かつては学校に設置されたプールで行われるのが当たり前だった水泳の授業。しかし、老朽化にともない安全性の観点や維持・管理に要する費用の観点から、校内のプールの使用を取りやめる学校も出てきている。
進む経年劣化 プール閉鎖の学校も

7月20日。静岡県袋井市にある三川小学校のプールでは、照り付ける日差しの下、子供たちが元気いっぱいに泳いでいた。しかし、このプールが使えるのも、この日が最後。
建設から47年。三川小学校のプールについて、袋井市教育委員会は老朽化を理由に閉鎖することを決めたからだ。嶋田修 校長は「水漏れや汚れが目立ち、安全に授業をするという観点では心配な点がたくさんある」と説明する。
20日は、子供たちから「全校児童で思い出をつくるとともに感謝の気持ちを込めて泳ぎたい」と声があがったことから、特別に1日だけ解放することにしたという。ある児童は「僕たちを笑顔で遊ばせてくれて、ありがとうと叫びたい」と話し、最後はみんなで「ありがとうございました」と大きな声でプールに一礼し別れを告げた。

また、三川小学校と同じ袋井市にある浅羽北小学校でもプールの築年数が50年に達したため閉鎖となるなど、おおむね築30年頃からプール設備の劣化が始まると言われる中、袋井市では12校ある小学校のうち半数以上の7校でこの目安を超えている。
水泳授業に市営プールを活用

こうした中、袋井市教育委員会が本格的に取り組んでいるのが“市営プール”を活かした水泳の授業だ。過去2年間の実証実験を経て、2023年度から築40年超のプールを持つ小学校4校の授業を移行した。

袋井市の市営プールは全天候型の屋内プールで、しかも温水だ。天候に左右されることなく、計画的に授業が実施できる上、学校のプールと違って突然の落雷やゲリラ豪雨、さらには“灼熱”のプールサイドを心配する必要がなく、水質が保たれた環境の中で安心して泳ぐことができる。このため児童からも「よく見えて泳ぎやすい」「虫もいないし、プールサイドも暑くない。(屋外プールは)日差しがまぶしく息継ぎがしにくかったが、屋根があり息継ぎもしやすい」と好意的な声が聞かれる。
授業はこれまで学校のプールで行っていた時と同じように教師が進めていくが、インストラクターが補助に入り泳ぎが苦手な児童を中心に教えていくので、泳力の向上も期待されている。この指導体制も児童には好評で「教え方が上手いし、細かく時間をかけて教えてくれるのがよい」「学校で行っていた時より上達しているかなと思う」などと笑顔で話してくれた。

一方、水泳の授業に市営プールを活用することは教師にとってもメリットがある。学校に設置されたプールの場合、管理は教師の役割で、毎朝、気温や水温の測定、そして掃除や水質検査を行わなければならない。浅羽北小学校の押方歩 体育主任は「今まで負担になってきた部分が、子供たち一人一人を見る時間や授業の準備をする時間に変わるなど、いろいろな時間に活用できるようになった」という。

さらに費用面での効果も期待されている。袋井市教育委員会によれば、市内12校のプールの維持・管理に要する費用は年間 約5000万円。1校あたりで見ると400万円超となる計算だが、市営プールに切り替えることで約300万円削減できると見込んでいて、学校教育課の鈴木千里 指導主事は「現状では4校の授業を市営プールで実施しているが、今後5年程経つとプールの築年数が40年を超える学校がさらに4校増えるので、老朽化の状況を見て市営プールを活用した授業を実施するか検討する」としている。
ただ、もちろんメリットだけでなく課題もある。市営プールにはバスを使って移動することから、言うまでもなく校内にあるプールと比べて時間を要する。また市営プールということで毎日、貸切ることはできず、次の水泳授業まで3週間も間隔が空いてしまう学校も現状は出てしまっている。
それでも子供たちの安全を考えれば、公営施設や民間施設の利活用を含めて学校のプールの在り方や存在意義を検討し直す時期に来ていると言えよう。
(テレビ静岡)