富士山頂にある「富士山特別地域気象観測所」はかつて「富士山測候所」と呼ばれ、職員が常駐して台風観測などにあたっていた。今は無人化されたが、日本で最も高い場所での観測の利点を生かそうと、観測所を守り続けている科学者がいる。課題は平地の10倍とされる維持費だ。

最先端レーダーで日本を台風から守る

富士山
富士山
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2023年6月に世界文化遺産の登録から10周年を迎えた富士山。

富士山特別地域気象観測所
富士山特別地域気象観測所

その山頂・剣が峰にたたずむのが「富士山特別地域気象観測所」、かつての「富士山測候所」だ。富士山測候所は、今から91年前の1932年に気象庁の前身 中央気象台が設置した。

1964年には相次ぐ台風被害を未然に防ごうと、当時の世界最高レベル・800km先まで観測できる巨大なレーダーが設置された。

巨大レーダーで台風進路をキャッチ(1974年)
巨大レーダーで台風進路をキャッチ(1974年)

遅くとも24時間前には台風の接近を探知することが可能となり、まさに国民の命を守る情報を富士山頂から観測し続けた。

2004年までは職員が常駐
2004年までは職員が常駐

しかし、人工衛星など観測技術の発達に伴い1999年にその役目を終えると、2004年 測候所は常駐する職員が去り、「無人化」された。

「我々の生活にとても大事な研究ができる」

建物を全て解体し更地にする案も出る中、測候所を残していこうと活動を続けてきた人たちがいる。
NPO法人「富士山測候所を活用する会」だ。事務局長を務める静岡県立大学の鴨川仁特任教授を、富士山の麓の御殿場市に訪ねた。

鴨川さんは「更地にして土地を(富士山本宮浅間)神社に返したら、二度と世界文化遺産になった山で科学計測することができなくなる。今後の我々の生活にとても大事な研究が富士山頂でできるので、残していかないといけない」と話す。

2007年以降、富士山測候所を活用する会は、気象庁から夏の間だけ建物を借りる形で研究者たちに場所を提供していて、2023年は33の研究プログラムが行われている。
富士山頂で採取した雲水や大気中の微粒子の中から、マイクロプラスチックが検出されたこともある。

「富士山頂での研究は“科学のロマン”」

鴨川さんは雷を研究
鴨川さんは雷を研究

富士山測候所を活用する会 事務局長の鴨川さんは、雷の専門家だ。自身も幾度となく山頂に上り、研究を続けてきた。

静岡県立大学・鴨川仁 特任教授:
すごい雷の音。まさに出来立てホヤホヤの雷雲がちょうど来ている。雷雲の中で放電している

富士山で雷雲を観測
富士山で雷雲を観測

取材した日、観測所に電気を通す電柱に雷が落ち停電が発生した。夏に2カ月間 研究していて、落雷による停電は数回あるそうだ。

雷のデータを分析する鴨川さん
雷のデータを分析する鴨川さん

静岡県立大学・鴨川仁 特任教授:
今ものすごく活発になっています。もうドカドカ、雲の中で放電が起こっています。雷雲から出てくる放射線が、おそらくきょうは良いデータが取れていますよ。

静岡県立大学・鴨川仁 特任教授:
(放射線が)雷雲や落雷から出ることが最近わかって、これは大事件だと、新たな自然放射線源を見つけたと。アメリカは金があるから飛行機を飛ばして雷雲のそばにいく。私たちは富士山という場所を持っているからできる。これは“科学のロマン”です

停電のなか食事する鴨川さん
停電のなか食事する鴨川さん

食事はコンビニ弁当だ。停電で電子レンジが使えないことを想定して、朝 買ってきたそうだ。
普段はレトルト食品を山頂に荷揚げして、電子レンジを使って食べることが多いという。

富士山頂から望むご来光
富士山頂から望むご来光

翌朝、美しいご来光が昇り、登山客たちを喜ばせた。ただ鴨川さんは見飽きているのか、ご来光には目もくれず活動を続ける。

維持費は平地の10倍 資金調達が課題

研究者にアドバイスする鴨川さん
研究者にアドバイスする鴨川さん

研究に適した場所をアドバイスするなど、他の研究者のサポートも欠かさない。

天体映像を研究 成蹊大学・宮下敦 教授:
鴨川先生はいろいろな方とコミュニケーションをとって全体がうまくいくようにしているので、すごくあり難い存在。いなければ(研究は)できなかった

静岡県立大学・鴨川仁 特任教授:
なぜ我々の組織が生き残れるかというと、我々は「測候所を活用する会」で、研究者に利用してもらって利用料を頂くことで会の運営費を賄っている

活動資金を募るクラウドファンディング
活動資金を募るクラウドファンディング

ただ研究にかかるコストは膨大で、資金面は常に火の車だそうだ。
2020年には新型コロナで観測が一切できず、利用料はゼロだった。それでもクラウドファンディングで寄付を募り維持費を確保するなど、たび重なる難局を乗り越えてきた。

観測所で作業する鴨川さん
観測所で作業する鴨川さん

富士山測候所を活用する会・鴨川仁事務局長:
続けられた大きな理由は、ここでしかとれない圧倒的なデータがあるからです。ものすごく強いモチベーションになります。私は他の山は登ったことはないですが、富士山だけを何十回と登っています。温暖化ガス、汚染物質、最近ではマイクロプラスチックまで検知できた。非常に重要な結果を得ています。こういった研究の積み重ねで、やっと(把握した課題に)どう対策するかにつながる。環境の研究をすることは我々が生きるために最も必要なことで、適した場所である富士山の山頂は生かすべき

富士山頂の観測所
富士山頂の観測所

気象庁と結んだ旧測候所を借りる契約は、2023年で5年契約の最終年を迎える。もちろん、更新の申請をする。
たが施設を維持するには平地の10倍の費用がかかるそうで、鴨川さんは「NPO法人として施設の維持管理を永続的にしていくことは難しい。公的支援はもちろん、ゆくゆくは国の機関、科学研究所として活用されるべきだ」と訴える。

富士山頂の観測所
富士山頂の観測所

富士山頂でしかできない、貴重な研究の機会を未来へとつないでいくために。
私たちの暮らしはもちろん、これから生まれてくる子供たちの暮らしを守るために。
鴨川さんはこれからも観測所とともに歩み続ける。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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