全国初となる条例が宮城県議会6月定例会最終日に全会一致で可決・成立した。その名も「再生可能エネルギー地域共生促進税条例」。この税金は税収アップを目的としたものではないと県は説明する。導入の背景には、各地で起きた事業者と住民との軋轢があった。

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税収を目的としない?〝再エネ新税〟

新設される「再エネ新税」。山林などで再エネ施設を開発する際に、事業者に対し課税するというものだ。課税対象は「太陽光発電」「風力発電」「バイオマス発電」の3種類で、これらの発電施設を建設するため、山林などを0.5ヘクタール以上開発する場合、事業者に対し「営業利益の概ね20%程度」を課税するというのが主な概要だ。

 
 

税金の種別は「法定外普通税」とし、宮城県は、具体的な使途は設けておらず、その上で「税収ゼロとなるのが望ましい」としている。新設した税金であるにも関わらず、税収を望まないとはいったいどういう意味なのだろうか。

各地で起きた住民VS事業者の構図

今回の新税のポイントは、市町村が「建設に適した土地」として指定する「促進区域」に建設する場合は「非課税」としたことだ。「市町村として建設しても問題のない土地」を明確にし、その土地を非課税にすることで「促進区域」での建設に誘導しようというワケだ。

では、なぜ「適地誘導」を目的とした税金を導入する必要があるのか。その背景には、県内各地で起きた、風力発電計画を巡る、事業者と地元住民との軋轢が深く関係していた。

県内で問題が大きく取り上げられるきっかけになったのが、2022年の関西電力による川崎町の蔵王連峰での風力発電計画だ。関西電力は最大で高さ約140メートルから約180メートルの風車を最大23基建設する計画を公表。この計画が実現すれば、一般家庭約6万世帯分、総出力9万6600kWの電力が発電できると試算されていた。

関西電力が宮城県川崎町・蔵王連峰で予定していた風力発電計画
関西電力が宮城県川崎町・蔵王連峰で予定していた風力発電計画

しかし、この計画に反対の声を挙げたのが地元の住民たちだ。この計画は宮城県を代表する観光地「蔵王」の景観や眺望に影響を与える可能性があった。さらに、県の専門委員会でも、事業想定区域に「蔵王国定公園」が含まれ、景観や自然環境への影響が懸念されると指摘された。

関西電力は説明会を行い、計画を縮小するなど対応したが、地元のみならず周辺自治体の首長も反対の意思を示し、関西電力は計画の公表から約2カ月後に撤回に追われることになった。

関西電力による住民説明会(2022年6月)
関西電力による住民説明会(2022年6月)

県・市町村レベルでは何もできない?

この一連の動きの中で、宮城県の村井嘉浩知事も最終的に計画に反対の意思を表明したが、「県としていろいろ事業者の方に厳しく指導はしているが、現時点においては、決められたルールどおり進めていけば、それを止めることはできないということはご理解いただきたい」と、たびたび自治体が対応できる限界について言及していた。

村井嘉浩宮城県知事
村井嘉浩宮城県知事

決められたルールとは、「環境影響評価法」いわゆる「環境アセスメント法」だ。
大規模な発電所の建設は、この法律で定められた環境アセスメント制度の手続きにのっとれば建設は可能で、事業者が強引にでも進めたとしても、自治体の意思で計画を止めることはできない仕組みになっているのだ。

「狙われる」東北地方…高いハードル

「一般人や地方公共団体から意見を聴き、事業計画を作り上げていく制度」とする環境アセスメント制度だが、その実情は目的通りには行かない。どのエリアでも計画を練ることが出来る現在の制度では、住民の理解を得ることは容易ではない。

県内では去年から今年にかけ、各地で動きが相次いだ。民間会社が福島県との県境に位置する丸森町で計画した風力発電事業は地元の反対を受け中止に。大崎市と栗原市の風力発電事業は計画の見直しに追い込まれ、そのほかの複数のエリアでも住民が反対活動を続けている。加美町では2023年6月についに裁判も提起された。

風力発電建設予定地をめぐる 町と事業者の契約は違法だとして 住民が加美町を提訴した
風力発電建設予定地をめぐる 町と事業者の契約は違法だとして 住民が加美町を提訴した

蔵王連峰に奥羽山脈など豊富な山林を持つ宮城県は、風力発電などの再生可能エネルギー施設の設置場所として適した地域だ。県によると、県内では2023年7月時点で36の再エネ事業が検討されているという。

これだけの事業者に選ばれる地域であるからこそ、県としては再エネ施設の建設には何かしらの手立てが必要だった。村井知事は今回の新税の構想について明らかにした2022年9月議会の際にこのように述べている。

構想を明らかにした2022年9月議会で報道陣の取材に応じる村井知事
構想を明らかにした2022年9月議会で報道陣の取材に応じる村井知事

「再生可能エネルギーを普及するということは非常に重要です。しかし、同時にそれが環境破壊につながってはいけないということ、住民の不安につながってはいけないということです」
(村井嘉浩 宮城県知事 議会終了後のぶら下がり会見にて) 

求められる「再エネ普及」先駆けモデルとなるか

再生可能エネルギーの普及は、世界的な課題であり重要な政策だ。日本政府は30年度の電源構成の目標について、再生エネの比率をいまの計画の「22~24%」から「36~38%」に引き上げ、2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすると宣言した。
そうした中での今回の宮城県の新税については、事業者から厳しい声も挙がる。

県議会に意見を提出した再エネ事業者は「森林・自然保護の意図には共感するが、税負担から事業のフィージビリティ(実現可能性)を低下させることで、再エネ事業の開発を迂回的・間接的に放棄させるよう誘導しているように見える」と指摘した。

これに対し、村井知事は「この条例は5年ごとに見直しを行う」とした上で、「促進区域」は「住民の理解」と考えてほしいと呼びかける。

「事業者の皆さんは山の中に再エネ施設を造れば必ず課税されるわけではなく、促進区域になれば免税されるわけですから、そういう視点で住民の皆さんの理解が得られるように最大限努力をしていただきたいなと思います」(村井嘉浩 宮城県知事)

県は現在、来年4月の施行を目指し、「促進区域」の指定に関する市町村向けのガイドラインの作成と、認可が必要となる総務省との議論を進めている。

ガイドラインについて協議する県の審議会(7月7日)
ガイドラインについて協議する県の審議会(7月7日)

課税という事業者への負荷と促進区域の設定は、地元住民の理解と再生可能エネルギーの普及を両立させるのか。村井知事が「全国の一つのモデルになる」と話す新税の効果に注目が集まる。

(仙台放送)

仙台放送
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