実は今、愛媛県内で「水泳」を授業を実施している高校は数えるほどしかない。
中等教育学校を含めた県立高校47校のうち、プールが設置されている学校は34校あるが、このうち授業で「水泳」を教えているのは8校だけ。ここ6年間でも2校減っている。
今、高校のプールに何が起こっているのか、消えゆく水泳授業の背景を追った。

水泳の季節が到来 楽しみながらプール授業

松山市内の高校に、2023年も「水泳」の季節がやってきた。
松山中央高校は例年、6月初めから7月の間、学校のプールを使って選択制の「水泳」の授業を行う。

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この日、授業に参加したのは1年生の男子生徒約60人。ビート板を使ってキックの仕方を学び、長く速く泳ぐために繰り返し練習が行われた。

松山中央高校 保健体育科・内海 壮一教諭:
サーフィン知ってる?水に乗っていけるのね、それを意識しながらいくこと

松山中央高校 保健体育科・内海 壮一教諭:
水泳を楽しんで、好きになってもらいたい気持ちが一番強いので、それを大切にしている。あとは命の大切さ、安全には留意をしながらというところを考えて授業を行っています

ーー水泳は好き?

生徒:
好きです

ーー練習はきつくない?

生徒:
楽しいので、あんまりそんなの気にしない

生徒:
めっちゃきつかったです。泳ぐのは苦手なんですけど

ーー好きか嫌いかでいうと?

生徒:
好きですね

生徒たちは、夏限定のプール授業で約1年ぶりの水の感触を楽しんでいた。

水泳授業に対して様々な声が

ところで、高校生の頃に水泳の授業をしていたかどうか、街で聞いてみると…。

愛媛県外出身:
ありました。競争っていうか、クラス対抗リレーとか、ああいうのは好きやったですけど

女子高校生:
自由時間は好きだった。小学校の時、めちゃ楽しかった。皆でわいわいするのはすごく好き

ーー授業があったらやりたい?

女子高校生:
中学まではギリ許せるけど、高校は…ちょっと…水着を着ることに抵抗があるかもしれない

男子高校生:
水泳の授業は高校の時はなかったですね。多分最初からなかったと思います

ーー水泳の授業はない?

男子高校生:
ないです

ーーいつなくなったか誰かに聞いたことは?

女子高校生:
あまりないんですけど、結構前からないと思います

ーーあったらどうだった?

女子高校生:
多分ずる休みしてた気がします

老朽化するプール…維持には多額の費用が

県内の若者の多くが高校生の頃から水泳の授業を受けておらず、特に違和感もなかったようだ。
しかし、なぜ学校のプール廃止がここまで進んだのだろうか。

水泳の授業を行っている松山中央高校の内海教諭に案内してもらったのは、プールの水質を管理するため、水のろ過や塩素の投入を行う機械室だ。

松山中央高校 保健体育科・内海 壮一教諭:
塩素のタンクも、この前つなぎ目の部分が漏れて、その修理に少しお金がかかったりとか、ここの配管も少し変えておいた方が良いんじゃないかってことで、ちょこちょこと修理をさせてもらってる

松山中央高校にプールが完成したのは、35年前の1988年。最近では施設が老朽化し、壁のひび割れや、機器の故障などが増えてきたそうだ。

松山中央高校 保健体育科・内海 壮一教諭:
いつどこで故障するか、修理が必要になるか読めないことが不安

学校側が水泳の授業を廃止する最も大きな理由が、プールの維持や管理にかかる費用の問題だ。松山中央高校は地下水を使用しているため、水道代は低く抑えられているが、それでも薬品代などの年間ランニングコストは40万円ほど。部品が故障した場合は、さらに10万円から100万円単位の費用が余分にかかる。

関係者によると、夏場しか使わない屋外プールに多額の予算をかけることは難しく、施設の老朽化に合わせて廃止する学校が増えているという。

一方、松山中央高校では、授業と水泳部の活動で約5カ月間プールを利用しているため、県や保護者らにその必要性を知ってもらい、授業の継続に向けて理解を得たい考えだ。

松山中央高校 保健体育科・内海 壮一教諭:
生徒たちが楽しく活動している様子を見てもらったり、水泳部の活動もしているので、そこで成果を出したりとか、そういったことが存続・継続につながっていくのではないか

生死を分ける「泳ぎ」、学ぶ場をなくさないで

取材にあたった中道穂香記者に話を聞いた。

ーー改めて、水泳の授業が減少している原因は?

中道穂香記者:
一つはプールの老朽化に伴う維持費や管理費の問題です。その他にも最近では、体の成長に合わせて男女別々の授業が求められることや、周りからの「のぞき見対策」といったプライバシー関連の課題も多く、現場の教員の負担も大きくなっているそうです

ーー現在、愛媛県内で授業が行われているのは8校のみということだが、これも減っていく?

中道穂香記者:
EBCライブニュースが、この8校に来年度以降も授業を続けるかどうか聞いたところ、全ての学校が「続ける」と答えています。ただ、その一方で、プールが壊れたり、維持費などの負担が大きくなり、コストが増えたりした場合は廃止する可能性もあるという声が聞かれました

ーー中道記者は、学生時代ずっと水泳部で、プールが身近にある生活を続けてきた。現在、パラアスリートとしても水泳競技を続けているが、今回の取材を通してどのように感じた?

中道穂香記者:
取材を始めた時は、水泳の授業を行う高校がここまで少ないとは思っていなかったので、正直驚きましたが、財政的な理由で、現実的には仕方ない選択なのかなとも思いました。ただ毎年のように起きている大人が犠牲の水難事故で生死を分けるのは、泳ぎなど水場での安全対策です。それを学ぶ『最後の場』が、もしかしたらこの高校の授業だったかもしれないと思うと、せめてこの8校だけは授業を継続できるよう、周囲の理解が進めばいいと感じています

(テレビ愛媛)

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