動き出した「定点」周辺の保存整備構想

1991年6月3日の火砕流で、報道関係者が犠牲となった長崎・島原市北上木場地区。
その「定点」と呼ばれる一帯の保存、整備構想が動き出した。

長年、消防団や警察官の犠牲は「マスコミの行き過ぎた取材活動によるもの」とされ、ともすれば冷ややかな視線が注がれてきた。
しかし、2021年に被災から30年を迎えるのを期に、地元・安中地区から、災害報道を考え続ける場所にしてほしいとの声が上がっている。
6月9日、国土交通省雲仙復興事務所は、島原市上木場地区で、ドローンによる一帯の調査を行っていた。

調査員:
たぶん、ここがタクシーの遺構だと思うんですけど、この奥ね、ここら辺にあると思う

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事務所は、広大な砂防指定地の状況を把握するため、2019年にドローンを導入。
今回の調査は、竹やぶや草むらに覆われたこの地域に埋もれている被災資料の位置や距離を正確に知るために行われた。

雲仙復興事務所・西島純一郎専門官:
こういう遺構が、草むらの中で忘れ去られるより、表に出して後世にこの災害を伝えるという意味では、何とか協力できれば

調査には、島原半島ジオパークの事務局関係者も同行し、地上から被災資料の確認にあたった。
雲仙普賢岳の溶岩ドームを正面に臨む場所。
ドームの変化を同じ場所から観察するという観点から、当時 多くのカメラマンがここを「定点」と呼び、撮影にあたっていた。

そして迎えた1991年6月3日…
新聞やテレビ局、フリーのカメラマン、それにマスコミがチャーターしたタクシーの運転手4人をあわせると、20人がこの一帯で火砕流にのまれ、命を落とした。

北上木場農業研修所跡地。
警戒にあたる消防団が災害直前、詰め所として使っていたこの場所には、火砕流で被災した消防車とパトカーが保存されている。
また、かつての消防団の詰め所にあった半鐘が、慰霊の鐘として移設されている。

上木場災害遺構保存会・上田實男会長(故人):(2002年12月)
11年という歳月は、皆さんの前にあるように、消防車もパトカーも姿かたちは元通りではありませんけど、何とかそれに近い形で永久に残していくのが、私たち住民の思いだと思います

保存整備にあたっては、当時の町内会長が、消防団や地元住民・遺族などと会を結成して行政に働きかけ、被災車両の掘り起こしや、火山灰を落とす作業にあたった。

「忘れてはならないことがある」

「定点」に目印として置かれている木製の三角柱。
この下流約50メートル付近の草むらに、2台のタクシーが埋もれたままで、ほとんど誰にも知られていない。

雲仙市瑞穂町の造園家・宮本秀利さんは2019年、被災したマスコミの取材車両の保存に関わったことをきっかけにタクシーの存在を知り、心を痛めていた。
6月3日に上木場地区を慰霊のため訪れる遺族や関係者のために、地元の町内会や消防団などが草刈りに汗を流した5月23日。宮本さんたちは、草むらの奥深くへと足を運んだ。

造園家・宮本秀利さん:
ここまで来て合掌する人っていないもんね。いやー忘れられてしまいますね。
何とか人目のふれるところに持っていって、追悼の意味と後世に教訓を残すため、やはり残すべき。時間がたつと、全てのものが忘れられるけど、忘れてはならないことがあるような気がします

「災害報道について真摯に考える場所に」

2020年6月3日のいのりの日は、激しい雨が降る可能性も伝えられていた。そのため、地元の安中地区町内会連絡協議会の役員数人は、前日に農業研修所跡地で、お参りする人たちが雨にぬれないようにとテントを建てていた。

元島原市職員・杉本伸一さん:
ここ(農業研修所跡地)でもたくさんの人が亡くなったけども、こことあそこ(定点)の2カ所なんですね。両方整備することで、30年前に何があったか伝えられる

2021年の火砕流被災30年をめどに、定点周辺の保存整備を町内会として打ち出してはどうか。その思いを胸に、阿南達也会長は、作業のあと定点へとほかの役員を誘った。

安中地区町内会連絡協議会・阿南達也会長:
じゃろうじゃろう(という推測)が、ずっとつながってきているから、どこかで整理しておかないと。それは、やはり杉本さんの役目かも

整備にあたっての必要な経費について、町内会は、犠牲者を出したか出さなかったかに関わらず、マスコミ各社で負担し、災害報道について真摯(しんし)に考える場所にしてほしいという考え方を示している。

普賢岳の火砕流惨事から、2021年6月3日で30年。
あの日 何があったのかを検証し、教訓を後世に正確に伝えるための取り組みが、住民と行政の双方で続いている。
1991年6月3日の犠牲者43人のうち、地元の住民3人は今も行方不明のままで、定点からさらに上流で被災したのではないかと推測されている。
今回の地元の声にマスコミ各社がどう対応するのか、その姿勢が問われている。

(テレビ長崎)

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