「どうせパスだろう」

2008年のクリスマス。藤枝明誠高のガードだった藤井祐眞は、海部高相手にウィンターカップの1試合史上最多記録となる79点を奪う。当時チームを指揮していた西塚建雄コーチから「80点取ってこい」と言われたという。

指揮官が求める数字に到達できなかったものの、これは現在も破られていない大会記録。この偉業を成し遂げられたのは、藤井にスコアラー(得点能力の高い選手)としての才能があったからだ。

「当時の監督に80点取れと言われて、80点に行くようなペースでガンガン点を取りに行ったし、味方も結構ボールを回してくれた。めちゃくちゃ入るから打ってやろうという感じではなくて、本当に80点を目指そうみたいな、言われた目標の点数に達するために、これは打つしかない、という感覚でしたね」

プロとしても非凡な得点力を発揮中
プロとしても非凡な得点力を発揮中
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当時をこう振り返る藤井は、高校卒業後に拓殖大へと進学し、川崎ブレイブサンダースでプレーする現在も、非凡な得点能力を持ったガードとして活躍中だ。178cmという身長は、Bリーグでも小さい。しかし、千葉ジェッツの富樫勇樹が以前口にしていたように、小さな選手がトップリーグでプレーするには、得点力が必要と藤井も認識している。

「小さい選手でどんなにアシストがうまくても、距離をあけられて中に行ってもそこまで恐怖じゃないし、“どうせパスだろう”とディフェンスもそう頭にあるわけだから、得点能力があったら選択肢の幅も増える」

CHAMPIONSHIPクォーターファイナル2戦ではセンターライン付近から3pを決めた
CHAMPIONSHIPクォーターファイナル2戦ではセンターライン付近から3pを決めた

小さいのにすごいスコアラーの代表としてあげられるのが、90年代後半から2000年代前半にかけて、NBAのフィラデルフィア・セブンティシクサーズで活躍したアレン・アイバーソン。

クイックネスと卓越したボールハンドリングを武器に、182cmの身長でNBAの得点王に4度輝いたスーパースターについて藤井は、「アイバーソンは小さいころよく見ていましたね。小学生のころはそうでもなかったですけど、中学生になってから“こんなクロスオーバーできない”みたいな感じで真似をすることはしていましたね」と語るように、スコアラーとして成長するうえで大きな影響を与えた。

「シュートが全然落ちない」

フローターで得点を狙いに行く藤井
フローターで得点を狙いに行く藤井

川崎での役割は、篠山竜青の控えポイントガードだ。しかし、大黒柱であるニック・ファジーカス、得点源の辻直人がベンチで休んでいる時が、藤井が最も輝く機会であり、試合を支配するくらいの気持でコートに立っている。

その象徴とも言える試合が、故郷の松江総合体育館で行われた2月4日の島根スサノオマジック戦。「前半はシュートが全然落ちないなという感覚で打っていましたね」と話すように、何もかもがうまく行くゾーンに入った結果、昨季最高の23点を記録していた。

島根スサノオマジック戦で23点を記録
島根スサノオマジック戦で23点を記録

藤井はドライブでガンガン攻めるタイプでもなく、アウトサイドからずっと打っているシューターでもない。一歩目の速さは大きな武器であるが、マッチアップするディフェンダーとの駆け引きで得点を奪うことを好む。この駆け引きで優位に立つと、相手にとっては厄介極まりない存在になる。

得点面におけるファジーカスと辻の負荷を軽減させるためにも、今季はスコアラーとしてより存在感をアピールしたいところ。9月7日から始まるアーリーカップ関東は、藤井自身にとってもB1制覇を目指すチームにとっても、いろいろなことを試せる絶好の機会になる。

「勝ち負けもこだわりますけど、それ以上に自分を試せる場です。普段プレータイムの少ない控え選手が長く出るなど、各チームがいろいろ試しながらやっている。活躍すれば自信もつきますし、“これだけできる、これはうまくいく”というところは、どんどんチャレンジしていける場なのでいいと思います。

去年の課題だったニックと辻さんがいなかったときの得点力不足、セカンドチームの得点力不足(解消)をアーリーカップで試せる。セカンドチームのレベルがアップすれば、代表組が帰ってきたとき絶対プラスに働くはずだし、戦い方でいろいろ試していけたらなと思います」

得点力を武器に新たな挑戦
得点力を武器に新たな挑戦

【B.LEAGUE EARLY CUP 2018 】
https://www.bleague.jp/earlycup2018/
関東大会:9月7日(金)8日(土)9日(日)会場:ブレックスアリーナ宇都宮https://www.fujitv.co.jp/sports/basketball/earlycup/index.html

取材・文/青木崇 Interview and text by Takashi Aoki

 
青木崇
青木崇

バスケットボール専門誌の編集者から1998年秋にライターとして独立。アメリカのミシガン州を拠点にNBA、NCAA、FIBAの国際大会を数多く取材。2010年を最後に帰国し、現在はライターとしてだけでなく、Bリーグの解説者としても活動。

バスケットボール専門誌の編集者から1998年秋にライターとして独立。アメリカのミシガン州を拠点にNBA、NCAA、FIBAの国際大会を数多く取材。2010年を最後に帰国し、現在はライターとしてだけでなく、Bリーグの解説者としても活動。