”ブーム”で登山者急増 マナーが課題に

北海道のほぼ中心、大雪山国立公園。

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1年のほとんどが雪に覆われている山に、短い夏が訪れていた。

上川町の層雲峡から黒岳を越え、見渡す限りの稜線と、雪渓に囲まれた登山道を進むと突如現れるのが、黒岳石室。

ここも多くの登山者で賑わっている。

「ロープウェイとリフトを利用したら、比較的初心者でも登れる山。たくさんの山を経験できるので、お気に入りの山の1つ」(登山者)

「7月にこれだけ雪が残って、緑がある、花が咲いているというのは本州にはない風景なので、素敵だなと思う」(登山者)

登山道と共に整備されてから、2023年で100年を迎える黒岳石室は、夏の間管理人が常駐する、大雪山では珍しい避難小屋だ。

管理人の一人、細田直之さんは、17年間、石室を管理しながら大雪山を訪れる登山者を見守ってきた。

水道はなく、電気も太陽光のバッテリーのみ。

最低限の設備だが、登山者を守る重要な拠点だ。

「大雪山国立公園の中に避難小屋がいくつもあるが、ほとんど無人。管理人がいるというだけで安心感は登山者に生まれる」(黒岳石室管理人・細田直之さん)

雄大な大自然が人々を魅了するが

この大自然は、危険と背中合わせ。

大雪山 変わり始めた「自然との距離」

それを忘れている人が増えている。

2023年、登山者とヒグマの接近が問題に。

7月8日、白雲岳避難小屋のテント場で、人を恐れないクマの親子が撮影された。

クマは登山者のすぐそばを平然と歩いているが、登山者も撮影を続けている。

さらには子グマがビニールで遊ぶ姿も撮影されている。

白雲岳避難小屋を管理する団体の代表・岡崎哲三さんは、この状況に危機感を訴える。

「これを続けるとヒグマも人慣れをしてしまってさらに人に接近する。人は怖くないんだ。人間とクマの距離が30mを切っていると聞いた。30mはクマが本気を出したら一瞬で迫ってくる距離。子グマがいる中で、こちらのことをちゃんと認識していて、子グマはしっかりこちらを見ながらいるという状態。本来はちょっとありえない状況」(北海道山岳整備・岡﨑哲三さん)

白雲岳避難小屋は現在もクマが居座っていて、テント場の閉鎖が続いている。

一方、大雪高原温泉は特にヒグマが多く生息するエリアで、人とクマの距離を保つため、日々、巡視員が登山者へのレクチャーやクマの行動を観察している。

北海道山岳整備・岡崎哲三さんは、前日とみられる「食痕」を指して語る。

「クマは歯が全部とがっているので、スパッとかみ切ることが出来ない。シカだとちょん切ったようになっているが、繊維が残ったり噛み跡がばらばらの時は、クマの場合が多い」

大雪高原温泉では、日々巡視員がクマの痕跡や行動を観察し、コースの規制などで、登山者との接近を防いでいる。

前日のものとみられるフンを示して、岡崎さんは「クマの場合は食べたものがほとんどそのまま出てくるので、何を食べたかよくわかる」と語る。

巡視中にも遠くの斜面にヒグマの姿があった。

ここでも2023年、ヒグマと人の距離を壊しかねない事態が起きていた。

「ここにおにぎりが置いてあったんだと思う。ここに米粒がまだ残っているが、ここら辺に1個あって、そのあたりに欠片が散らばっていたという感じだ」(北海道山岳整備・岡崎哲三さん)

クマが人間の食べ物の味を覚えてしまうと、人に付きまとってしまう危険な状況になっていた可能性がある。

大雪山で人とクマが共存するためには、一定の規制が必要だと岡崎さんは感じている。

「人間がある程度いるとわかっても、餌を食べられる距離は100~200m以上という距離だと思う。その距離さえ守っていればクマも気にせずにいてくれるかなと。ただ、クマが本気を出したら、来る。100mあっても、時速60kmぐらい出せるので十数秒で来る。まずは人に近づいてくるクマがいないと言うのを巡視員が判断して、通っても大丈夫かなという判断と、人に近づくクマが多い時に遠くに見えていたら、クマの生活を邪魔しないようちらっと見て帰ろうというスタイル。ヒグマがいる生態系というのはものすごく素晴らしく、価値ある場所だと思う」(岡崎哲三さん)

守られないマナー クマの”人慣れ”一因に

野生動物と人間、双方にとって大切なのが「適切な距離」だ。

「山に餌がなくなって下に降りてきた時に、道路の脇とか民家に行くようなクマになってしまったら撃ち殺されてしまう。クマにとっても人間に慣れることは本当に良くない」(岡﨑哲三さん)

北海道の山は動物たちの生活圏。

人間側のマナーが問われている。

北海道文化放送
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