農業経験ゼロの子育て中のママたちが、生で食べられるサラダ用ホウレンソウの栽培に取り組んでいる。若い力と最新技術が詰まった“野菜工場”を取材した。

総額1億円をかけ農業をスマート化

和気あいあいとした雰囲気の中、小気味よい音と共に収穫されていくサラダ用ホウレンソウ。ここは高知・南国市十市にある水耕栽培施設「NAPPA FACTORY」。サラダ用ホウレンソウをメインに水菜やルッコラを育てている。

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代表を務めるのは高知市に住む甲原佳緒里さん、32歳。元々は農家ではなく農業経験ゼロの主婦だった。

夫・君裕さんの実家「カンバラ鉄工」は温室ハウスの灌水工事などを行う会社だ。佳緒里さんも会社を手伝う中で、後継者不足や耕作放棄など農家の悩みを耳にするようになる。

佳緒里さんが借りた農耕放棄地
佳緒里さんが借りた農耕放棄地

夫・君裕さん:
作り手がいなくなってお父さんの代でもう農業をやめてしまう、そうなると耕作放棄地になってしまうんですよね

甲原佳緒里さん:
今まで土で作ってたおじいちゃんとかの息子さんたちって、やっぱり継ごうってなかなか思わないんですけど、そういう人たちにこういう設備を作って見てもらうことによって、自分たちでも農業やってみようって思ってくれるのかなと

佳緒里さんたちは一念発起。耕作放棄地だった15アールの農地を借り、カンバラ鉄工の新規事業として、2022年5月に「NAPPA FACTORY」を始めたのだ。

甲原佳緒里さん:
普通のホウレンソウと比べて茎が細いと思うんですけど、なので柔らかく食べていただけるのと、水耕栽培でアクがなくて生で食べられるので小さいお子さまでも多分すごく食べやすいと思います

生で食べることができるので栄養素を壊さず摂取できるサラダ用ホウレンソウ。猛暑の高知で栽培するのは難しいと言われているが、佳緒里さんたちは総額1億円をかけて自動で水やりができる仕組みや温度の調整ができる最新設備を取り入れた。

専用の培地に種をまいたら、温度や光が自動制御された“苗の生産装置”へ。そのあと、発芽した苗を植え肥料を混ぜた水を与えながら収穫の時を待つ。

水耕栽培の場合、一般的なホウレンソウの収穫は種まきから1カ月かかるのに対して、サラダ用ホウレンソウは2週間ほど。その日のうちに「な」の字入りの袋に詰められ出荷される。

子育て世代が働きやすい環境を

かつて美容師として働いていた佳緒里さん。現在は7歳と6歳の2児の母でもある。大枚をはたいて新たな事業を始めたのには「耕作放棄地をなくしたい」という思いだけでなく、もうひとつ大きな理由があった。

甲原佳緒里さん:
私が美容師とかしてる時に子育てしながら働くのってなかなか難しかったんですよね。休みを取りづらかったりとか。そういう人たちが「働きやすい」と思っていただけるような職場を提供できたら、働く女性の応援にもつながっていくと思う

今ここで働いているのは、佳緒里さんを含め30代と40代の子育て中の女性6人。

甲原佳緒里さん:
「ここは参観日があるから代わりに誰か出て」みたいな(調整をします)

子供が体調を崩した時も連絡を取り合い助け合っている。

(LINEでのやり取り)
さっき子供が嘔吐してしまって。明日念のため学校休ませようと思います…代わりに出勤できないでしょうか?

おはよ!行きまーす

パートスタッフ:
めちゃくちゃ働きやすいです

ーーどういう所が?

パートスタッフ:
全部ですかね

甲原佳緒里さん:
気を遣わんでいいというか。年もバラバラなんですけど全然気を遣わない

トラクター運転できなくても「できる」

栽培を始めて1年。無農薬にこだわったサラダ用ホウレンソウは評判を呼び、県内の飲食店でも少しずつ使われるようになった。

しかし、いまだ生で食べられるサラダ用ホウレンソウの知名度は低い。

甲原佳緒里さん:
ホウレンソウを渡して「生で食べられるんだよ」って言うと驚かれるので、まだまだだなって思います

佳緒里さんはSNSを使ってレシピを紹介したり、収穫体験を企画したりしてPRに努めている。

甲原佳緒里さん:
トラクターに乗るとか技術はいらない。初心者ばっかりの女性でも取り組めた。小さいお子さんからお年寄りまで皆さんが笑顔になるよう、私たちの作る野菜で健康になっていただけるようにしたいです

高知の農業、そして働く女性たちの活路を見出せるか。新たな農業のモデルケースとして芽を出したばかり。

「NAPPA FACTORY」のサラダ用ホウレンソウは高知県内の量販店で販売されている。

(高知さんさんテレビ)

高知さんさんテレビ
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