長崎県内の最低賃金について話し合う審議会は17日、現在の853円から898円とするよう答申した。引き上げ額は過去最大となる45円。私たちの生活にはどのような影響があるのだろうか。
「これでも不満が残る結果」
長崎労働局長に答申したのは、労働組合や経営者協会の代表などでつくる長崎地方最低賃金審議会(会長・深浦厚之長崎大学経済学部教授)だ。

長崎県内の最低賃金を45円引き上げ、898円とするよう答申した。国の諮問機関が示した目安の39円を6円上回り、過去最大の上げ幅となる。長崎県など10県の現在の賃金は全国最低額の853円で、答申通りに決まれば全国最低額を脱する見通しだ。審議会では労働者側と経営者側は最後まで折り合いがつかず全会一致とはならなかった。委員長を除く14人のうち、賛成9、反対5。使用者側5人全員が反対だった。

労働者代表・岩永洋一委員:
一定の評価はするが最低賃金で働いている人が多く、年収ベースで考えてもまだ200万円足りない。これでも不満が残る結果。

使用者代表・峯下隆久委員:
企業側に厳しい状態。価格転嫁をどんどん進めようという動きはあるが、まだまだ不十分の実態もある。
長崎県民・経営者の反応は
今回の答申を長崎県民はどのように受け止めているのか。
女性:
長崎の現状で言えば、そんなもんかなと思うのでは?でも全国的に見れば低い。もう少し上がれば活気づくのではないか。
大学生:
飲食と短期の学童のバイトをしている。千円まではいかなくても長崎からしたら上がっているからいいのではないか。
大学生:
地元が福岡なので福岡に比べたらまだ安いかな、とは思う。長崎は地価も物価も高いからそこも考えてもう少し上げてほしい。
女性:
せめて900円だとみんなで話していた。これではみんな長崎から出て行くよねと。

過去最大の引き上げ額となったが、最低賃金が最も高い地域との差は200円以上。(東京都:1,072円→1,113円に改定予定)都市部への人口流出を抑えるためにも時給アップは欠かせない要素といえる。
一方 物価高騰に直面する経営者の受け止めはシビアだ。

幸運ホールディングス馬場邦彦・代表取締役社長:
おそらく各経営者は戸惑いでいっぱいじゃないかと思う。
大村市に本社を構える運送業者は約700台のトラックで県の内外に荷物を運んでいる。燃料の価格高騰で1カ月の燃料費は3年前と比べ3,000万円ほど増加。最低賃金が引き上げられると人件費も1カ月あたり100万円ほど増加すると見込んでいる。慢性的な人手不足に悩む運送業界にとっては人材確保に向けたハードルが一段と上がることにもなるが、馬場社長は「致し方ない」としている。

幸運ホールディングス馬場邦彦・代表取締役社長:
長崎県のことを考えると極力人口流出につながらないように、給料を上げて長く勤められる環境づくりをしないといけない時代になった。
高まる賃上げの機運 影響は
「人手不足」は他の業界でも共通の課題だ。長崎市内のホテルでは従業員の休みを増やすなど労働条件の向上を図っている。

稲佐山観光ホテル小林央幸・専務取締役:
宿泊に限らず飲食店もかなり人手が足りないとの声は多く聞いているので、正直最低賃金の問題ではないのかなと。働き手に選んでもらえる環境を作っていかなければならない。
中国からの団体旅行が解禁され、インバウンド=外国人観光客の需要の回復に期待を寄せている。

稲佐山観光ホテル小林央幸・専務取締役:
まだ100%という段階ではない。新型コロナの期間のマイナスが大きいので、取り戻すためにも時間がかかると思う。
さらに物価が高騰する中、従業員の生活を守りながら企業活動を維持するため、経営としてのさらなる工夫が求められている。

稲佐山観光ホテル小林央幸・専務取締役:
今後どう価格転嫁していけるか業界の課題なのかなと思う。価格転嫁してもお客さまに選んでいただけるよう努力していくしかない。
物価高などを背景に賃上げの機運は高まっているが、業績アップが伴わない人件費の上昇は経営に深刻な打撃を与えかねない。民間の調査会社東京商工リサーチが8月上旬に行った調査によると、約1割(11.2%)の企業が最低賃金の上昇に「できる対策はない」と回答し、企業の置かれた状況は二極化が進んでいるのが現状だ。

17日に長崎労働局長に最低賃金の引き上げを答申した審議会のメンバーのうち、経営者側は原材料費や燃料費などが高騰し経費が膨らむ中、国や県に支援の拡充などを求めている。長崎労働局は9月1日まで異議申し立てを受け付け、新たな最低賃金は早ければ10月13日から適用されることになる。
(テレビ長崎)