指導者の定年退職に伴い、高いレベルでの部活を続けたいと「転校」した結果、高総体に出場できなかった強豪チームがある。悔しさをバネに次に向かう元・九州文化学園の部員、長崎県立西彼杵高校バレーボール部のいまを追った。

指導者の定年退職で…17人が“転校”

長崎純心女子が48年ぶりの頂点に立った2023年の長崎県高総体。
ひときわ目立つ蛍光色のTシャツを着た補助員がいた。大会に出られなかった長崎県立西彼杵高校の部員たちだ。

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長崎県立西彼杵高校3年・市川すみれ主将:
自分たちもこのコートでプレーをしたかった。(蛍光色のTシャツを着たのは)プレーできないけど、審判でも自分たちで目立っていこうという気持ちでやっている

県立西彼杵高校の2、3年生は、2023年3月まで日本一15回の強豪・九州文化学園の生徒だった。
ところが、2022年、チームを率いる井上博明監督が65歳の定年で退職することが分かった。

その後、井上監督が西海市の誘いで、5年間部員がいなかった西彼杵高校の外部指導者に就任することになった。

2023年2月に行われた会見で、井上監督は今後について、次のように語っていた。

井上博明監督:
真実(こころ)のバレーの進化を頑張ってやっていくことが、西海市の地域の方々にも応援してもらえるチームになっていくのでは

九州文化学園から17人が、異例の“転校”を決意した。

長崎県教委の担当者:
生徒の移動、転校・転学は、やむをえない事由において認めてきた。生徒たちの将来のことを最優先に考え、柔軟に対応したい

半年間“出場できず”…それでも決断した理由

転校からまだ1カ月余りの5月。元・九文バレー部員の生徒に、西海市の人たちが食事をふるまってくれた。

西海市民:
人口が流出するというが、活気が出てくるのでは。若い声が響けば

大きな決断をした彼女たちに“新たな地元”の応援団ができた。

しかし、厳しい現実もある。
全国高校体育連盟は、「転校した生徒は高体連主催の試合に半年間、出場できない」と定めている。それでも転校を決めた生徒たちには、ゆずれない理由があった。

西彼杵高校3年・田中聖華さん(元九文バレー部員):
(井上)先生がいたから。バレーだけじゃないし、人としても成長できるから

西彼杵高校3年・市川すみれ主将(元九文バレー部員):
先生についていって、いっぱい吸収した方がいっぱい成長できると思った

転校後、最初の大会で見せた結果は…

長崎地区の春季大会。この日から2日間は、高体連主催ではない貴重な公式戦。しかも新生・西彼杵としての緒戦だ。ユニフォーム姿も初めて披露した。

記念すべき最初の得点は、エースの佐藤侑音さん(2年)だった。西彼杵は、順当に勝ち上がっていった。

そして決勝は転校前、九文としての最後の大会で敗れた長崎純心女子との対戦だ。
ところがこの試合、「勝たないといけない」というプレッシャーにがんじがらめになっていた。らしからぬミスも出て、第1セットを落としてしまう。

西彼杵高校バレーボール部・出野久仁子コーチ:
嫌々するなら、やめとき。どんだけ世話になってるの。甘えすぎやろ。自分たちがするしかないって

指導者のひとことで、選手の動きが見違えた。
西彼杵高校は、セットカウント2-1で逆転勝利をおさめた。

 

生活環境がガラッと変わる「転校」という決断をして臨んだ最初の大会で優勝。小さな大会ではあっても、新生・西彼杵高校バレー部としてつかみ取った結果に部員たちは、こみ上げるものをこらえることはできなかった。
彼女たちを見守ってきた保護者や、地域の人の目にも涙が浮かんでいた。

西彼杵高校3年・田中聖華さん(元九文バレー部員):
当たり前じゃないことをずっとしてもらってきて、1セット目はとられたけど、2・3セット目は感謝の気持ちを忘れず思いっきりできた

2023年6月の長崎県高総体。西彼杵のメンバーは、ほぼ初めての裏方仕事に向き合っていた。
ただ分かってはいても、同い年の選手たちボールを追う姿に、割り切れない思いが。

西彼杵高校バレー部・ドロストきいらさん(3年):
「なんで?」っていう部分があるけど、悔しいからこそ、また絶対に負けないために頑張ろうとも思った。最終的には春高で 自分たちは絶対に取る気持ちでこれから頑張っていきたい

悔しさは 秋に行われる予定の春高県大会にすべてぶつける。

(テレビ長崎)

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