看護要員として10代半ばで戦場に駆りだされ、多くの女学生が命を落とした「ひめゆり学徒隊」。 その実相を演劇で伝えようと、中学生がひめゆり学徒隊をテーマにした舞台で平和や命の大切さを発信している。
戦場の通信機で現代とつながる物語
男子学生1:
みんな、ヤギをどう食べたいですか?
男子学生2:
ヤギ汁でしょ
女子学生1:
刺身でしょ
男子学生3:
ヒージャー(やぎ)そばってあるらしいよ
大勢の職員が見つめる中で台本の読み合わせをしているのは、安岡中学校演劇団のメンバーだ。

副団長 下地琉聖さん:
恥ずかしさもまったくなくて、自分だけの演技ができたかなと思います
堂々と芝居をする演劇団には、大切に演じ継がれている作品がある。 ひめゆり学徒隊を題材にした舞台「伊原第三外科壕の奇蹟」。

ひめゆり学徒1:
こちら伊原第三外科壕です。どちらの部隊ですか?
現代の女子中学生1:
どういうこと、いたずら電話じゃない?

現代のスマートフォンと戦場にある通信機が時空を超えて繋がり、同じ15歳のひめゆり学徒と中学生が交流するという作品。

ひめゆり学徒1:
この戦争って、もちろん日本軍が勝つよね?
現代の女子中学生1:
残念だけど負けて降伏する
ひめゆり学徒1:
負けるわけないよ、兵隊さんも日本軍の勝利だって
ひめゆり学徒2:
そうだよ!日本軍が負けるなんて

又吉弦貴 教諭:
こういったことはありえないけど、でもあると面白いねという切り口で、ひめゆり・沖縄戦の舞台を描いていけば、興味を持ってくださる方がいるんじゃないかな、という形で脚本を生徒と一緒に作ったというのが一番大きいです

しっかり考えて戦争と平和について知ってほしい
生徒の祖父母も戦後生まれが多くなる中、生徒が沖縄戦の体験談を身近なものとして捉えられなくなっていると危機感を感じた又吉教諭は、2021年に同じ年代のひめゆり学徒をモチーフに脚本を書き、当時の中学生が演出を手がけた。

又吉弦貴 教諭:
戦争は体験していないけど、学ぶことはできるし、学んでいるからこそ発信ができる
副団長 下地琉聖さん:
先輩たちが作ってきた歴史なので、自分たちもちゃんと引き継いでいきたいなと思っています

今回この劇を中学1年生の授業で披露することになり、団員たちは約1カ月間、稽古に励んできた。
女子学生:
だめです。この人はけがをしています
男子学生:
ドケ!

メインのひめゆり学徒を演じるのは、3年生の田場望愛(たばみあい)さんと澤岻優心(たくしこころ)さん。
ひめゆり学徒役 田場望愛さん:
観ている人に、ちゃんとこんなことがあったんだよって伝えられるように意識しています
ひめゆり学徒役 澤岻優心さん:
(戦争を)ひと事に考えず、今、前にあるものをしっかり考えて、戦争と平和について知ってほしいなと思います

学徒の笑顔の写真は幸せそう 笑顔が消えていったことに辛くなった
生徒たちは上演前にひめゆり平和祈念資料館を訪れ、役を演じるにあたり改めて沖縄戦や学徒について学んだ。

又吉弦貴 教諭:
ちょうど中学3年生の皆さんが、78年前にこういった形で実際に家族と別れて陸軍病院にいきました。不安がたくさんあったと思います
ひめゆり学徒隊に動員された生徒と引率教師240人のうち、半数以上の136人が命を落とした。

ひめゆり学徒役 澤岻優心さん:
笑顔の写真は幸せそうで、でもだんだんと笑顔が消えていくのがちょっと辛くなってきました

ひめゆり学徒役 田場望愛さん:
絶対にこんな戦争は二度とやってはいけないし、きょう学んだことをちゃんと私たちが劇で伝えていかなければいけないなと思いました
本番10日前、生徒たちは資料館で感じたことを表現に落とし込んでいた

安岡中学校 演劇団のメンバー1:
もうちょっと緊迫感
安岡中学校 演劇団のメンバー2:
そう、だからここをテンション高くしすぎるのもあれかなと思ったんだよね

ひめゆり学徒役 田場望愛さん:
仲間が死ぬ場面も見ていると思うので、この言い方だったら、そんなことあったと思えないんじゃないかな、みたいなところを直しています

ひめゆり学徒役 澤岻優心さん:
学んだ事をもっと活かせるように、感情表現をはっきりとさせていきたいと思います
演じることでひめゆり学徒隊の悲劇を追体験
いよいよ本番当日。生徒たちはどのようにひめゆり学徒隊を演じ切るのだろうか。

ひめゆり学徒1:
音楽いいよね、戦争が始まる前まではみんなでよく歌ったな
ひめゆり学徒2:
あたな達の時代にはどんな歌があるの!?
現代の女子中学生1:
あ、これは~(海のチンボーラーを歌う)

ひめゆり学徒1:
私たちやっと歌えたね!2人ともありがとう、これでお国のために死ぬことが怖くなくなった
現代の女子中学生1:
ちょっと何を言っているの?お国のためって駄目だよ
ひめゆり学徒2:
なんで?

現代の女子中学生1:
自分の命は自分のもの
ひめゆり学徒2:
なに言っているの、それは非国民が考える事。お国のために生きて恥をさらさないの

現代の女子中学生2:
自分で自分の命を大切にしないでどうするの?
現代の女子中学生1:
昔の沖縄のことわざにもある。命は宝・命(ぬち)どぅ宝
ひめゆり学徒1:
命どぅ宝?
ひめゆり学徒2:
えぇ…でもさ…

日本兵1:
おい!話している暇があるなら早く水くみにいくぞ
ひめゆり学徒2:
はい、分かりました

ひめゆり学徒1:
(銃声)ギャー
ひめゆり学徒2:
みっちゃん?
現代の女子中学生 2人:
ゆき!みちこ!!

ひめゆり学徒1:
思い込みは時々間違った道を進むことがある
ひめゆり学徒2:
見えていたものが見えなくなってしまう。あの短い通信の間、私生きているって感じた
ひめゆり学徒1:
生き抜こうとする者には奇蹟が起きる

鑑賞した生徒:
命の大切さとか、戦争はあってはいけないものなんだなと再び思いました。なんとなくこういうことがあったんだなとしか思っていなかったけど、今回の演劇を通してより(ひめゆり学徒隊について)深く知れたと思います

ひめゆり学徒役 澤岻優心さん:
戦争の恐ろしさやひめゆりの大変さとか、米兵が来た時の緊張感とかそういうのが伝わったんじゃないかなと思います
ひめゆり学徒役 田場望愛さん:
(演じたことで)ひめゆりの人たちが仲間を亡くしていったときにどんな気持ちだったのかとか、その辛さとかが伝わってきて、自分たちはその辛さを味わっていないけど、ずっと心の中にとどめて伝えていけたらいいなと思っています

演じることでひめゆり学徒隊の悲劇を追体験した生徒たち。
同じ年頃で未来を奪われた犠牲者に想いをはせ、過ちを繰り返さないために 、命の大切さ「命どぅ宝」を発信する。
安岡中学校演劇団は「伊原第三外科壕の奇蹟」を、2023年7月に県中学校演劇祭で披露するほか、 12月には県代表として全国中学校文化祭でも上演する予定だ。
(沖縄テレビ)