2023年6月16日、性的少数者いわゆるLGBTQ+の人々への理解を増進するための法案が、参議院本会議で可決、成立した。この法律は性的少数者への差別や偏見をなくし、誰もが安心して暮らせる社会を目指すための法案のはずなのだが…当事者の受け止めは決して喜ばしいものではない。

LGBT理解増進法のはずが、排除を助長する!?

金沢レインボープライド共同代表​ 松中権さん:
残念…ですね。どうしてこういう法律になってしまったのか?

松中権さん
松中権さん
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落胆の表情を浮かべるのは、金沢市出身で性的少数者への理解を呼びかける活動を行う金沢レインボープライド共同代表の松中権さんだ。

LGBT理解増進法は、自民・公明の与党に加え、日本維新の会と国民民主の4党が賛成し、可決・成立した。内容は、与党案に、維新・国民の主張をほぼ丸のみした形で修正したものだった。

LGBT理解増進法が可決
LGBT理解増進法が可決

松中さんが最も懸念するのは、修正案に加えられた一文。

松中権さん:
「全ての国民が安心して生活できるよう留意する」ということが書かれていて、その言葉だけ見ると「すべての国民が安心して生活するって大事なことだな」と思われるかもしれないんですけど、つまり、LGBTQ+の方々が「不安にさせる人たち」であり、「安心できない人たち」であり、そういう人たちはマジョリティ多数派の方々が優先されるから、その方々の気持ちを慮って、「何かあればわきまえてください」っていう、そういう法律なので…

性的少数者への理解を増進するどころか、逆に排除につながりかねないというのだ。

例えば、松中さんらのグループを中心に一昨年から金沢で実施している、性的少数者への理解を呼びかけるパレードも…

金沢市内で行われたパレード
金沢市内で行われたパレード

松中権さん:
金沢市に住んでる人が「そんなパレードとか、街中でやられたら怖い。安心できない」って言ったら、パレードができなくなっちゃいますよね。

開催できなくなる根拠にもなり得る可能性がある法律だというのだ。

石川県では現在、性的少数者への理解増進を求める条例や、県パートナーシップ宣誓制度の導入を目指し、議論が始まったところ。

馳浩石川県知事:
知事という立場で言えば、国がやらないのならば自治体でやったっていいじゃないか。なぜならば、これは人権に関わる問題です。私は「石川モデル」があってもいいな、国に先駆けて、そういう気持ちもあります。

今回の法案成立は、こうした県の動きに水を差すことになるのではないか…

松中権さん:
石川県はそうではない。ちゃんとLGBTQ+の人権を大切に考えて活動を制限するんじゃなく、より進めていく方に推進して頂きたいですよね。

さて、このLGBT理解増進法の議論の中で反対派が語っていたのが、「出生時に割り当てられた性」と「自ら認識する性」が違うトランスジェンダーの人々への懸念だ。心が女性だと言いさえすれば、誰でも女性トイレや女湯に入れるのではないか。こうした懸念について、トランスジェンダーの当事者はどう考えているのだろうか。

「男性トイレ」か「女性トイレ」か…「男湯」か「女湯」か

まみさん:
昔までは取材を受けると「自分のことがバレるんじゃないか」とか思ったんですけど、やっぱりその実情、リアルを知ってもらいたいということで、今回はインタビューを受けさせていただきました。

稲垣真一アナウンサーとまみさん
稲垣真一アナウンサーとまみさん

石川県内に住む、まみさん。生まれつき割り当てられた性が「男性」、自ら認識する性が「女性」のトランスジェンダー女性だ。

まみさんが実際に公衆トイレをどう使っているのか聞いた。

稲垣真一アナウンサー:
普段はどんな感じで利用されているんですか?
まみさん:
女性のトイレに行きますよね。障害者用、多目的の所があったらそこを使うという感じです。もしもトラブルがあった時に誤解とかされたりするんで…やっぱりそういう不安はあります。
稲垣アナ:
でも、まみさんは女性ですよね?
まみさん:
だからやっぱり、そこが難しいところで…。

2023年6月8日、金沢大学などで作る研究グループが発表した意識調査では、自分の使っているトイレをトランスジェンダーの人が自ら認識した性に沿って利用することに「抵抗はない」もしくは「どちらかといえば抵抗はない」と答えた人は、オフィスのトイレで71.5%、公共施設のトイレで66.9%だった。

トランスジェンダーの人々をどう考えたらいいのか

しかし、街で聞いてみると…。

街の人:
容姿次第、ビックリしないというのはウソですね。
街の人:
怖くはないけど、抵抗はあります。
街の人:
今の時点では多少抵抗がある。そんなにまだトランスジェンダーの人を見たことがないから、慣れていない。

街の人たちに話を聞いた
街の人たちに話を聞いた

と、懸念の声があるのも事実だ。

「性同一性障害」の診断書を“護身用”として携帯

万が一トラブルになった時のために、まみさんはあるものを持ち歩いている。

まみさん:
こんな感じですね。

それは、病院からの診断書。

まみさん:
性同一性障害。
稲垣アナ:
「通院が必要です」と。
まみさん:
医療機関が「私はトランスジェンダーですよ」ということを証明してくれる。第三者が証明してくれるものなので、これが一つの「護身用」かなと思いますけど…。

トラブルを避けるため銭湯には行かず、人が多い商業施設では帰宅するまでトイレを我慢することもあるというまみさん。「女性と称して女性トイレや女湯に入る人が出てくる」との懸念については…。

まみさん:
トランスジェンダーってことじゃなくて、トランス女性を騙る人が入ってくるんだから、私はそういうのがあると風評被害というか、困りますよね。今度自分たちがそういう所を利用しにくくなるというところがありますから…。

「自分らしく、ありのままの姿でいたい」まみさんの切なる願い

LGBT理解増進法は、LGBTQ+の人々への理解を増進することが目的だ。

まみさん:
男らしくとか女らしくじゃなくて、自分らしく、ありのままの姿でいたい。自分らしく生きるっていうところに自分の誇りも希望もあるだろうし。そうやって生きていけたら幸せだなと思います。

まみさんの願いが叶う社会を実現するには、当事者の実情を知り正しく理解することが必要だ。

(石川テレビ)

石川テレビ
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