藤井聡太七冠が八冠全制覇に向け、王座戦で永瀬拓矢王座に挑む。一方、永瀬王座にとっても名誉王座がかかった負けられない勝負となる。

この記事の画像(15枚)

藤井聡太七冠、八冠全制覇に向け王座戦第1局について、元女流棋士の竹俣紅キャスターがお伝えする。

どちらも負けられない王座戦

藤井聡太七冠と永瀬拓矢王座の注目の対局が、31日に始まった。

まず会場に入ってきたのは永瀬王座だ。その数分後、藤井七冠も姿を見せ一礼して会場入りをした。そして、午前9時頃、藤井七冠の先手で対局がスタートした。

2人の対戦成績は、藤井七冠が11勝、永瀬王座が5勝と、藤井七冠がリードしている。ただ、直近の対局では永瀬王座が勝利している。

そして、2人はプロになった当時から練習パートナーであり、かなり関係性が深い。

今回の対局を前に、お互いについて語っていた。

藤井七冠:
普段からいっぱい指しているので、手の内を知られてしまっているというところもあるので、五番勝負に向けて、さらに工夫が必要なのかなという風に感じている。

永瀬王座:
人間だと藤井七冠に勝てるとは思えない。人間を辞めないと無理です。人間の枠から超えた存在になっていかないと、彼がすごすぎるので。それは間近で見ていてそう思うので。

王座戦は、藤井七冠にとっては八冠全制覇という史上初の快挙をかけた戦いだ。一方、永瀬王座にとっては永世称号、いわゆる「殿堂入り」をかけた戦いになる。

名誉王座なるための条件は、連続5期または通算10期で、永瀬王座は史上3人目の快挙に王手をかけている。どちらも負けられない大注目の王座戦だ。

“千日手”今回も出るか

千日手とは、同じ局面を繰り返すエンドレスな状態のことを言う。

将棋では、同じ状況が繰り返されてしまうことが稀に起こる。そこで、4回同じ局面が現れると「千日手」として、基本的には引き分けとなる。

ただ、プロの将棋では引き分けにせず、もう1度対局する。これを「指し直し」という。例えば、タイトル戦の「第1局」で千日手になったとすると、指し直しの将棋は「第2局」になるわけではなく「第1局の指し直し局」になる。

2022年6月3日に行われた棋聖戦第1局でこの2人が戦った時も、千日手になった。しかも、2回連続での千日手。

2回連続で千日手になるというのはかなりレアケースで、タイトル戦では、2002年の竜王戦以来20年ぶりのことだった。結果は永瀬王座の勝利だった。

千日手というのは、狙って起こせるものなのだろうか。

基本的には、千日手を狙って起こすことはできないが、将棋を指している人は先を読んで、この先こうすれば千日手になりそうだなということはわかる。しかし、指し直しになるとかなり体力を使うため、普通は千日手にならないような一手を選ぶ人が多い。

ただ、永瀬王座は少し違っていた。千日手になった回数が、他の棋士よりかなり多いのだ。

プロの対局で千日手になる確率は約2%~3%。しかし永瀬王座の場合だと、番組で調べたところ、その確率は約6.8%とかなり多かった。

さらに、千日手が起きた後の指し直しの対局での永瀬王座の勝率は、約79%とかなり高い勝率を誇っている。

永瀬王座は数年前に出した自身の著書の中で「幾つか狙いというか、ワナを用意しときます。で、引っ掛かってくれれば良し。引っ掛かってくれなければ千日手に持ち込んで、もう一局。次の将棋にもワナがあって…」と、選択肢の中に千日手があることに言及している。

先手の勝率100%の藤井七冠も不利に

千日手が注目される理由は他にもあった。

藤井七冠は、2023年度は先手の勝率100%と、圧倒的な強さを誇っている。しかし千日手になると「先手と後手を入れ替えて指し直し」になるため、藤井七冠の先手で始まった対局でも、千日手になれば、永瀬王座が先手になる。

千日手はいつも起こるわけではないが、どちらかが避けたら成り立たないので、藤井七冠が避ける可能性もある。千日手になりやすい局面、そして、千日手を避けようとすると、藤井七冠が不利になるような局面を永瀬王座が研究してくる可能性もある。

お互いの手の内をよく知る者同士の対局では、2人の中で弱い方が斬新な手、いつもと違う戦い方に挑むことになりがちだ。今までの対決で負け越している永瀬王座が冒険するかもしれない。
(「イット!」 8月31日放送より)