大手中古車販売会社「ビッグモーター」をめぐる問題が連日報じられている。BSフジLIVE「プライムニュース」では政治家と識者を迎え、ビッグモーターの数々の問題の背景と、一社の問題にとどまらない日本の産業構造の問題点について徹底議論した。

内部通報制度が全く機能しなかったビッグモーター

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新美有加キャスター:
ビッグモーターは中古車売買・新車の販売、車検・修理、保険代理店の3事業が柱だが、修理の際に故意に顧客の車に傷をつけ保険金を不正に請求していることが発覚。また任意保険の契約を捏造していた疑惑など、さまざまな疑惑や不正がある。

自動車生活ジャーナリスト 加藤久美子氏:
一般の客が多くだまされている。例えば、冠水車(水に浸かった車)は販売時に告知の義務があるが、それをせずに普通の値段で販売し、裁判になっているケースも。

反町理キャスター:
従業員が300人を超える事業者に内部通報の体制整備を義務化した内部通報制度がある。今回の問題で機能したか。

新美有加キャスター:
経緯としては、2022年1月に工場従業員が不正行為を内部告発。これを受けて損害保険会社大手は不正請求の疑いをビッグモーターに指摘し実態調査を要請。2023年1月にビッグモーターが外部弁護士による特別調査委員会を設置して調査を開始。7月、ビッグモーターは不正請求が認定されたことを発表した。

経済ジャーナリスト 町田徹氏:
内部告発の話はもうひとつある。社長の甥の従業員が、従兄弟の副社長(社長の息子)に相談、告発しに行ったもの。本来は告発した人物が誰かは厳秘として守られなければいけないが、いきなり経営に持っていき、内部従業員間の感情のもつれの問題として処理してしまった。内部通報を扱う仕組みに全くなっていない。非上場会社でも、企業の統治上の監査はしっかりさせなければ。

片山さつき 自民党金融調査会長:
公益通報者保護法上の体制整備が全くなく、しかも握りつぶしたということで消費者庁が処分に動くだろう。加えて商法上の違反の可能性も見る。それで足りなければ、ある程度以上の規模の会社についてはさらに何か考えなければいけない。あまりに特殊なので、まず今回の事態を解明すること。

各省庁がバラバラに調査 他社も含め全容は解明されるのか

新美有加キャスター:
今回の不正・疑惑について各省庁が独自の調査に乗り出している。国交省は、不正な修理や車検などの調査を開始。金融庁は保険の不正請求について。消費者庁は内部通報制度が機能していたか、違反がなかったかの調査。

経済ジャーナリスト 町田徹氏:
会社の構造を俯瞰して見るためには、監査法人などがもう少し普段から見る必要がある。現状、全容を解明する仕組みがない。

片山さつき 自民党金融調査会長:
車両法に基づき、報告書に出てきた34事業場に国交省が一斉に立ち入り、徹底的に検査している。ただ、今回のようなことをする人はいない前提の法律なので、今回の悪質さを取り締まる部分ではチェックポイントがややずれている。

反町理キャスター:
法律が性善説に基づいているということか。

片山さつき 自民党金融調査会長:
どちらかというと性善説。だが、車検の違反など含め徹底的に見ると思う。チェックポイントが想定してないからと言って甘く見ることがあってはいけない。

反町理キャスター:
調査はビッグモーターだけで、他社には及ばないのか。全容を解明する姿勢とかけ離れた姿勢では?

片山さつき 自民党金融調査会長:
他社も見るようにとは政治家は皆言っている。ここまでの組織的なことをやれるところは限られており、その典型例であるビッグモーターに入るのは端緒として意味がある。これを機に業界全体をより国民が納得するものにしなければ。

経済ジャーナリスト 町田徹氏:
業界全部を監視するのは無理。日本は性善説に基づく制度作りをして、それをずっと守ってきた。それをぶち壊して性悪説に基づく新たな監視体制に行く覚悟までは、国交省や金融庁にはない。この問題に関してはちゃんと解明して厳しく処分し、国民に納得してもらえればという感覚。

反町理キャスター:
政府として、官邸に関係閣僚会議を常設して対策本部を作り、情報が集約されて各省庁に指示を下ろすシステムにはならないか。

片山さつき 自民党金融調査会長:
金融庁が損保各社に報告徴求命令を出したが、その期間はだいたい1カ月。まずそこからだと思う。世の中が大きく構造転換していく中、絶対にいい方に行こうという意識は持たなければいけないし、我々政治家が持たせようと思っている。

ビッグモーターと損保会社、もたれ合いの構図とは

新美有加キャスター:
保険金不正請求の裏側にあるビッグモーターと損保会社の関係の構図。保険の契約者は事故時に損保会社に連絡する。損保側は修理工場を紹介するが、優先的にビッグモーターを紹介していた。事故車がビッグモーターの修理工場に運ばれると、修理を行う際に故意に傷をつけるなどして修理費を水増し請求。損保は水増し請求に対して保険金を支払っていた。一方でビッグモーターは見返りとして、全自動車に加入が義務付けられている自賠責保険を割り振っていた。損保側を単純に被害者と見ていいのか。

自動車生活ジャーナリスト 加藤久美子氏:
もちろん単純な被害者ではない。この入庫誘導(修理工場の紹介)1件につき自賠責保険を5件割り振るとの約束があった。10万〜20万円ほどの水増し請求なら、自賠責保険を割り振られる利益の方が大きかった。

経済ジャーナリスト 町田徹氏:
商慣行として互いに客を紹介するレベルの持ちつ持たれつは当然ある。だが、2021年6月に損保ジャパン、三井住友海上、東京海上日動の3社が連名で、ビッグモーターに対し不正についての調査を要求している。報告が不足していると一度突っ返してもいて、危機感があったはず。ただ、未解決の段階で損保ジャパンは取引を再開している。かなり疑わしいと言わざるを得ないのでは。

反町理キャスター:
加入が義務である1万7650円の自賠責保険、任意保険をつければさらに高額になる。これが大きな収益になっていたか。

自動車生活ジャーナリスト 加藤久美子氏:
そう。自賠責保険は車検のときに入るもので、一般的な自家用車の場合は2年ごと。ビッグモーターは車検から次の車検までの2年分の自賠責保険の割り振りをしやすい環境にある。ビッグモーターの年間車検台数は26万台で業界の中でもダントツに多い。これを背景として特殊な取引ができたのかなと思う。

“優越的地位の濫用”に阻害される賃上げ

新美有加キャスター:
修理時の工賃の算出方法。損保各社は作業の1時間あたり単価を設定し、損保各社が共同で出資している「自研センター」が設定した作業内容ごとの作業時間指数を掛け合わせて修理工賃を算出、最終的に損保と自動車整備業者との話し合いで決められている。単価が約20年ぶりに引き上げられたが。

片山さつき 自民党金融調査会長:
話し合いに整備業者側が合意したことはない。圧倒的に損保側が強い。コストも上がる中、普通は20年据え置きということはない。自動車整備は典型的な3Kの現場で適正な対価が確保されておらず、若者が来るわけがない。小さい会社からは、自分たちはきちっとやっているのに車検で手を抜いているところがあるという不満がある。真面目なところが必要な単価を請求できる形にしないと、誰も幸せにならない。

経済ジャーナリスト 町田徹氏:
おっしゃる通り。一方で、これは三十数年にわたるデフレの悪循環の中で起きてきた。損保会社としても、背後には保険料だけが上がれば車を維持できないという保険加入者がいる。

反町理キャスター:
損保会社と修理工場の関係で優越的地位の濫用があるのでは。

片山さつき 自民党金融調査会長: 
ユーザーから見れば保険料は安い方がよく、それを代表する意味では一方的な優越的地位の濫用ではない。だが現場から見れば査定する側は強い。業界慣行は法律で何も規制しておらず、民民規制で自縄自縛になっている。優越的地位もあるがそれだけではない。働く人も含め全体が回る制度に変えるべき。

反町理キャスター:
大手整備工場と町の板金屋など下請けとの関係での優越的地位の濫用は。

片山さつき 自民党金融調査会長:
それはそうだった可能性がある。地方での自動車整備の会合でも恨めしそうに言われた。

自動車生活ジャーナリスト 加藤久美子氏:
板金塗装の会社をやっている知人がビッグモーターの下請けをしているが、料金設定もむちゃくちゃで無理な要求もある。

反町理キャスター:
ならば、公正取引委員会が動いていないのはおかしくないか。

片山さつき 自民党金融調査会長:
保険も絡んだ業界慣行全体への理解はなかったのだと思う。そこがこれから解明されれば、これはおかしいとなり、下請Gメン(中小企業庁の配置する取引調査員)なども入るかもしれない。

反町理キャスター:
下請け工場が優先的地位の濫用に直面したときにどうしたらいいのか。日本社会全体の問題では。

経済ジャーナリスト 町田徹氏:
コストを転嫁して、下請けがきちんと要求していくのは大事。言えば仕事を切られるなら、そんな会社は切ってでも次の会社を取りに行くという気概を経営者の人には持ってほしい。

片山さつき 自民党金融調査会長:
典型的な問題のるつぼになっているところにやっと光が当たってくれたと思う。ブルーカラー中心の職場をきちっと捉え直して見直し、適正な対価を払う、それが本来の給料だとしていくべき。自由競争の中でも、適正価格を払える形で公取委が指導をしていかないと無理だった、ということに立ち返ること。

(BSフジLIVE「プライムニュース」8月2日放送)