福島第一原発の処理水の海洋放出について、7月4日、岸田首相はIAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長と面会し、安全性の評価を盛り込んだ「報告書」を受け取った。政府はこの報告書などを踏まえ、放出の時期を最終判断するとしている。

福島第一原発では処理水の海洋放出に向け準備進む

6月26日、福島第一原発の沖合では、約1年半にわたる掘削作業を終え、処理水の放出トンネルが完成した。

福島第一原発を冷却するのに使われ汚染された水は、ALPSという除去設備でほとんどの放射性物質を除去した上で、水からの分離が難しいトリチウムという物質だけが残った「処理水」となる。

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「処理水」は福島第一原発の敷地内で保管されているが、容量が限界に近づいているため、国の排出基準の40分の1程度まで薄めて、この夏にも海に放出する計画だ。

福島テレビ 石山美奈子記者によると
ALPSで処理された水は、黒い配管を通った後、水色の大きな設備で海水と希釈される。

設備は今年6月下旬に国の原子力規制委員会による使用前の検査を受けたという。合格すると設備が使用できるようになる。

IAEAもこれまでに現地の確認を行っており、政府は7月4日に手渡された報告書で、国際的な安全基準を満たしていれば、各国の理解を得られるという考えだが、近隣諸国からは反発の声が上がっている。

7月4日、中国の呉江浩駐日大使は「特別会見」を開き、「IAEAの報告書は海洋放出の“許可証”ではない」との声明を発表、「日本側の海外放出は結論ありき。IAEAが結果を出す前に日本政府は放出をとっくに決めている」と強く反発した。

また韓国では、最大野党「共に民主党」がソウルで処理水放出に反対する大規模集会を開催した。

処理水が放出される前に、塩を確保しようとする消費者も多く、ソウルの一部のスーパーでは海水から作る塩などが売り切れになっている。

風評被害をどう防ぐかが肝心だが、国内でも誤解されかねない発言が…

公明党 山口那津男代表:
(放出は)直近に迫った海水浴シーズンなどは避けたほうがいいのではないかと思っている。もちろん水産に携わる方はかねてから非常に懸念を持っているから、風評を招かないように慌てないでしっかりと説明を尽くしていただきたいと思う

この発言について松野官房長官は“夏ごろ”の見込みとする政府の方針に「変更はない」と述べた。

「処理水の安全性」どう理解すればいい? 福島大・高田准教授に聞く

岸田総理と面会したIAEA=国際原子力機関のトップ、グロッシ事務局長が7月4日の会見で、福島第一原発の処理水の安全性について、「国際的な安全基準に合致している」とする報告書を提出したことを公表した。

福島第一原発の処理水を、政府は夏にも海に放出する方針だが、この処理水の安全性を、私たちはどう理解すればいいのか。10年以上にわたり福島の海の放射性物質の変化について研究している、福島大学の高田兵衛准教授に聞いた。

まず、IAEAの報告書で「国際基準に合致する」とされたことについて

高田准教授は「今後はこれをもって、周辺各国にグロッシ事務局長が説明に周って、理解をしていただくことになるのではないか。そして政府の判断で放出時期を見極めていくのではないか」と語る。

高田准教授は、これまで、政府や東電と違った第三者的な立場で研究を行ってきたという。

高田准教授は、これまで漁業者の協力などを得て、漁船を使って福島第一原発の周辺で、政府や東電がモニタリングを行っているのと同じような場所で、海水や海産物を収集し、セシウムやトリチウムなどの分析を続けてきた。

トリチウムは元来 身の回りに広く存在 

まず処理水の安全性について。

「処理水」とは、ALPSという除去設備で放射性物質などを取り除いて、トリチウムだけが残った水のこと。この処理水を海水で薄め、長さ約1Kmの海底トンネルを通して放出する予定だ。処理水のトリチウムの濃度は、国の基準の40分の1未満となっている。このような工程を経て放出される処理水は安全と言ってよいのか?

「そもそもトリチウムは我々の身の回りにも広く存在していて、例えば水道水の中に含まれているトリチウムは、海の濃度よりも高いということが分かっている。今回は国の基準よりもさらに低い数値で海洋へ放出される。そして海に放出された場合、速やかに希釈・拡散していく。そうすると最終的に人への影響は極めて低いと考えている。
放出前に、かなりチェックを進めて、この濃度がちゃんと正しい数値であるか何重にも調査をししている。加えて必ずIAEAの評価も得た上でやっている。かなり厳しいチェック体制やっていることは分かっている」(高田准教授)

トリチウムは身の回りにあるものなのか?

「実はトリチウムは、原発以外にも自然界にも結構多く存在している。トリチウムの濃度は水道水の方が海よりも高いわけで、かなり身の回りにあるものだと認識していただければよいと思う」(高田准教授)

海洋放出をした場合、魚の体にトリチウムは蓄積されることになるのか?

「実はトリチウムは蓄積することはないということが分かっている。海水の濃度が例えば10 あったとしたら、魚の中も10 なので、蓄積していくのであれば20、30…となるはずだが、そういった濃度が高まっていくことは、これまでの研究では「ない」ということが分かっている。かなり薄まった形で魚の方に多少は入っていくが、それを我々が食べたとしても影響というのは非常に低いということは計算で分かっている」(高田准教授)

視聴者からはこんな質問が届いた。

Q.どれぐらい薄まれば、口にいれても大丈夫?

「今回1500ベクレルの濃度にして海に放出するということだが、1500ベクレルのトリチウムを含んだ水を、例えば毎日1年間飲んだとしても、被ばくに関して計算をすると、かなり影響は低いということが分かる」(高田准教授)

Q.処理水は何年で全て処理できるのか?

「現在、800兆ベクレルというトリチウムが、ALPS処理水のタンクの中に貯まっているが、これを約40年かけて処理していくことが今進められている」(高田准教授)

漁業関係者の理解・周辺国の理解が課題 

クリアしなくてはならないハードルがある。6月22日、全国漁業協同組合連合会会長が西村経産相と面会し、「もしも放出するというようなことがあれば、国にしっかりと全責任を将来にわたって持ってほしい」と話した。高田准教授は漁業関係者の方の協力のもとで研究しているが、現場の生の声は?

「“補償”という話も当然出てくるが、やはり漁師の方が言うのは『次世代に漁業が続かないことが非常に心配である』ということ。漁業が止まってしまうと、次世代が学んでいく機会も失われてしまう。そういった部分について説明をしっかりしていかなければならないというのも重要な課題だ」(高田准教授)

ハードルは他にも。海外からの批判の声がある。日本海を隔てた隣国・韓国や、中国からは厳しい声が上がっている。

中国は6月7日「海は日本の下水道ではない」と批判している。

韓国は6月に最大野党「共に民主党」が、大規模な反対集会を開いた。どうしてこんなに反対しているのか。龍谷大学・李相哲教授は「来年の総選挙で尹大統領を倒すため、海洋放出を政治利用し、反日感情をあおっているだけ」と話す。

「韓国国内では、日本で報じられてるような徴用工や慰安婦問題よりも、この海洋放出の方が国民の関心が高い。対応を誤ると政権を揺るがしかねない大きなトピック。5月に韓国の首相がIAEAの事務局長に直接会い、「検証をちゃんとやってほしい」というような要請をしている。今回グロッシ事務局長も離日した後 、7日から韓国を訪問し説明をするということなので どう受け止められるかに注目すべき」(関西テレビ 加藤報道デスク)

韓国でIAEAのグロッシ事務局長が丁寧な説明をできるかどうかは重要だ。

「今回の報告書作成にあたっては、中国・韓国といった各国の専門家も集まって作成している。やはり韓国でもきちんとした議論はされている中で、IAEAのグロッシ事務局長が丁寧な説明をし、理解をしてもらうことが重要ではないか」(高田准教授)

「丁寧な説明で信頼を得ていくことが大事」と専門家

海洋放出に海外から批判や疑問の声が上がっているが、世界各国の原発から出る年間のトリチウム量を表したグラフがある。福島第一原発が放出するとされる処理水は22兆ベクレル未満だが、中国や韓国の原子力発電所から出ているトリチウム量より、かなり少ないことが分かる。

「福島第一原発の事故以前でも、トリチウムを含んだ水は放出されていたが、今回はその処理水ということで、薄める前からかなり厳格に管理をされ放出している。それに加えて量的にも各国に比べると低い状態で放出することになる」(高田准教授)

安全性を他国にどう理解してもらい、批判を乗り越えていくにはどうしたらよいのか?

「やはり今回は丁寧な説明で信頼を得ていく、そのためには厳格な管理、放出するまでの説明というのを、何度も丁寧に行っていく。特に漁業関係者を含め、理解を得られるような形で説明していくことが大事だ」(高田准教授)

「処理水」について、正しく理解することが大切だ。岸田首相も「丁寧な説明と情報発信を行っていく」と話している。

(関西テレビ「newsランナー」7月4日放送)

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