2010年に閉校した三重県松阪市の仁柿(にがき)小学校で2023年4月、卒業生らが集まり、閉校の記念に埋めた「タイムカプセル」を開封した。当時の子供たちも今や大学生や社会人。この開封を心待ちにしていた女性を取材した。
13年前に閉校した小学校で「タイムカプセル」を開封

2023年4月、仁柿小学校の校庭に集まった若者たち。

13年前の2010年に埋めた「タイムカプセル」の開封式だ。

卒業生たち(口々に):
すごい!みんなの写真
何これ、よくわからん。いいかおり?よくわからん
身長も180くらいほしいって書いてある。足りやんかった
ねこじゃらしは覚えていました
本当に?記憶力すごいな
当時集めていたものや、未来の自分に宛てた手紙。

懐かしいものが次々と出てきた。

このタイムカプセルに、特別な思いを持つ卒業生を取材した。
13年前には想像していなかった自分…市役所に入庁して6年目の女性

松阪市役所に勤める丸山覧(らん)さん(25)。

丸山覧さん:
コロナ関係でプレミアム付商品券っていうのを3年していまして、どの方が対象とかそういうリストとかもまとめて…
専門学校を卒業して入庁し、2023年で6年目。商工政策課の職員として、地元商店街の支援などに携わっている。この日は、上司と共に市内の精肉店に出向き、補助金を使った工事の確認だ。

丸山覧さん:
工事内容とかもこのままですね
店長:
そうですね、変わらず
丸山覧さん:
交付決定の通知が届いた時に、完了届の書類とかも一緒に入っていましたかね?
仕事もすっかり板に付いているように見える丸山さんだが、同行した上司からは…。

上司:
本当に久しぶりなんだよね、外出て話するの
丸山覧さん:
そうですね
上司:
今後もっといろんな方と話できる機会も(増える)。深い所まで、相手さんの思いとかその辺汲めたら良くなるんちゃうかなと思うんやけど
もっと積極的に街の人の声を聞き取るようにとアドバイス。コロナ禍での業務が長かったことも影響しているようだ。
丸山覧さん:
もっと深く入り込んだようなお話はできなかったので。コロナでこんな状況とかそういったとこも聞けたらよかったかなと思います

丸山覧さん:
小学生の頃なんて、仕事ってどういうものかすらわかっていなかったので。それに、松阪市の全市民の方を対象にするような仕事をするっていうことも、全然思っていなかったので
コロナを経験することはもちろん、自分が市民のために働く公務員になっていることも、小学生だった13年前は全く想像していなかった。
「自分のためでなくみんなのために」原点は小学校の時の運動会

丸山さんの原点ともいえる出来事が、小学生時代にあった。
覧さんの母:
泣けてくる、今見ても泣けてくる
丸山覧さん:
泣けやんよ、恥ずかしい

親子3人で見ているのは、運動会のDVDだ。

閉校の年に行われた“最後の運動会”で、小学6年生だった丸山さんは、鼓笛隊の指揮者を務めた。

丸山覧さん:
昔はずっと、毎年運動会で鼓笛隊をしていたみたいなんですけど、復活させようということで最後にやりました
児童数の減少で中止していた鼓笛隊が34年ぶりに復活。

卒業生や近隣の住民なども参加した大所帯を、指揮者として束ねる役割を任せられた。

丸山さんは、その日のことを卒業文集に綴っていた。

<丸山覧さんの卒業文集>
はじめは「らんにできるんかなぁ?」と、めーっちゃ不安でした。でも一緒に鼓笛隊をした人たちが「うしろにおるから、大丈夫やでぇ!がんばろなぁ~」と言ってくれました。たくさんの人たちに支えられて、ここまで頑張ってこられたんだなぁ。これからも感謝して生きていきたいです。

丸山覧さん:
自分のためじゃなくて、みんなのために。(指揮者は)絶対誰かがしなきゃいけないことだし

当時、担任だった今西昌子さんは、指揮者としての経験がその後の丸山さんの生き方に影響を与えているのでは、と振り返る。

今西昌子さん:
この鼓笛隊を引っ張って行った。最後に挨拶もして終わるという大役をやりきった。いろんな人から沢山の思いを受けて育ってきたので、多分、それを返していけるような子になっていくんじゃないかなっていうのは思いました

丸山覧さん:
自分が鼓笛隊をした時の気持ちとかも、結構忘れていた。多分小学生での思い出ってすごく大切なものだし、今に生きていることもたくさんあると思うので。それを忘れたくないので(タイムカプセルを)開けてみて、その時の気持ちをとかを思い出せるんじゃないかなって思います
「人の役に立つ仕事を」…“未来の自分への手紙”の内容は

タイムカプセル開封の当日、すっかり大きくなった卒業生たちが集まった。もちろん、丸山さんの姿も…。

丸山覧さん:
すごく緊張しました
同級生:
してないやろ!
丸山覧さん:
したよ!(取材スタッフに)13年前に何を埋めたか本当にドキドキしています。開けるの楽しみです

恩師とも13年ぶりの再会だ。
丸山覧さん:
あ、今西先生!
今西昌子先生:
想像した通りというか想像以上というか、すごい!

丸山覧さん:
小学生から会っていないですもんね
今西昌子先生:
本当、素敵な大人になったな、もう
懐かしい顔が揃ったところで、タイムカプセルを掘り起こし、開封した。

中には、集合写真や当時の新聞。

そして児童1人1人の名前を書いた袋が収められていた。

丸山さんが「未来の自分」へ宛てた手紙を読んだ。
丸山覧さん(手紙を朗読):
未来の自分。26歳やったら結婚しとってほしいな。子供もおったらいいな。病院の先生とか面白そうやな。コードブルーみたいなの。そんなん無理か、笑い

丸山覧さん:
病院の先生も人を助ける仕事ですけど、市役所の職員としても市民のみなさんのために。ある意味似ているかもしれないです
「人の役に立つ仕事を」。今の自分に通じる願いが綴られていた。

丸山覧さん:
なんか親からの手紙も入っとる
両親からサプライズの手紙も入っていた。

<丸山さんの両親からの手紙>
Dearらんらん パパとママは、らんらんをほほえましく見ていました。もう、社会人として立派に働いているのでしょうね。自分のなりたい、生きがいのあるお仕事についていることでしょう…。

丸山覧さん:
ちょっと泣きそうです。やりたいこと、生き甲斐のあるお仕事できていると思うし、今も家族4人で仲良く過ごせているのでよかったかなと思います
思い出の品が気付かせてくれる、自分の原点。タイムカプセルは、そんな大切な役割を果たしてくれたようです。
13年前の自分から今の自分へ それぞれのメッセージ

男性A(当時4年生):
実家で製茶業やっていて、よく手伝っていたんですけど。これでおいしかったら、今後うちのお茶はこうやって出そうかなって思います

男性B(当時2年生):
「さいとうしゅんいちろうがんばるぞ」って書いてあります。大きくなっているんだなって思いました

男性C(当時6年生):
「彼女がおる」って書いてあります、いないんですけど、おかしいなぁ。身長も180くらいほしいって書いてある。足りやんかった、175くらいしかないんで

男性D(当時3年生):
汚い字で書いてあって…「今でも仁柿小学校は好きですか。僕は好きです」って書いてあります

男性の答えは「やっぱり好きです」。

丸山覧さん:
小学校で過ごした日々ってすごく楽しかったし、みんなとの関わりとかもすごい深くて。そういったことをきちんと、胸の中に思いながらこれからも毎日過ごしていきたいなって

丸山覧さん:
地域の人にもちょっとでも恩返しできるように、仕事も頑張りたいなって思いました
2023年4月10日放送
(東海テレビ)