仙台市にそびえたつ、通称・仙台大観音。最近では、住宅地に突如として現れるその非現実的な姿からSNSを中心に話題になり、海外からも観光客が訪れる人気スポットとなっている。そんな仙台の一つのシンボルともいえる場所で、1991年の建立以来初の修復工事が行われている。裏側にカメラが潜入した。

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圧倒的大きさ…日本一の観音像

高さは100メートルと、観音像として日本一の大きさを誇る「仙台大観音」。仙台駅近くに設置されている情報カメラからはもちろん、30キロ離れた東松島市の離島・宮戸島からでも確認することができる。その存在感はまさに圧倒的だ。県外から訪れたという小学生は、観音像を見上げながら「思ったより大きかった」と驚き、仙台市内で暮らす人からは「気持ちがふさいでるときに来て元気をもらう」「仙台のシンボル」といった声が聞かれた。

仙台駅の情報カメラからみた仙台大観音 その大きさは圧倒的だ
仙台駅の情報カメラからみた仙台大観音 その大きさは圧倒的だ

仙台大観音が建立されたのは1991年。青葉区中山地区を中心に土地開発で財を成した実業家が「成功は観音様のおかげ」として建てたものだ。当時日本は、いわゆる「バブル時代」。全国各地でも巨大観音像の建立が相次いでいた。一方で、バブルが崩壊すると、いずれも人気が低迷。事業者は経営難に見舞われた。仙台大観音も例外でなく、建立当時をピークに訪れる人は年々減少。現在観音像を管理する、大観蜜寺の鈴木興相住職代理は「閑古鳥が鳴くとはまさにあのこと」と当時を振り返った。

そんな中、転機が訪れる。東日本大震災とインバウンド需要の増加だ。

仙台市青葉区中山地区に立つ 仙台大観音
仙台市青葉区中山地区に立つ 仙台大観音

SNSで話題!「仙台のラスボス」

大観密寺・鈴木興相住職代理:
訪れた人から「震災があったが、観音様に守ってもらえた」と聞くようになった。また、その頃から、アジアを中心に徐々に海外からの観光客も増え始めていった

実際、取材班が現地を訪れた6月中旬、平日にもかかわらず、シンガポールからの団体客の姿があった。話を聞くと「大きな観音様が日本にあると聞いて、一度見てみたかった」と話してくれた。現在は、訪れる人の2割ほどが海外からの観光客だという。

さらに、住宅街に突如現れるその不気味な姿が、ゲームの最後の敵「ラスボスのようだ」とSNS上で一躍話題に。今年のゴールデンウィークは、建立時以来となる1日600人ほどの観光客が訪れたという。

大観密寺・鈴木興相住職代理:
最近では観音様を待ち合わせ場所にする人もいる。仙台を代表する観光地として、徐々に受け入れられるようになってきたと感じています

住宅街に佇む大観音 SNSで「ラスボス」のようだと話題に
住宅街に佇む大観音 SNSで「ラスボス」のようだと話題に

国内唯一の技術で…

そんな仙台のシンボルとも言える仙台大観音で、1991年の建立以来「初」となる試みが行われている。

記者リポート:
まもなく観音様の上から出てくるということなんですけども…あ、出てきました。

行われているのは、観音像の「修復工事」。作業を担うのは、神奈川県に本社があるクライミング・ワークスという専門業者だ。「クライミング工法」と呼ばれる国内唯一の方法で工事を行うという。

本来、観音像のような巨大な構造物での工事では、通常足場を組み大がかりな作業が必要となる。この工法では、人がロープにぶら下がり、電子吸盤で体を固定しながら、作業を行う。足場を組む必要がないことから、工期も費用も圧縮可能な修理技術というワケだ。

「太陽の塔にぶら下がって修復するのが夢」と語る クライミング・ワークス・水野淳一社長
「太陽の塔にぶら下がって修復するのが夢」と語る クライミング・ワークス・水野淳一社長

以前から、訪れる人から「汚れていて可哀想」などといった声が寄せられていたという観音像。東日本大震災では被害が確認されなかったが、徐々に経年劣化が目立つように。鈴木さんは長年、修復について模索していたが、費用が莫大にかかることから断念。
そんなとき思い出したのが、とあるテレビ番組の取材を受けた際に知りあった、クライミング・ワークス水野社長の存在だった。コンタクトを取ったところ、費用が抑えられることがわかり、長年の悲願だった修復工事の実施に至った。

大観密寺・鈴木興相住職代理:
やっとここまでこぎつけたなと。とにかく「やっと」という感じですね…。これでようやく皆さんに真っ白な観音様をご披露できると楽しみになっています

職人技に観光客も…

地上からみると、観音像の表面を身軽に移動しながら、手際よく進んでいるように見える修復作業だが、そこは地上100メートルの世界。「体を支えるアンカーが外れたら…」そんな恐怖の中で、冷静かつ的確に判断をしながら行う作業が、いかに難しいかは一目瞭然だろう。

実際、巨大な観音像の修復依頼が水野社長に殺到している。仙台大観音の修復作業を終えた後には、福島や香川の観音像の修復依頼がすでに入っているという。

修復工事の現場は地上100メートルの世界 命がけの作業だ。
修復工事の現場は地上100メートルの世界 命がけの作業だ。

クライミング・ワークス 水野淳一社長:
体力はもちろんルートの確保が難しく、誰にでもできる作業ではない。構造物の中では観音様はたぶん一番難しいですね。形が複雑なので裏に入り込んだり…。手の裏が一番難しいですね

ヘルメットにカメラをつけてもらい撮影してもらうと、遠目にはきれいに見える大観音だが、近くで見ると、ひび割れに汚れと、建立から32年経った歴史を感じることができる。

作業的は塗膜が浮いている部分を剥がすことから始まる。場合によっては高圧洗浄も行い、修復箇所をきれいな状態に。その後、ひび割れしている部分に樹脂が入ったセメントを塗りこんでいく。遠目で見て黒くなっている部分が、セメントが塗り込まれた場所だ。一カ所づつ、丁寧に、進めていく、いわば地道な作業。この作業を終えた後に、本来の色である白に塗りなおす計画となっている。

危険も伴う修復工事をスマホ片手に固唾を見守る観光客の姿も。「本当にすごい。風も強い中でやられているので命がけの作業だと思う」などと驚きの声を挙げていた。

順調に進めば年内にも終わるという修復工事。
雪が舞う頃、観音様は一段と輝きを増した姿を見せてくれることだろう。
私たちをそっと見守る仙台大観音。きょうもまた、人知れず作業に向き合う人たちがいる。

(仙台放送)

仙台放送
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