天皇皇后両陛下は、6月3日から2日間の日程で、全国植樹祭出席のため岩手県を訪問されました。花巻空港では多くの人たちが集まり、両陛下を歓迎しました。

即位後初めての震災被災地ご訪問

到着後、陸前高田市へ。両陛下が12年前に発生した東日本大震災の被災地に足を運ばれるのは即位後初めてです。高さ12.5メートルの防潮堤の上に設けられた追悼施設「海を望む場」で、両陛下は白い花を手向け、海に向かって深く拝礼されました。

「奇跡の一本松」のモニュメント(岩手・陸前高田市)
「奇跡の一本松」のモニュメント(岩手・陸前高田市)
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引き続き、復興のシンボルとして知られる「奇跡の一本松」のモニュメントへ。「奇跡の一本松」は、津波で約7万本の松が流された中、1本だけ耐え、奇跡的に残ったものです。

何度も松の木を見上げられた両陛下。高さ14.5メートルあたりの幹の部分に、樹皮が剥がれて白くなった津波到達の痕跡が残っていると説明され、「ここまで津波が来たんですね」と驚かれたといいます。

東日本大震災津波伝承館(岩手・陸前高田市)
東日本大震災津波伝承館(岩手・陸前高田市)

両陛下が続いて訪問された東日本大震災津波伝承館は、津波に押し流された消防車両や被災当時の写真などが展示され、震災を知らない小学生が修学旅行などで訪れているといいます。

震災の体験を後世に伝える語り部として活動する被災者と懇談された両陛下。

皇后さまは「震災で大変なご苦労をされましたね」「これからもお体に気をつけて頑張ってください」と労わりの言葉をかけられました。

宮沢賢治の童話になぞらえて呼びかけられた「大切な使命」

2日目、両陛下は大船渡市にある復興商店街へ。
津波で流された店舗などが集まって再開した商店街を1軒ずつ視察し、復興状況について話を聞き、「コロナの間も大変でしたでしょう」「たくさんの方が来られると良いですね」などと声をかけられました。

第73回 全国植樹祭(高田松原津波復興祈念公園)
第73回 全国植樹祭(高田松原津波復興祈念公園)

両陛下は、この日の午後、「第73回 全国植樹祭」の式典に臨まれました。
豊かな森づくりを目指す全国植樹祭。コロナ禍の間、オンラインで出席していた両陛下が、会場に直接足を運ばれるのは4年ぶりです。
式典の冒頭、震災の犠牲者に対し、1600人の出席者と共に黙とうを捧げられました。

陛下はおことばで、改めて震災の犠牲者への哀悼の意を表し、被災者へのお見舞いを伝えると共に、森林の大切さについて述べられました。

《天皇陛下のおことばより》
健全な森林は、木材を始めとする林産物の生産だけでなく、人間が生活する上で欠かすことのできない水源の涵養(かんよう)や国土の保全、さらには地球環境や生物多様性の保全にも大切な役割を果たすなど、私たちに様々な恩恵をもたらしてくれる、国民の、ひいては人類共通の財産と言えます。

こうした、かけがえのない森林の大切さを思うとき、苗木を植え、大切に育て、そして、未来を担う若い世代に健全な森林を引き継いでいくことは、私たちが果たすべき大切な使命であると考えます。

さらに、地元・岩手県出身の宮沢賢治が書いた童話「()十(けんじゅう))公園林」を引用し、次世代に向けた森づくりを呼びかけられました。

《天皇陛下のおことばより》
宮沢賢治の童話に登場する虔十がコツコツと杉を植えていった野原が、後に多くの人に愛される公園になったように、そうした活動が、今後も多くの人々によって支えられ、更に発展していくことを期待いたします。

このあと両陛下は、お手植えに臨まれました。
陛下は、岩手県の木・ナンブアカマツ、カシワ、タブノキの苗木を一本一本丁寧に植えられ、皇后さまは、陸前高田市が発祥と言われるベニヤマボウシ、さらにハナヒョウタンボク、ミチノクナシの苗木に丁寧に土をかけられました。

続いて、陛下がオオヤマザクラ、ケヤキの2種類の種を、皇后さまは、ヤブツバキとハマナスの種をまかれました。ハマナスは皇后さまのお印です。

両陛下は、介添えしたみどりの少年団の小学生に「どんな活動をしていますか」などと声をかけて交流し、会場を後にされました。

復興が進む様子を目の当たりにし、多くの市民と交流された両陛下は、今回の訪問に際し「引き続き被災地に心を寄せていきたいという思いを新たにしています。被災地の人々が真に安心して暮らせる日が来ることを切に願っております」と感想を寄せられました。

(「皇室ご一家」6月11日放送)