子育ての困りごとを地域の人たちで共有し、共に子育てしていくことを目標とする「子育てシェアリング」。提唱する子育て施設を取材すると、交流の場となる一方で、資金繰りに苦労している現状も浮かび上がってきた。

地域の子ども・大人たちが集う場所

福岡・直方市でシェアリングを提唱する子育て施設。風情ある建物の中をのぞいてみると、子どもと大人が和気あいあいと過ごしていた。遊びに来ていた小学生の女の子は、現在夏休み中。保護者が仕事で家にいないため、この場所に毎日のように通ってきていると話す。

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子どもたち、そして地域の大人たちが思い思いに集う、その名も「いろり」。名前には、子どもから年配者までが、いろりを囲んで話をするように交流してほしいという思いが込められている。

オープンは1年前。予約も必要なく、自由に遊ぶことができる。さらにはランチも楽しめて、「親子ひろば」や小学生以下は無料の「子ども食堂」なども併設。子どもだけで訪れても、スタッフや周りの大人たちが面倒を見てくれる。

人が集い、にぎわう場所に

この憩いの場を立ち上げたのは、施設代表を務め保育士の資格も持つ辻千恵さんだ。

「いろり」辻千恵代表:
もともと自分が保育士で、知的障害とか発達障害をお持ちのお子さんの療育が専門だったんですけど、いろんな個性とか、いろんな背景を持った子どもさんとかが「一緒に過ごせるところができたらいいな」って、ずっと思ってたので…

これまでたくさんの親子と接してきた経験を持つ辻さん。児童虐待や保護者の就職難などの問題がニュースで取り上げられるたびに心を痛め、この「いろり」を立ち上げたと話す。

直方市は炭鉱で栄えた過去を持つ。「いろり」は過去に大勢の人が集い、時を過ごした商家を改造した築139年の建物を利用している。数年前までは荒れ放題だったというが、辻さんは仲間とセルフリノベーションし、かつてこの場所がそうだったように人が集い、にぎわう場所として再生させているのだ。

「いろり」辻千恵代表:
子どもたちを見守りあったり、送迎しあったり、物理的なこともあるけど、精神的なところもシェアできたら、一番いいなと思っていて。子育てするなかで「実は最近こんなことで悩んでいる」とか「ほかで言えなかったようなことを言って楽になる」とか、そういうことを“子育てシェアリング”と自分たちでは呼んでます

辻さんが提唱しているのは、地域の大人全員で子どもたちを育てる「子育てシェアリング」だ。子育ての困りごとを1人で抱え込まず、地域で暮らす人たちで共有し、ともに子育てしていくことを目標としている。

「いろり」を訪れた母親:
同じ嗜好(しこう)の方とも出会えるし、そうでない方とも出会えて、子どもも同世代とか問わず、ちょっと大きな小学生や中学生にも出会えたりとか、先輩ママにも出会えたりして、「この頃は大変だったよね」って言ってくれたら、「みんなこういう経験されてるんだな」って思える

大勢の人でにぎわう施設「いろり」。2階に上がってみると、そこにも広々とした空間が広がっていた。

「いろり」辻千恵代表:
ここは、コワーキングスペースになっています

共同利用できるスペースで大勢の人が雑貨の販売やネイルマッサージなどの美容サービスの提供、さらには子どもたちが先生から様々なことを教えてもらう習い事の空間として利用されている。

保護者がこの場所で販売や様々なサービスを提供している間、子どもたちは1階で、ほかの大人に見守られながら時間を過ごす。

「いろり」を訪れた母親:
子どもを誰かが見てくれる。数時間でも相手を、誰かここにいるお客さんがしてくれてるから、子どもをほったらかしてキッチンを借りているので、ありがたいです。好きなことをしようと思ったら、子どもを見ていてもらわないとなかなか手が空かないから。ありがたいね、誰かが遊んでくれるから

「いろり」に遊びに来ている子ども:
(学校は一緒?)違う。みんな知らない人で学校も全く違うし、全然、元は関わりない。いろんな人たちとの関わりが多くなったから、そこは楽しい

子どもたちの評価も上々の「いろり」。代表の辻さんは、夏休みが明ける9月から新たな活動を始めようとしている。それは不登校の子どもたちに昼間通ってきてもらい、居場所を提供する取り組みだ。

「いろり」辻千恵代表:
ここで楽しかったり、みんなで仲間ができたり、交流ができたりっていうところは、もちろん大事にしながら、必ずその地域にいる、しんどい状況の子どもたちが、例えば1人でご飯を食べに来られたりとか、家で何かあってもいっぱい頼れる人ができるような、そういうセーフティーネットになれれば、一番うれしいなと思っています

運営には課題も…支援呼びかけ

しかし、子育ての貴重な交流の場となっている一方で、資金繰りに苦労しているという現状もある。運営維持費はランチ代やコワーキングスペースの利用料で賄っていて、スタッフ全員、ボランティアだ。このような子育て支援の場所を運営していくためにはやはり資金が必要となるため、クラウドファンディングで支援を呼びかけている。

共に子育てをし、地域活性化にもつながっているという施設。継続運営ができるように多くの人々で支えていきたい。

(テレビ西日本)

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