トイレ使用制限は違法

戸籍上は男性だが性同一性障害で女性として生活する経済産業省の職員が、女性用トイレの使用を不当に制限されたと訴えたのに対し最高裁が11日、「制限は違法」との判断を示したことを、メディアはおおむね肯定的に伝えた。

最高裁は「制限は違法」の判断を示した(11日午後)
最高裁は「制限は違法」の判断を示した(11日午後)
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今崎幸彦裁判長が「不特定多数が使う公共施設のトイレなどの使用のあり方に触れるものではない」との補足意見をつけるなど、性自認を尊重すべきとしながらもそれぞれの当事者の意見を聞いて「最適解」を見つけるべきとの考えが示されたからだろう。

今崎幸彦裁判長は「不特定多数が使う公共施設のトイレなどの使用のあり方に触れるものではない」との補足意見をつけた
今崎幸彦裁判長は「不特定多数が使う公共施設のトイレなどの使用のあり方に触れるものではない」との補足意見をつけた

最近新宿や渋谷でジェンダーレスの公衆トイレが作られ、女性から「怖い」という声が上がっているが、今回の判断に照らせば、「不特定多数が使う公共施設」の場合は、「心は女性でも体は男性」の人の女子トイレ使用は慎重に考えましょうという事になる。

だから「これからは全部ジェンダーレストイレにします。女性トイレはありません」というような乱暴なやり方はダメだ。

それでは職場や学校など、ある程度限定された場所においては「使用制限は違法」となる可能性があるのだろうか。

今回の判断は性同一性障害の原告が性暴力を起こす可能性が低いとの医師の診断を受け、それを他の職員に説明し、実際にトラブルもなかったという「事例判断」であり、一般化できるものでない、とみられている。

今崎裁判長は補足意見で、他の職員の理解を得られていない場合には「自由に受け入れるコンセンサスが社会にあるとは言えない」と述べており、今回の判断により直ちに職場や学校のトイレの使用制限がなくなるわけではないらしい。

女性職員が抱いた違和感

ただ僕が判決文で気になったのは、原告が女性トイレを使用することに対し、「数人の女性職員が違和感を抱いているように見えたが、明確に異を唱える職員がいたことはうかがわれない」という、ややあいまいな表現の部分だ。

「違和感を抱いているように見えた」ということは女性職員から原告の女性トイレ利用について何らかのネガティブな反応があったのだろうが、明確に「イヤです」とは言わなかったという事なのだろうか。このあたりの女性の「本音」はもう少し議論をした方がいいと思う。

職場に比べ学校はさらに配慮が必要だ。年少の子供たちは学校や教師が決めたことに反論しにくい。心に傷を持つようなことになっては困るので、くれぐれも拙速な判断はやめてほしい。特に女の子を持つ親は心配している。

「使わせてあげれば良いが私は別のところで」

職場での現状がどうなっているのかというと、大きなところ、つまり中央官庁や都庁、あるいはわがフジテレビなどでも個室の「多機能トイレ」というのが男女のトイレとは別にあちこちにあって、障がい者も含めて使用できるようになっている。

現時点では多機能トイレの利用が「最適解」か…
現時点では多機能トイレの利用が「最適解」か…

現時点ではこれがおそらくこの多機能トイレの利用が「最適解」なのだろう。だが小規模なところでは多機能トイレを作る余裕はない。先日成立したLGBT理解増進法には「すべての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意する」という条文が新たに追加されている。

フジテレビの40歳代後半の女性社員にこの問題を聞いてみた。「私は平気だけど若い子は怖がるかもしれない。人それぞれだと思う」とした上で、「真剣に女性として生きたいと思っているなら女子トイレを使わせてあげればと思う。だけど私はその人が使うトイレとは別のトイレを使う」ということだった。

彼女の答えからわかることは、多くの人がLGBTの人たちを温かく受け入れている、だが実際に生活を共有する場合には様々な事情があるということだ。最高裁の判断を機に職場などでこの問題についてまず自由に話し合うことが必要ではないだろうか。

【執筆:フジテレビ上席解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。