7月7日・8日の2日間、インド独立の父、マハトマ・ガンジーの故郷ガンジーナガルで、U20(=URBAN20)が開かれた。

U20開会セッション
U20開会セッション
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U20は「都市が重要な役割を担う」として、国家レベルのG20の議論に都市の経験や意見を反映させることを目指す首長団体だ。今回はニューヨーク、北京、パリなどとともにロシアからも3人の市長らが参加した。ロシアの参加を嫌ってか、現場では市長より下のクラスの幹部の参加が多かった。

そんな中、あえてインドまで行った小池知事の狙いは何だったのか――。

U20の会場に到着した小池知事 両手を合わせて挨拶
U20の会場に到着した小池知事 両手を合わせて挨拶

小池流“損得勘定”

「あえてリスクをとるメリットがあった」 

ロシアと席を同じくすることを多くの首長が嫌がる一方で、U20取材には世界各国から500人以上の記者が登録していたので「東京」を世界に発信をするチャンスと見たのだろうと、都の幹部は解説する。

開会セッション
開会セッション

そして小池知事は、ロシアの代表が出席する首脳級会合で、ロシアのウクライナ侵攻を非難した唯一の首長だったという。ウクライナ侵攻への非難はU20がまとめたコミュニケにも盛り込まれた。 

“蛇口から飲料水” 都市の強み

小池知事は、U20の水の安全保障をテーマにした本会議に登壇。東京都が1970年代、急激な経済成長や人口増加により川や海岸が廃棄物や排水で汚染されたが、その後、ゴミが流れ出さない仕組みや生物活性炭を使った高度浄水処理、水道管内を調査するロボットなど、様々な工夫で水質改善できたことを説明した。

水の安全保障本会議で登壇
水の安全保障本会議で登壇

小池知事は「蛇口をひねると出てくる水を直接飲む。それがミネラルウォーターにも負けないくらいおいしい」とアピールした。日本以外の都市では、歯磨きの際に蛇口から出た水を口に含んだだけで“違和感”を覚えることも多い。蛇口の水を直接飲めるというのは都市としての「強み」だろう。 

水の安全保障本会議
水の安全保障本会議

「漏れない」東京

水資源が豊かと思われる日本だが、東京都水道局によると、日本の年平均降水量は1670ミリメートルで、世界の年平均降水量約1170ミリメートルの約1.4倍となっている。しかし、国土が狭く人口が多いため、国民1人当たりに換算すると約5000立方メートルで、世界平均約2万立方メートルの4分の1程度となる。諸外国に比べて“少ない”といえるのだ。 

“少ない”水資源の活用の大きなポイントが、水道管の水漏れ「漏水率」だ。

東京都は、1955年には漏水率が30%に上っていたが、今では3.5%まで抑えられている。インドのデリー州政府の報告書によると、首都ニューデリーでは漏水などにより現在も45%~50%の水が失われているという。これは1955年の東京を上回る数字だ。 

インドの住宅・都市大臣との会談
インドの住宅・都市大臣との会談

さらに、インドでは下水処理が進んできたものの、現在も全体の4分の1にあたる25%が処理できていないという。小池知事は東京都の下水処理技術等を紹介し「今後さらに100%にしていくためには、日本や東京の知見をぜひ共有いただきたい」と“売り込み”をかけた。 

インドのプリ住宅・都市大臣(右)と会談した小池知事
インドのプリ住宅・都市大臣(右)と会談した小池知事

インドの住宅・都市大臣は「大国(=先進国)には理解できないだろうけど」と言いつつも「民間企業、専門家、大使館も巻き込んで取り組みたい」と意欲を示した 。

日本とインド 共通点は“神” 

日本とインドの関係について外交官として40年以上、インドなど7カ国9か所で勤務し、宗教文化について考察を重ねてきた、在ムンバイ日本総総領事館の深堀裕賢総領事は「インドは人間関係を大事にする社会で、人間関係を築くのに日本とインドは精神面が似ている。インドで一番人気のあるシヴァ神は日本の大黒天と同じであるように、日本とインドは同じ神様を信仰しているからだ」と話す。 

日本とインドの意外な同質性が、今後の交渉に活かされるのかもしれない。 

小池知事が割り込まれ…

「(U20に)東京でも来ないと日本のプレゼンスが…」日本の存在感の低下に危機感を示していた小池知事。記念撮影でセンターポジションに一旦おさまったものの、インド人女性に割り込まれ、よろける場面もあった。 

記念撮影の際、女性に割り込まれてしまった
記念撮影の際、女性に割り込まれてしまった

たしかに、インバウンド回復により都内は外国人で賑わっている。しかしインバウンドだけでなく、海外からの投資・ビジネスを呼び込まなくてはならない。小池知事には更なる発信とともに、相手国の事情をよく踏まえた交渉・実行力が求められているのではないか。 

(フジテレビ社会部・都庁担当 小川美那)

小川美那
小川美那

「お役に立てれば幸いです」 見てくださる皆さんが“ワクワク&ドキドキ”しながら納得できる情報をお伝えしたい! そのなかから、より楽しく生き残っていくための“実用的なタネ”をシェアできたら嬉しいなあ、と思いつつ日々取材にあたっています。
フジテレビ報道局社会部記者兼解説委員。記者歴20年。
拉致被害者横田めぐみさんの娘・キムヘギョンさんを北朝鮮でテレビ単独取材、小池都知事誕生から現在まで都政取材継続中、AIJ巨額年金消失事件取材、TPP=環太平洋経済連携協定を国内外で取材、国政・都政などの選挙取材、のほか、永田町・霞が関で与野党問わず政治・経済分野を幅広く取材。
政治経済番組のプログラムディレクターとして番組制作も。
内閣府、財務省、金融庁、総務省、経産省、資源エネルギー庁、農水省、首相官邸、国会、財界(経団連・経済同友会・日商・東商)担当を経て現在は都庁担当。