30年間海を守った巡視船「いなさ」

2001年、日本中を驚かせた不審船事件。
この時活躍した巡視船が2020年6月、引退した。

6月10日。唐津海上保安部に所属する巡視船「いなさ」は、引退前最後の航海に向かった。
約30年にわたり、密輸など海上犯罪の取り締まりや海難救助など海の安全を守ってきた船。

2019年4月から最後の船長を務めた、松田政文さん(64)。
30年間蓄積された船へのダメージは大きく、約1年3カ月の間に、100を超える故障に見舞われたという。

巡視船「いなさ」松田政文船長:
機関室の天井から雨漏りしたとかですね。乗組員も、愚痴の1つもやっぱり言いたいところもあるんでしょうけど、ぐっとがまんして最後まで看取ってあげようと

「いなさ」は、当時まだ珍しかった時速65km以上の高速で走れる小型巡視船として作られ、1990年に長崎海上保安部に配属された。
それから11年後、「いなさ」は、北朝鮮の工作船と命を懸けた戦いを繰り広げることになる。

国内に衝撃…九州南西海域工作船事件

2001年12月 奄美大島の南西沖で、「いなさ」に加え、海保の巡視船「あまみ」「きりしま」「みずき」の4隻が“不審な船”と対峙。国内に衝撃が走る。

事件をよく知る人物が佐世保市にいる。
佐賀・白石町出身の白武敏美さん(65)。当時「いなさ」の航海長だった。

佐世保海上保安部・白武敏美さん:
その当時はよくそういう(不審船の)情報があって、たびたび緊急出港で出ておりましたんで、まあ、“またか”というような気持ちで出港した。

ーーまさか、あんなことになるとは?

佐世保海上保安部・白武敏美さん:
そうですね、全然思ってなかったですね

不審船を見つけた「いなさ」は、すぐに停船命令を出したが反応なし。
海保としては48年ぶりとなった威嚇のための船体射撃に踏み切った。

佐世保海上保安部・白武敏美さん:
船体射撃は、わたしはその時が初めてです。最初で最後ですね。操舵を命じながら、「発射」とか射撃の指示をすると

それでも不審船は逃走を続け、午後10時すぎ 暗闇の中でついに…

佐世保海上保安部・白武敏美さん:
パンパン、というような音とともに光って、"「あまみ」と「きりしま」が撃たれている”と。その直後に本船の方にもパンパンパンパン当たってきて、本船も撃たれたということで、それと前後して本部からも「正当防衛射撃実施せよ」と指示がありまして

激しい攻防が記録されたVTRには、決死の覚悟で指示を出す白武さんの声が残っている。

佐世保海上保安部・白武敏美さん:
はっきり言って、船体の真ん中、中央狙って(撃った)

「いなさ」も20数発ほど被弾し、片側のエンジンが使えなくなった。

佐世保海上保安部・白武敏美さん:
やるしかないということで撃ちました。うちにも撃ってる横に弾がきているんで。正当防衛射撃の最中に白い光を見た。わたしも見たんですけど、あとから考えれば、ロケットランチャーじゃなかったかなというような話もありますし、当たっていたら今、わたしはいない

正当防衛射撃を開始してまもなく、不審船は爆発とともに沈没した。
自爆とみられている。

佐世保海上保安部・白武敏美さん:
沈んだあと、それも赤外線の装置で見えるんですけど、14~15名海面に浮いているのが見えました。それで風上に行って、救命浮環を流して救助するような恰好で。救命浮環を何個か各船で流しました。それでも最終的に人影が見えなくなったと

海保側は「あまみ」の乗組員3人が負傷したが、幸いにも死者はいなかった。

その後、「いなさ」は鹿児島港に向かったが、港には大勢の報道陣が待ち構えていた。
そこで初めて、大事件として報じられていることを知った。

佐世保海上保安部・白武敏美さん:
当時は、テレビも衛星なども全然映らないし、そこらへんにいる魚釣りの船とかが、みんな向かってきて手振るんで、なんかおかしいんじゃないかなというような気がして

その翌年、不審船は現場から引き揚げられ、北朝鮮の工作船だったことが判明。この事件を教訓に、さらに大型で高速の巡視船が作られることになる。

30年走り続け…迎えた引退の日

「いなさ」は、事件から約4年後の2005年、唐津海保に配属替えとなり、船長になっていた白武さんの手で唐津に運ばれた。

佐世保海上保安部・白武敏美さん:
わたしも今年度で完全な退職ということで、「いなさ」も時期同じく年度で解役ということで、非常に感慨深いものがあります

迎えた引退の日。
数ある海保の船の中でも、事件でともに戦った4隻のみが持っている長官表彰の記念プレートも取り外された。

これまでに走った距離は約60万km、地球15周分。
救助した人数は150人、海上犯罪の検挙は507件にのぼる。

佐世保海上保安部・白武敏美さん:
現役時代に12~13隻の巡視船乗ったんですが、やっぱり一番思い入れが深い船。「ご苦労さん」という気持ちが大きいですね、やっぱり。慰労したい気持ちがあります。よくやってくれたと思います

(サガテレビ)