活発

「Live News α」では、エコノミストの崔真淑(さい・ますみ)さんに話を聞いた。

堤 礼実 キャスター:
「そごう・西武」の売却をめぐり、池袋本店がストで休館となりました。崔さんは、どうご覧になりますか。

エコノミスト・崔真淑さん:
株主の利益と、従業員の利益という立場の2つから考察する必要があると思う。

まず、株主の利益についていうと、「そごう・西武」は4期連続で赤字となっており、会社を立て直すためにリストラを行うのも仕方がない、という見方があるのは自然な話。

一方、従業員の利益についていうと、今回、雇用の維持を求めてストを行ったが、これによって、売却先のファンドが撤退したり、顧客が離れてしまうと、会社が立ちゆかなくなり、その結果、雇用も失われる可能性がある。

こうしたリスクを承知でストを行なったのは、時代の流れが影響しているのではないかと考えられる。

堤 礼実 キャスター:
具体的には、どういうことでしょうか。

エコノミスト・崔真淑さん:
日本で雇用の流動性を高めようとする動きが加速すると、労働組合の動きが活発になると考えられる。

実際に、雇用の流動性が高いジョブ型雇用が行われているアメリカでは、会社が従業員の雇用を切りやすいだけでなく、労働組合の行動が非常に活発である。

例えば、労働組合が「物言う株主」として、株主提案によって経営者交代を迫ることがあるなど、自分たちの雇用を自分で守るという意識が広がっている。

ファイナンス研究でも、労働組合による経営への影響力は大きいと報告されている。

社会への影響は雇用策の動向次第

堤 礼実 キャスター:
今回のストライキが社会に与える影響については、いかがですか。

エコノミスト・崔真淑さん:
今回、ストライキという強固手段に出たが、結果として雇用が維持されれば、一つの成功事例となると思う。

というのも、セブン&アイ・ホールディングスが米国の投資ファンドに「そごう・西武」を売却後も、雇用の維持に協力する姿勢を打ち出している。  

ただ、こうした雇用の維持策が行われるかどうかは未知数な部分があり、その行く末を見守る必要がある。

これから経営者は、株主利益を守るのは当然として、労働組合と従業員の利益をどう守っていくのか、さらに真剣に向き合う必要がある。

堤 礼実 キャスター:
ストライキというのは、働く人が自分たちの意思を表明するひとつの手段です。それを受けて、新しい企業の未来が生まれる事を期待したいです。
(「Live News α」8月31日放送分より)