福島県沖でとれる魚は「常磐もの」と呼ばれ、全国で高い評価を受けてきた。この誇れる「魚」を風評から守るために、何が必要なのか。風評対策を研究する専門家は“とりあえず”の買い控えをなくし、流通させ続けることが重要だと指摘する。

地元・福島からは前向きな声

「ずっといわきの魚で育ってきたので、いわきの魚が大好きです」と語るのは地元の消費者。福島県いわき市で鮮魚店「おのざき」を営む小野崎幸雄さんも「本当に安心できる処理水なんだっていうことを言っていくほかない」と話し、「ここからやるべきことがある」と前を向く。

おのざき・小野崎幸雄社長「ここからやるべきことがある」
おのざき・小野崎幸雄社長「ここからやるべきことがある」
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「私たちはやっぱりお客様を目の前に立っている人間ですから、消費者の皆様に“この処理水は本当に安心なんですよ、全然問題ないですよ”とこれから言っていきたいと思います」と小野崎さんはいう。

直接 消費者と接するからこそ伝えられることも
直接 消費者と接するからこそ伝えられることも

シラスの取り引きが中止に

西村経産相は8月23日に、周辺海域でとれる水産物について小売業界による魅力の発信や販売の促進への協力を呼びかけた。一方、福島県の漁業関係者が集まる会議では「勿来地方の組合長から、仲買人がシラスを買わないという情報があった」と、早くも風評被害が報告された。

福島県漁連・今野智光副会長 勿来地区から風評被害の報告も
福島県漁連・今野智光副会長 勿来地区から風評被害の報告も

知らないがゆえの買い控えをなくす

福島第一原発の処理水海洋放出にかかわる「風評」について、処理水の処分方法を検討する政府の専門会議でメンバーを務め、風評対策などを研究する福島大学の小山良太教授は「これまでトリチウム水(処理水)の性質や、海洋放出の安全な処理の仕方について、かなり説明はしてきた。事故炉の福島第一原発以外でも、トリチウムの放出はこれまでも行っている」

世界の原子力施設でもトリチウムを放出
世界の原子力施設でもトリチウムを放出

「よく分からないから“とりあえずやめておこう”ということが、ないようにするのが重要。また今回、中国が福島以外も含めた日本の水産物の全面輸入制限することになった。こういう影響が長く続いてしまうと、これこそ新たな風評、風評を超えた状況になるのではと懸念している」と話す。

自然放射線は年間2.1ミリシーベルト 海洋放出による影響は少量に
自然放射線は年間2.1ミリシーベルト 海洋放出による影響は少量に

世界が注目 日本だけの問題ではない

世界も注目した海洋放出。海外のメディアも取材に訪れていた。アルジャジーラ(カタール・ドーハが拠点の国営衛星放送)のレポーターは「今の影響ではなくて、30年40年どこまで政府は本当に約束を守るかどうかということも含めて、国際的な問題なので日本だけの問題ではない」と話した。

アルジャジーラのレポーター「国際的な問題 日本だけの問題ではない」
アルジャジーラのレポーター「国際的な問題 日本だけの問題ではない」

また韓国メディアは、福島県の厳しい検査体制を取材していた。福島県の出荷基準は、国の基準の2分の1となる1キロあたり50ベクレル。

放射性物質の検査 福島県の出荷基準は国の基準の2分の1
放射性物質の検査 福島県の出荷基準は国の基準の2分の1

流通させ続けることが大切

市場で魚を販売する業者は、スーパーとの商談の中で「福島の魚をこれまで通り並べていこう」という話になっているという。「自分たちが、流通させ続けることが大切」との声も聞かれた。

商談の中では「これまで通り」という話が出ている
商談の中では「これまで通り」という話が出ている

風評対策などを研究する福島大学の小山教授も「原発事故の初期の段階で、福島県の農林水産物は検査のためや基準値を超えたことにより一度流通網から消えた。そうなると棚に戻すのはなかなか難しかった。やはり流通を途絶えさせない、小売店舗の棚にずっと置き続けられることが、風評の問題を解決するにはすごく重要」だと話す。

福島大学・小山良太教授 一度途絶えたものを戻すのは難しい
福島大学・小山良太教授 一度途絶えたものを戻すのは難しい

処理水の海洋放出も廃炉作業も、政府と東京電力の責任で完了させなければいけないこと。安全性の確保に、作業を確実に進めること。そして伝わる情報発信。どれ一つ欠けることなく実行する必要がある。

(福島テレビ)

福島テレビ
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