真夏に賑わいを見せるキャンプ場。

しかし、そのすぐそばには危険なウイルスを媒介する「マダニ」が潜んでいるかもしれないという。

体長数ミリほどの小さなマダニだが、日本紅斑熱やライム病など様々な感染症を媒介し、最近では、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)ウイルスの感染拡大が懸念されている。

いまだ治療法が確立していないSFTSウイルスに罹患した、宮崎県の40代の獣医師に症状や注意点を聞いた。

致死率は約6%~30%

ーーいつ頃、SFTSに感染した?

2018年8月に感染しました。

動物病院で働いているので、SFTSに感染していた猫の治療にあたった時に猫の体液から感染したと思われます。

マダニが媒介するSFTSウイルス
マダニが媒介するSFTSウイルス
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猫と接触してから8日目に倦怠感、10日目に発熱して病院を受診しましたが、死亡率が高い病気だと聞いていたので怖かったです。

発熱と激しい倦怠感や悪寒などインフルエンザのような症状がある一方、喉の痛みなどの風邪症状はありませんでした。

SFTSウイルスに対する有効な治療薬はないので、対症療法で点滴や二次感染予防の抗生剤を投与してもらい10日間入院しました。

入院中は完全に隔離状態で、家族は防護服を着用しての面会となりました。

ーー入院中の症状は?

入院初日は39度、2日目は38度で、3日目に平熱近くに下がりましたが、インフルエンザよりも倦怠感が強く、食欲もなく、胃もたれのような症状が続きました。

血小板や白血球の数が下がっていたので、それらが回復したのを確認して退院しました。

ダニ駆除薬を打っても感染

SFTSの感染は2013年に西日本から始まり、被害は徐々に東に拡大。

感染者数は増加傾向にあり、2021年は111人、2022年は116人と2年連続で最多を更新している。

ペットに寄生し、病気を媒介するマダニ。

先の獣医師は、飼い猫や犬のマダニ対策は重要だが、完全には予防できないと続ける。

ーー猫にノミ、ダニ駆除薬を打っても感染する?

ノミ、ダニ駆除の塗布剤や、犬には経口薬もありますが、予防薬を使っていても100%防げるものではないです。

感染している動物の体液にSFTSウイルスが排泄されるので、ダニの吸血以外でも動物間で感染が広がることがあるし、動物から人へ移る可能性もあります。

ーーSFTSに感染する動物はどれくらいいる?

猫のSTFS診察を始めたのは2018年からで、そこから2020年までは年間5~6匹来ていましたが、最近は減って2~3匹になっています。

私はその中の5例目で感染しましたが、それまでは飼い主に感染したり、動物病院のスタッフが感染したという事例は聞いていなかったので、「人に移る可能性はあるから気を付ける」という話は聞いていたものの、そんなに簡単に人に感染するとは思っていませんでした。

軽く見て、防護を怠ってしまったことが感染に繋がったと思っています。

猫の死亡率は6割ほど

アウトドアだけでなく、住宅街での被害も相次ぐマダニ。

原因の1つに、山の動物がマダニをくっつけたまま住宅街に移動することで、その生息域が広がっている可能性があるという。

ーーSTFSに感染したペットの症状は?

猫だと発熱、黄疸、嘔吐、食欲不振が多いです。

目の結膜が普段はきれいなピンク色なのに黄色みがかっていたり、皮膚も通常より黄色く見えたりといった初期症状があります。

猫の平熱は38度ぐらいですが、食欲がない、元気がないということで病院に来て、熱を計ったら40度ということが多いです。

血液検査をして、白血球や血小板が下がっていた時はSFTSを強く疑います。

猫が感染した場合、6割ほどの死亡率だと言われています。また、犬も当院では3例診たうちの1例は死亡しています。

ーーなぜ猫の死亡率が高い?

猫の細胞内で増殖しやすいんだと思います。
放し飼いの猫は野外でダニに触れたり、ほかの猫と接触する機会が多いのでリスクが増します。

宮崎県はSTFSに感染する人の割合がほかの県と比べて多いので、徐々に周知されてきました。

知識があれば自分や家族、ペットを守ることができるし、私のように迅速に検査を受け、比較的軽症で済むことができると思います。