京都の火祭り「松上げ」。集落の男たちとともに祭りに挑んだ、ある中学生の夏を取材した。
京都の火祭り「松上げ」初めて挑む中学生

京都市左京区広河原は、人口わずか105人の山あいにある集落だ。
中学1年生の菊地峻くんは、2023年に初めて「松上げ」に参加する。参加は幼い頃からの憧れだった。

菊地峻くん:
迫力があっていい祭りだなと思っています。暗い中で炎が目立つのが迫力あるなって

広河原の「松上げ」は、300年以上前から続くと言われる伝統行事で、火の神に祈りをささげる祭りだ。集落の男は、中学校に上がると祭りに参加できる。

父・菊地篤さん:
なかなかしっかりした昔からやっている伝統行事なので、なるべく引き継いでいきたいですけど、人もいろいろ入れ替わったりとか亡くなったりとか、年も取られたりするので

若者が減り続ける小さな集落。祭りにはずっと「存続の危機」がつきまとう。
祭りの準備をしていると、「峻!ええ地下足袋履いてきたやんけ」と峻くんを呼ぶ声が。初めて参加する峻くんを気にかけてくれていた。

峻くんの参加は、広河原にとっても大きな意味を持つという。

ーー昔から峻くんのこと知ってるんですか?
集落の男性:
赤ちゃんの時からな。2、3歳の頃は「峻!」っていうと逃げていってた。怖がられててん

20メートルもの高さがある燈籠木(とろぎ)を設置する。

祭りの法被に袖を通すのも初めてだ。
「表?どっちが?」と戸惑う峻くんに「きょうは気にしなくていいよ」と篤さんが声をかける。
真新しい手ぬぐいをしっかりと頭に巻き付けた。
祭りの男たちは、燈籠木のてっぺんにたいまつを投げ入れ、「一番点火」を目指す。
菊地峻くん:
目標は、入れたいですね。入れていい思い出が作れたらと思います
火の粉が舞い上がる 祭りが始まった
午後8時、ついに祭りが始まる。「初参加、菊地峻くんがおります。がんばって」と峻くんが紹介されると、拍手で参加を歓迎された。

辺りを照らすのはたいまつの火だけ。峻くんも両手でたいまつを持っていく。

集落の男性:
峻、はよ行け、行け
なかなかたいまつを投げることができずにいた峻くんに活が入る。
峻くんが放ったたいまつは後方へ…。
集落の男性:
大丈夫、大丈夫、まだ火は生きてる

集落の男性たち:
おいしょーっ。よっしゃー
見事、先輩がたいまつを投げ入れることができ、祭りは一気に盛り上がる。

峻くんは何度もチャレンジするが、なかなか入らない。まだ遠い先輩たちの背中…。

火がともされた燈籠木は倒され、てっぺんにあった炎は地面に落ち、火の粉が舞い上がる。さらに炎を舞い上げる「つっこみ」が行われ、峻くんも参加した。

菊地峻くん:
広河原は僕が生まれたところだし、いずれ高齢者ばかりになるかもしれないですけど、今もそうですけど。このまま僕のふるさとですし、つぶれないで続いてほしいです
13歳の夏。一歩、集落の男に近づいた。
(関西テレビ「newsランナー」2023年8月30日放送より)