認知症治療の「転換点」を迎えたと言えそうだ。21日、厚生労働省の専門部会で認知症の進行を抑える新たな薬について、日本での製造販売が承認されることが決まった。この薬、いったい何が新しいのか、そして認知症の当事者たちはどう受け止めたのだろうか。

アルツハイマー病の進行を抑える効果がある“初めての治療薬”

米沢慶子さん:
体は元気なので外から見た感じは変化がないようなんですけど、かなり記憶障害が進んでいる

米沢広人さん:
そんなん、ただちょっと忘れるだけや

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ひときわ明るく、周りを和ませる米沢広人さん(73)は、アルツハイマー病を患っている。月に2回、認知症の当事者たちと交流する時間が一つの楽しみだという。広人さんと妻の慶子さんは、長い間、治療薬の開発を待ちわびていた。

米沢慶子さん:
素晴らしい薬ができたなと思います。家族の立場としても、すごく希望を持てる薬やなって

21日、厚生労働省の専門部会は、製薬大手の「エーザイ」が、アメリカの企業と開発した「レカネマブ」という薬の国内での製造販売について承認することを決めた。これは、認知症全体の6割~7割を占めるとされる「アルツハイマー病」に対する治療薬だ。

これまでの薬は一時的に症状緩和

これまでの薬と何が違うのか。アルツハイマー病は、原因物質のひとつとされる「アミロイドβ」が脳内に蓄積することで神経細胞が傷つき、認知機能が低下すると考えられている。これまでの薬は、神経細胞の働きを高め、一時的に症状を緩和させることはできるものの、神経細胞が壊れていくことを止めることはできなかった。

一方、「レカネマブ」は、「アミロイドβ自体を取り除く」初めての治療薬で、神経細胞が壊れるのを防ぎ、病気の進行を抑える効果があるとされている。

対象は早期のアルツハイマー病患者に限られ“早期発見”が重要

近畿大学医学部精神神経科 橋本衛主任教授:
今回は明確に、臨床試験で症状そのものを抑えてくれるという効果が実証されているので、より期待できる

エーザイなどによると、早期の患者がより重い症状のステージに進行するのを、平均で2年~3年遅らせることができると推定されるということだ。ただ、壊れてしまった神経細胞を再生させることはできないため、薬の対象は、早期のアルツハイマー病患者に限られる。

米沢慶子さん:
アミロイドβを除去する薬だと聞いたので、すごいびっくりしたんですよ。そんな薬がもっと早くにあったら、うちもかなり違っていたかなというか

10年前にアルツハイマー病と診断された米沢広人さんは、もの忘れなどの症状が出始めた頃は病気だと気づかず、医療機関を受診するまで2~3年かかった。現在は中度以上の症状が見られるため、「レカネマブ」の使用の対象にはならない可能性が高いという。米沢さんのみならず、この病気は早期発見が難しく、せっかくの新薬が使えないという事態も懸念されている。

米沢慶子さん:
家族会で話を聞いても、娘さんが若年アルツハイマーでも、最初は「うつ病」と言われたりして、最初に診断されるまでの期間が何年もあったとよく聞く。その間は進行していっているので、そのへんがやっぱり厳しいなと思いますね

アメリカでの販売価格は患者1人あたり年間約380万円

早期発見の重要性のほかに、経済的な面でも課題はある。

4年前、46歳の時にアルツハイマー病による認知症と診断された下坂厚さん(50)。すでに症状が進行しているため、今回のレカネマブは投与の対象にはならないが、認知症の当事者の中には、薬が欠かせない人もいるため、気掛かりなのはその金額だ。

認知症を患う下坂厚さん(50):
症状がほんまに治りますよっていうんでしたら、それはありがたいと思うんですけど。費用面でもそうですけど、なかなか現実的ではないのかなと

エーザイによると、レカネマブのアメリカでの販売価格は、患者1人あたり年間約380万円。日本で実用化された場合でも製造コストがかかるため、同程度の金額が想定される。

認知症を患う下坂厚さん(50):
まだ保険も適用されるかどうか分からないですし、それこそ使うにあたって年間何百万もかかるとかなってくると、いやそこまでお金かけて使用するかどうかと思う。しかも完全に治るわけじゃないので

効果への期待が高まる一方、実用化にあたって課題も見えてきた「レカネマブ」。今後、認知症治療はどう変わっていくのだろうか。

(関西テレビ「newsランナー」8月22日放送)

関西テレビ
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