将棋の藤井聡太六冠は、6月1日に行われた名人戦第5局で渡辺明名人に勝利し、史上2人目の七冠を達成した。対局場は長野県高山村の老舗旅館「藤井荘」だったが、名人戦の対局場を決める方法や、東海地方で過去に話題となった対局場を取材した。

設備はもちろん「地元の熱意」を重視

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将棋のタイトル戦の対局場の決め方について、名人戦の主催社でもある朝日新聞社の担当者に伺った。

もともとは担当者が地道に旅館やホテルを調査して、対局ができる場所を探していたが、2009年からは公募を始めたという。話題になっていることもあり、最近は公募数が上昇傾向で、毎年7局ではとても足りない状況だという。

選考の要素には「関係者が多いため、対局室周辺などに広いスペースが確保できる」「対局室の近くに対局者専用で使えるトイレがある」といったものがあるが、最も重要なのが「地元の熱意」だ。イベントも開かれるため、地元の協力があるかなどが選考ポイントになるという。

愛知の「銀波荘」は将棋の聖地に

東海3県でも、タイトル戦の対局場に選ばれた場所が多くある。

中でも、愛知県蒲郡市にある創業67年の旅館「銀波荘(ぎんぱそう)」は「将棋の聖地」と呼ばれている。これまで93回のタイトル戦が行われてきたが、そこには様々な思いや工夫が込められていた。

支配人の掛川慎太郎さんに話を伺った。

営業統括支配人の掛川慎太郎さん:
オファーをいただいて決まる。正直なところ、こちらからは何もアプローチはかけてなくてですね。将棋に集中してもらうために、王将戦の当時はもう全館貸し切りに。準備がやっぱり大変ですね

1966年に初めての依頼を受けて開催したところ、棋士や主催から好評だっため、その後もオファーが続いたという。そこで銀波荘は「次の一手」を指した。

営業統括支配人の掛川慎太郎さん:
将棋のために、離れというかお部屋を作った状況でございます

銀波荘でタイトル戦をして懇意になった、大山康晴(おおやま・やすはる)十五世名人に協力してもらい、対局のために離れを増築。光の入り方や静かさなどにこだわった、対局のための部屋を作った。

営業統括支配人の掛川慎太郎さん:
集中して将棋に取り組んでいただけるような環境を整えたいということで、お部屋の造りも、対局している周りにメディアさんが写真を撮れるようなスペースを作ったり、そういう特殊なお部屋タイプになっております

先代女将の大浦さんを中心に、対局者や関係者を徹底してもてなし、女将自らお茶をいれることもあった。

この部屋は、普段は一般の客が宿泊できるのはもちろん、プロ棋士と対局できるイベントも行ったりして将棋ファンの宿泊客も増えたという。

また、大山十五世名人から将棋盤と駒を寄付してもらい、タイトル戦では毎回使われている。

このように将棋への情熱を注いだ銀波荘は、いくつものタイトル戦の舞台に選ばれ、その数は実に93回。

いつしか「将棋の聖地」と呼ばれるようになった。

一風変わった対局場とは

対局者の心をつかんだ対局場は他にもある。渡辺明名人の体験などを漫画にした「将棋の渡辺くん」の中で、一風変わった対局場と紹介されているのが、名古屋市中区大須にある「万松寺」だ。

2019年6月に万松寺で行われた棋聖戦。渡辺明名人はその様子について…。

<将棋の渡辺くんより>
「対局室もすごく広くって」

渡辺名人も驚いていた対局場を訪ねると、フローリングになっていた。

副住職:
普段はフローリングになっているんですけども、もともと和室ですので、和室として対局場を提供しています。28畳ですかね。対局場の中でも広い方だと思います

この広さに加えて、天井にある空調は対局者の真上に来るように設置されていて、2人がそれぞれ快適温度を設定できる仕組みになっている。

副住職:
実際に将棋のタイトル戦をやるにあたって、いろいろ変えた部分もあります

ここは2017年に改築するときに、将棋のタイトル戦をできるよう考慮して作られた部屋だ。

そうしたことが実を結び、これまで7回、タイトル戦の舞台に選ばれた。こだわりは広さだけではない。

副住職:
お稲荷さんの鈴がここまで聞こえるということで、音はすごい気を配りました

お参りのときに鳴らす鈴を、タイトル戦の日は撤去したという。

また、金属製のさい銭箱を木製に変えたり、アーケードに流れるBGMをカットするなど、商店街一丸となって対局者が集中できる環境を整えた。

漫画では「前夜祭」でのおもてなしにも触れられている。

<将棋の渡辺くんより>
「前夜祭では出店が並んでたなぁ」

副住職:
商店街の方々に提供していただいて、屋台形式で料理を出していただいた

その中では、住職が担々麺を作って提供。しかし、渡辺名人本人は撮影などで食べられなかったそうだ。

万松寺は対局者に気配りしつつ、盛大に盛り上げていた。

2023年5月26日放送

(東海テレビ)

東海テレビ
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