教室の状況を「見える化」するシステムが登場した。開発したのは、大阪教育大学と関西電機工業。
子どもたちがどのような姿勢で授業に参加しているか、サーマルカメラ(対象の温度を色分けして示す特殊なカメラ) と人工知能(AI)で把握し、教室の状況を「見える化」するシステムだ。
子どもの姿勢などを検出できる仕組み
大阪教育大学は、大阪商工会議所と産業技術総合研究所人工知能技術コンソーシアムの支援により、AI技術を活用したサーマルカメラの画像認識技術を持つ関西電機工業と連携。大阪教育大学の教員・学生らと関西電機工業が共同で、学生が「立っている」「座っている」「机の上に伏せている」の姿勢などを検出できる仕組みの開発に取り組んできた。
そして、2020年8月~2023年3月、AI技術を活用したサーマルカメラを使い、授業中の大学生の行動を分析する実証実験を実施。その結果、9割近い精度で「姿勢」のデータを検出できた。つまり、サーマルカメラの分析結果は、実際の大学生の「姿勢」と9割近く、合っていたという。
教室を「見える化」する、このシステム、どのように使うことを想定しているのか? 大阪教育大学の仲矢史雄教授に聞いた。
「教育の改善を進めるためには客観的な観察と記録が必要」
――このようなシステムを開発した理由は?
教育の問題を解決するには、先生だけの責任にしたり、生徒の努力不足と決めつけたりしてはいけないと考えています。教育の改善を進めるためには客観的な観察と記録が必要で、それには細部にわたる長時間の作業を必要としていました。
これまでは先生がその役割を担っていましたが、その作業の負荷は大きすぎました。そして、現代の技術を活用して、これらのプロセスをデータ化することが、望まれていました。これが一番大きな動機です。
――サーマルカメラを採用した理由は?
個人情報とプライバシーに特に注意しなければいけない教育現場において、通常のカメラの画像は漏洩の要因になっておりました。
一方、サーマルカメラは、一目では誰か分からないという特徴があります。これは、大きなメリットでした。サーマルカメラで狙い通りに「姿勢」の推定ができるかどうか、ちょっとした賭けでしたが、チャレンジしてみました。
このようなシステムで授業のデータの見える化をして、先生の教え方を改善していくことにつなげてもらいたいというのが、開発者としての思いです。
――今回の実証実験に協力したのは大学生?
実証実験は、意義を理解し、参加の協力が得られた大学生さんたちで行いました。
――大学生の「姿勢」をどのように検出した?
今回、作成した「姿勢推定AI」のように、深層学習を採用したAIが、与えられた画像から、特定の姿勢を検出する方法は、「畳み込みニューラルネットワーク」という技術を使って、行います。
これは、画像を小さな領域に分けて、それぞれの領域の特徴を見つけ出す手法です。一旦、特徴が抽出されたら、あらかじめ学習された人間のどの「姿勢」に対応するか、推定します。それらの特徴の位置関係を考慮して、最も当てはまる全体の姿勢を判断するという仕組みです。
――今回の実証実験では、サーマルカメラの画像をリアルタイムで確認した?
今回は、サーマルカメラの画像を見て、後から分析しました。データの精度の検証は、後から分析して解析するのが一般的で、今回もその方法になります。なお、リアルタイムでのモニタリングも可能です。
「学生の居眠りを監視することは目的ではありません」
――サーマルカメラで検出できる「姿勢」を増やすことはできる?
可能です。機械学習は柔軟なため、今後、「挙手」という動作を検出したいという要望があれば、追加することができます。
――このシステム、どのような学校でどのように使うことを想定している?
このシステムは、自分の授業の仕方を改善したいと思う教育者であれば、どのような学校でもご活用いただければと思っております。
また、教育内容を改善したことで、学ぶ側がどのように変化したのか、客観的にデータで確かめたいという使い方を想定しています。なので、管理システムとしての利用は本意でなく、学生の居眠りを監視することは目的ではありません。眠くならない授業をすべきですから。
また、体質によって眠くなってしまう学生さんには、どのタイミングで眠気がくるのか、眠くならなかった時は何が違うのか、アドバイスするのであれば、良い展開だと思います。
――教育現場以外でも利用できる?
技術面だけに注目すると、「高齢者の見守り」をプライバシーを保護しつつ行うのに利用していきたいと思っています。
――実用化はいつ頃を予定している?
連携先の事情もありますが、今年の秋以降の教育改善事業に使用できればと思っております。
「居眠りの監視」が目的ではなく、「授業の仕方の改善」が目的だという、このシステム。今後、実用化されたら、教育の問題を先生だけの責任にせず、また、生徒の努力不足と決めつけないためにも、多くの教育現場で使われることを期待したい。