坂の町「長崎」。長崎市内の土地の7割を斜面地が占めていて、高齢化により斜面地から市街地へと引っ越す人が増加し、「空き家」が増えている。
老朽化による倒壊や景観を損なうなど、近くに住む人たちに深刻な被害をもたらすおそれがある空き家問題の現状を探った。

課題は全国ワースト2位の転出超過

西九州新幹線の開業にともない、100年に一度の「変革期」と言われる長崎市。2023年1月に供用が始まる長崎市役所の新しい庁舎や町の再開発など、長崎市中心部では、高層の建物が数多く見られるようになった。

長崎市役所の新庁舎
長崎市役所の新庁舎
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こうした傾向には、市の狙いもある。キーワードは「容積率の緩和」だ。
容積率とは、敷地面積に対する建物の延べ床面積の割合のことだ。長崎市は、2021年に長崎市中心部の国道や路面電車沿いなどを対象に容積率の上限を200%から最大で400%に緩和し、ビルやマンションでは、単純計算でこれまでよりも2倍の高さまで建築できるようになった。一部地域では、段階的に高さ制限も撤廃した。

転出超過が全国ワースト2位という課題を抱える長崎市は、限られた平地を有効活用し定住を促して、人口流出に歯止めをかけたい考えだ。

長崎市中心部では開発が進む一方で、目線を上げてみると山間部、斜面地に沿って住宅が立ち並んでいて、その中には、空き家も目立つようになってきているという。

住宅総数の15%を占める空き家

坂の町「長崎」。市内の空き家の数は約3万4,000戸と、住宅総数の15%を占め、全国平均を2ポイントほど上回っている。このうち賃貸や売却、別荘など用途が決まっていない空き家の数は約1万5,300戸で、2030年には1.5倍ほどに増えると推計されている。空き家の多くは、斜面地に点在している。

山間部や斜面地に沿って住宅が立ち並ぶ
山間部や斜面地に沿って住宅が立ち並ぶ

長崎市民:
(住まいは)斜面地。離れたところに駐車場を借りなければならず、不便。街のマンションを買いたいけど、お金がいる

長崎市民:
平地がいい、転ばなくて済む

長崎市建築指導課・植坂武史課長:
長崎の斜面地に空き家が集まっている特徴は、高度経済成長期の造船などの産業が盛んだった時代に住む場所がないということで、段々畑などを開発して、住宅が山の斜面に上がっていった経緯がある。仕事場に近い斜面地に住宅ができたところからスタート

取り残された空き家を有効活用

長崎市は1980年代後半に人口減少に転じると、少子高齢化や若者の県外流出が加速。直近では、人口が40万人を下回り、あるじを失った家が斜面に取り残された。

老朽化した空き家は倒壊などのおそれもある。老朽化で危険な空き家は、2019年までの過去5年間で約3倍に増えている。
市は、こうした空き家をなくすため、所有者に対応を求めている。それでも相続で所有者がわからなかったり、県外にいる所有者と連絡が取れなかったりと、一筋縄ではいかないのが現状だ。

長崎市建築指導課・植坂武史課長:
まずは、お願いレベルからのスタートになる。空き家の状態に応じては指導や勧告、命令もありえる。最終的には法に基づいてということになる

空き家の解体には補助金があるが、上限が50万円と限られ、多くの場合は解体費の全てを賄えない。また、解体すれば固定資産税が上がることなども、空き家が放置されている要因だ。

こうした空き家を有効活用してもらうために考えられたのが、「空き家バンク」だ。長崎市が立ち上げた「空き家バンク」は、流通しにくい空き家や空き地をインターネット上で紹介し、売り手と買い手のマッチングを図るものだ。

しかし、100件以上の登録のうち、成約に結びつくのは年間5件程度。さらに、移住促進が目的で市内の人は購入できないことから、制度の見直しを求める声も上がっている。
長崎市は、「空き家の活用は必ずしも移住者に限ったものではない、市内に住んでいる人に空き家を提供できる仕組みを検討中」としている。

借り手側のニーズを生み出す工夫も

さらに、行政と民間が一体となった空き家の有効活用への取り組みも進んでいる。空き家の活用には様々な障害がある中、需要を掘り起こして次の所有者につなぐなど、前向きな動きも見られるようになってきた。

長崎市南町にある1軒の空き家は、車道には面しておらず、最短距離で市街地に向かうには100段以上の階段を使う必要がある。

内見した人:
縁側がある!

この日、見学会が行われていたのは、築53年の平屋住宅だ。亡き母親が住んでいた住宅を相続した男性から、長崎市内の不動産会社が買い取り、リノベーションした。不動産会社は、家賃2万9,000円で子育て世帯に貸すことを決めた。

明生興産・桃田佳依主任:
利益重視よりも、空き家や子育て世帯の方の支援。壊さずにリノベーションする環境対策に重点を置いた。高台でも住めること、古い家でもリノベーションすれば住める。家を大切にしたいねと思っていただければ

賃貸で10年間住み続けると、そのまま住宅を譲り受けることもでき、子どもが成長したころに家賃負担がなくなるメリットがある。不便な立地であっても、借り手側のニーズを生み出す工夫で、空き家に対する印象は変わる。

内見に来た女性:
(家賃は)安い

――10年後住宅をもらえるという点は?

内見に来た女性:
それが一番いい。子どもたちが大きくなったときどうするか考える

内見に来た男性:
(浮いた費用を)教育費・養育費に回せるのがいいと思う

斜面地の空き家を気に入り、移住を決めた人もいる。
栃木・那須塩原市から移り住んだ赤坂さん夫妻は3年前、長崎市江の浦町にある築60年以上の平屋住宅を無償で譲り受け、住宅には居住スペースのほか、カフェを開くための店舗スペースを設けた。

赤坂伸子さん:
夫が病気をして寒さが堪えるようになった。療養もあったので、暖かいところに引っ越そうかと

この住宅は、15年もの間空き家になっていた。相続した女性は、最初のころは掃除に通っていたが、高齢のためにそれもかなわなくなったという。

赤坂さんは、「空き家バンク」を通じて住宅を決め、店舗部分は、友人とDIYで作り上げた。全てを新しくするのではなく、あえて建築当時の昭和30年代の雰囲気を残し、懐かしさを醸し出したという。

赤坂伸子さん:
静かで鳥の声が聞こえたり、港の汽笛の声が聞こえたりする。長崎に暮らしていらっしゃる方も高層マンションだったり、平らな場所に住んでいると、なかなか、こういう斜面地に足を踏み入れない方もいて、久しぶりに坂を歩きましたという方もいるので、長崎らしさを感じてもらえていると思う

カフェを訪れる客の中には、中心部に近い利便性などから、斜面地に関心を寄せる若い世代も多く、赤坂さんは、斜面地の活用に可能性を感じている。

赤坂伸子さん:
斜面地だから暮らしにくいということばかりに注目するのではなく、どうやったら便利に暮らせるか、それを魅力に思う人がいると思う。若い人たちが暮らして商売ができたり、仕事ができたり、暮らしを楽しんだりできれば、斜面地にもっと住んでいただけるのでは

赤坂さん夫妻が営むカフェの名は「燈家」。長崎の「夜景のひとつ」、「長崎の明かりのひとつ」になりたいという意味が込められている。

世界新三大夜景のひとつでもある長崎の夜景は、斜面地に立ち並ぶ家々の明かりだ。長崎の街の宝として、この明かりを守るためにも、長崎市全体で空き家問題に取り組んでいく必要があると言えそうだ。

(テレビ長崎)

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