福島県・新潟県・栃木県・群馬県にまたがる「尾瀬国立公園」は、標高1500mに広がる動植物の楽園。この尾瀬を、荷物を背負い歩き続ける人がいる。

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若い時は150キロを背負って

尾瀬の群馬県側の入り口、片品村・鳩待峠。午前7時、荷物を運び出す男性がいた。
「今、振り分け中です。燧小屋で69キロと尾瀬小屋が75キロくらいで、この時期は大体でもそのくらい。それこそ20代30代くらいのときは、140とか150キロくらいは背負ったときがありましたよ」

荷物の振り分け中
荷物の振り分け中

重い荷物を背負い山道を行く

福島県会津若松市出身の渡部努さん(56)は、歩荷歴34年。シーズンの4月下旬から10月末までほぼ毎日、山小屋に野菜や肉など荷物を届ける。

歩荷歴34年・渡部努さん(56)
歩荷歴34年・渡部努さん(56)

荷物の重さは把握しているので大丈夫という渡部さんでも、立った瞬間に「行けるかどうか」と思うこともあるという。背負う荷物は、約80キロ。10キロ先の山小屋を目指す。

歩荷…山小屋に運ぶ荷物の重さは70~120キロ 山の鉄人とも呼ばれる
歩荷…山小屋に運ぶ荷物の重さは70~120キロ 山の鉄人とも呼ばれる

「きょうは乾いているので、だいぶ違いますけど。これが雨のあととか、ぬれているともうちょっと緊張感が」

コンディションの悪い道を歩くときは緊張感が
コンディションの悪い道を歩くときは緊張感が

スキルと体力と精神力…歩荷の仕事

高校時代に入った山岳部で山に魅了された渡部さん。山小屋で働いていた23歳の時、歩荷をはじめた。

山岳部に入り魅了され 23歳から歩荷をはじめる
山岳部に入り魅了され 23歳から歩荷をはじめる

「1年目2年目なんかは、そんなに上手くいかないので、滑って転んで卵割っちゃったとか、とにかく湿布ばっかり体中に。あっちこっちから安い湿布屋を探して。みんなそうでしたけどね。布団が湿布臭くて…。一つ一つこなしていく楽しさがあったんですよね」

歩荷を始めた頃の渡部さん
歩荷を始めた頃の渡部さん

尾瀬を毎日歩ける贅沢

歩荷という大変な仕事を続けられた理由を渡部さんはこう話す。
「単純に眺めているだけでいいですよね。一番の魅力は、この尾瀬だからっていうのはあります」

帳場という歩荷専用の休憩場所で一息
帳場という歩荷専用の休憩場所で一息

「春は春の良さがあって、秋は秋の良さがあって。毎日ここを荷物は背負いますけど、歩けるっていう。なかなかやっぱり贅沢ですよね」

季節ごとに表情をかえる尾瀬に魅了される
季節ごとに表情をかえる尾瀬に魅了される

「自然保護の原点」とも言われる尾瀬。かつては開発の危機にさらされ、利用者の増加で自然が破壊されたこともあった。
「自然と共に人間がいますよっていう意識は少しずつ高まってきて、今はやっぱり共存ですよね」

かつては開発の危機や利用者増加で自然が破壊されたことも
かつては開発の危機や利用者増加で自然が破壊されたことも

80キロを背負い3時間半

傷みが激しい福島県側の木道。より慎重に、足の裏全体で踏みしめながら進む。出発から約3時間半、福島県檜枝岐村にある燧小屋に到着した。

木道が朽ち足場が悪いところも
木道が朽ち足場が悪いところも

「ほっとして。終わったっていうのと、きょうも頑張ったなとそんな感じです」と話し、小屋で用意してくれた食事で疲れを癒した。

3時間半かけ燧小屋に到着 ほっとするひと時
3時間半かけ燧小屋に到着 ほっとするひと時

歩荷は欠かせないパートナー

燧小屋の調理担当・平野てるみさんは「ヘリだと2週間に一度くらいしか飛ばない。野菜も腐ったりするので、無駄になってしまう。歩荷さんが週2回持ってきてくれるのですごく助かっている。きょうは、もう何もなくて営業停止にするくらいだった」と冗談交じりに渡部さんへの感謝を語る。

燧小屋は檜枝岐村出身の平野さん一家が経営
燧小屋は檜枝岐村出身の平野さん一家が経営

「30年以上やってますけど、ご苦労様と言う言葉を毎回かけてくれるので、やりがいがありますね。使命感が出ます」と渡部さん。燧小屋の平野陽一さんは「自分たちの生活、小屋の運営にはなくてはならない。自分たちの右腕という言い方は失礼ですけど、人生のパートナーみたいな存在」だと話す。

歩荷の渡部さんは人生のパートナーと燧小屋の平野さん
歩荷の渡部さんは人生のパートナーと燧小屋の平野さん

特別ではなく尾瀬にかかわる一つとして

ヘリコプターでも行われる荷物の輸送。それでも、尾瀬で歩荷が必要とされる限り…
「歩荷は尾瀬があってだし、山小屋との関係性も、今一緒にやっている仲間とかも楽しいですから。特別な存在じゃなくて、尾瀬の中の一つの単純な仕事として、淡々と残っていければ一番いいと思います。多分、尾瀬が体にしみ付いてるんだろうなと思うんですけど、自分が思ってるよりは多分、相当。離れる時に、さらにわかるんですかね」

尾瀬があっての歩荷 これからも淡々と
尾瀬があっての歩荷 これからも淡々と

気負わず、自然に、ありのまま。尾瀬とともに生きていく。きょうも歩荷が歩いている。

(福島テレビ)

福島テレビ
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