福島第一原発の処理水放出を受けて、中国からの嫌がらせがエスカレートしている。

この状況を政治で解決することはできるのか、フジテレビ政治部の高橋洵記者が解説する。

「憂慮している」申し入れに中国大使は…

東京電力・福島第一原発の処理水放出に対し、中国政府は、日本からの水産物の輸入を全面停止するという「経済的威圧」ともいえる措置を発表した。

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また、中国からとみられる迷惑電話が多発している。

さらに、中国の日本人学校では、石を投げ込まれる事件が起きたほか、北京にある日本大使館にレンガの破片が投げ込まれるなど、危険な事態にまでエスカレートしている。

幸い、今のところけが人の報告はないが、外務省は中国に滞在している人や中国への旅行者に異例の注意を呼びかけている。

中国に対しての外交的な働きかけとして、岡野外務次官が28日、呉江浩駐日中国大使に「極めて遺憾であり、憂慮している」と申し入れた。

これに対し、中国大使は「中国大使館に日本から大量の迷惑電話がかかってきている」と「厳正な申し入れ」で反論した。

このように、事態が沈静化する兆しは見えていない。

こうした動きを受けて、岸田首相も「遺憾だ」として、中国側に「中国国民に冷静で責任ある行動を呼びかけるべく、強く申し入れている」と強い懸念を示した。

さらに、水産物の禁輸措置については「科学的な意見交換をしっかり行いたいと要請してきたが、こうした場が持たれない」と強い苦言を呈したそうだが、禁輸措置撤廃の見通しは立っていない。

対抗措置としてWTOへの提訴も検討

中国に対して、もっと強く抗議するということはできないのだろうか。

高市経済安全保障相が、29日の会見で「WTOへの提訴も対抗措置として検討する段階」と話した。これは、自由な貿易を阻害しているとして、中国をWTOに訴えたらどうかということだ。

ただ、こうした場合は双方の言い分を聞く必要があり時間もかかることから、すぐに解決となるかは難しいところがある。

自民党には二階俊博元幹事長など、親中派といわれる中国との関係性を築いている議員もいるため「二階さんなら何とかしてくれるのでは?」という声も聞かれる。

しかし事態がここまでエスカレートしてしまうと、仮に、二階俊博元幹事長が今訪中したとしても得るものが少ない状況で、日本側からすれば「今、切るカードとしてはもったいない」との見方もある。

実際、公明党の山口代表は、先週末に中国を訪問し岸田首相からの親書を託す予定だったが、中国側から「当面の日中関係の状況に鑑み、適切なタイミングではない」と伝えられ、延期になってしまった。

首相周辺からは「こういうときこそ、様々なチャンネルで話をすることが大事なので、非常に残念だ」と落胆の声が出ている。大物による議員外交のルートも今は難しい状況という中で、どう落としどころを見つけ、沈静化を図っていくかが大切になってきている。

嫌がらせは中国にとって“諸刃の剣”

ある政府高官は、この状況について「中国にとって“諸刃の剣”」「振り上げたこぶしを下ろせない状態だ」と話している。いったいどういうことなのだろうか。

2012年、日本政府による尖閣諸島の国有化を巡って、中国市民が暴徒化した時の映像。ある政府高官は、「今の中国の状況と2012年の状況は似ている」と指摘している。

2012年当時、尖閣諸島の国有化に反発した中国政府は、反日感情による市民の行動を許している面があった。

ただ、あまりにも許しすぎて収集がつかない状況に発展した結果、貿易関係も冷え込み、日本から中国への投資も減少し、中国側の経済も冷え込むなど、痛手を負う形になった。

一方で、現在の中国の状況は、若者の失業率が非常に高く国民の不満もたまっている。

経済的な悪影響を避けたいだけでなく、国民の不満の矛先を国内からそらすために、今回の迷惑電話などを「国内のガス抜き」として許容しているという見方ができる。

ただ、ある政府高官は、処理水放出を巡る嫌がらせ行為について「中国政府もコントロールできなくなるリスクがある」と分析している。つまり、歯止めが利かなくなると、中国自身も傷つくという“諸刃の剣”だ。

2012年は、中国政府が事態収拾を呼び掛けるなどして、沈静化した。

日本はこのまま沈静化を待つしかないのだろうか。

岸田首相も中国の出方を待っているだけではない。

9月5日からインドネシアで開かれるASEANの会議に合わせた形での中国の李強首相との会談や、続いて9月9日から開かれるインドでのG20首脳会議の際の習近平国家主席との会談を模索している。

しかし、首相周辺からは「正式な会談は厳しい」との見方も出るなど、不透明な状況だ。
(「イット!」 8月29日放送より)