アメリカで住宅価格が高騰している。その原因の一つに「金利」があるが、高い金利でも住宅の価格は下がらないという“異常”な状態となっている。

FNNニューヨーク支局・弓削いく子支局長
FNNニューヨーク支局・弓削いく子支局長
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アメリカの住宅価格高騰について、FNNニューヨーク支局の弓削いく子支局長がお伝えする。

アメリカの住宅価格が“高騰”続ける

アメリカの住宅事情が、最近“異常”だと指摘されている。

NY市内にあるアパートの例。ドアをあけていきなり台所が見えるが、ロフト式で、上には寝るスペースもある。この部屋、広さは約14㎡だが、家賃は月に2500ドル=日本円で36万5000円だ。

エアコン完備やガスコンロ、電子レンジ、冷蔵庫があり、トイレやシャワー室もシックな内装ではある。しかしこの物件には台所のシンクがなく、食器洗いは洗面所でやるしかない。コンロの口も4つある割には、食器棚が小さすぎる。

アメリカでは今、家賃が高止まりしていて、ニューヨーク市では家賃の中央値が3750ドル=日本円で54万6000円だ。

しかし、こんなに高くても「需要」がとても高くなっている。

そうした需要もあってか、アメリカではSNSで物件を紹介する「不動産業者」兼「ユーチューバー」の動画が人気だ。

キャッシュ・ジョーダンさんは、YouTubeやTikTokなど、あわせて130万人以上のフォロワーがいる方。どんな撮影をしているのか取材した。

ニューヨーク・ハーレムにある物件は、教会の横にある。もともと教会の神父さんの居住エリアをアパートにした物件だということで、これからキャッシュ・ジョーダンさんの撮影が始まる。

不動産業者兼ユーチューバー・キャッシュ・ジョーダンさん:
教会の中に住む!?これから日本の取材班と一緒にのぞいてみる。いくら?

不動産エージェント:
6000ドル(約88万円)。キッチン完備で皿もついていますよ。

不動産業者兼ユーチューバー・キャッシュ・ジョーダンさん:
これは教会の中の秘密の部屋です。

撮影は1時間弱だったが、別のエージェントと楽しくやりとりしながら、窓の外や屋上まで、本当に“くまなく”案内していた。ジョーダンさんが動画を作るきっかけは、やはりコロナ禍だった。

不動産業者兼ユーチューバー・キャッシュ・ジョーダンさん:
不動産業者としてコロナ禍ではこれしか物件を見せる方法はなかった。「動画を撮って物件紹介しよう」と思いつき、2020年3月には、賃貸契約が色々成立して驚いたよ。みんな、動画に反応しているんだ!ってね。

高い金利でも住宅価格は下がらず

このような動画が人気になるほど需要が高まっている中で、値段も上がっている、というのは、経済としては正常だと思われる。一体何が“異常”なのだろうか。

住宅の需要に大きく関わってくる要素の一つが「金利」。しかしその金利が高いのに、住宅の価格が下がらないという現象が起きている。

アメリカの政府系金融機関は、毎週木曜日に30年の固定で住宅ローンを組んだ場合の、金利の数字を出している。24日(8月17〜23日集計)に発表された数字が「7.23%」で、これは2001年以来約22年ぶりの高水準だ。

実際にアメリカで家を買ったら、金利はいくらくらいになってしまうのだろうか。例として、ニューヨーク州で、家を買い替えようとしているAさんのケースで、日本円に置き換えて見ていく。

お目当ての住宅は約6540万円で(45万ドル)で、頭金を20%にして、残りの80%約5340万円(36万ドル)をローンで組んだ場合、約2年前の金利の3%なら、最終的な利息の合計は約2724万円(18万6000ドル)だ。

ところが、今回の金利の7.23%だと、最終的な利息の合計は約7644万円(52万2000ドル)と、利息だけで約5000万円の差が出てくる。

すでに家を持っている人が低金利の時に購入していたら、金利が高い今、買い替えるのはお得ではないということになる。

こういう人が多くなると、中古住宅が全然、市場に出回らなくなり、「供給」が減る。その結果、価格が安くならなくなっている。

“キャッシュ”で買える富裕層も

現地のシンクタンクの研究者や不動産業界の関係者の中には、次のような指摘をする人もいる。

そもそも富裕層で「住宅ローンを組まず、ポン!」と現金で買える人。「金利は無関係」という人たちがいる。海外からの投資家や、すでに「持ち家のある」ベビーブーム世代の人たちなどが、この「現金買い」をしていて、ある調査だと全体の3分の1を占めている。

さらに、業界の中では「今は様子見ですね」という声がある一方で、金利が7%を超えていても、80年代は18%台まで行ったことがあるので、それに比べたら「まだ低い!」「今が買い時!」だとする関係者もいる。

また、インフレで一部の賃金も高くなっているため、富裕層が「都心の第2の拠点」を構えたいと、高くても良いという人が出てきている。

例えば、コロナ後も「ハイブリッド勤務」で「週2~3日出社すればいい」場合、小さくてもニューヨークに“ちょっと泊まれる拠点”がある方が、お得と考える人たちだ。 

需要と供給のバランスが崩れている今、富裕層でない限り、アメリカでマイホームを買おうとする庶民にとっては、厳しい状況が続きそうだ。
(「イット!」 8月30日放送より)

RentNewYorkGuy
X(旧Twitter):
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不動産業者兼ユーチューバー・キャッシュ・ジョーダンさん
YouTube:
https://www.youtube.com/@CashJordan