人間と野生動物のトラブル解消を担っているハンターが今、いわれのない批判にさらされている。
住民のためにやっているのになぜ批判を受けるのか。苦悩する現場を取材した。
クマ・シカによる深刻な被害
北海道東部・厚岸町のハンター、根布谷昌男さん。
この記事の画像(14枚)「デントコーンを今クマが漁っているのではないか。デントコーン刈りをしている最中にクマがとび出してくる」
普段は農作物に被害を及ぼすシカを捕獲しているが、人に危害を加える恐れのあるクマが出没した場合には自治体から特別に許可を受け、捕獲する。
この日は、息子と捕獲に出ている途中、牧草地でシカを発見した。
約300メートル先のシカを1発で仕留めた。
捕獲数を管理するため、シカの写真を撮影し、役場に提出する。
「大体300m以内なら外すことはない。いま酪農家は飼料づくりをしているからいっぱいとってあげたいが、大変だよね、クマも入ってくるだろうし」(北海道猟友会厚岸支部・根布谷昌男さん)
厚岸町では、クマやシカによる被害が深刻だ。
酪農地帯が広がる内陸部では、牧草地にシカが入り込み、牧草や牧草ロールを食べ、年間の被害額は1億5千万円にのぼっている。
「おそらくここでクマが寝ていたんだと思う。クマもここで2回見ている。しょっちゅうここに来るがなかなか姿を見せてくれない」(根布谷さん)
人が襲われ死亡した事件も
中でもクマの被害は深刻だ。
農業被害はもちろん、厚岸町では過去5年間で人がクマに襲われる事故が3件発生し、1人が死亡した。
こうした人や家畜を襲う問題個体の捕獲もハンターが担っているが、そのハンターが批判にさらされている。
標茶町や厚岸町の牧場で66頭の牛を襲い、2023年7月に駆除された「OSO18」。
相次ぐ抗議…「なり手がいなくなる」
駆除をめぐり、ハンターや自治体に「なぜ殺したのか」「かわいそう」など苦情の電話が数十件あった。
報告を受けた猟友会標茶支部の後藤勲支部長は、批判に対し、クマとの共生の難しさを訴える。
「標茶でこれだけ牛の被害があるようなところに来て、生活して、実態を見てくれといいたい。我々も面白半分にクマを撃っているわけではない」(北海道猟友会標茶支部 後藤勲支部長)
後藤支部長はこうした状況がハンターの萎縮やなり手不足につながると懸念し、道の会議で抗議や誹謗中傷への対策を求めた。
道の担当者は「ハンターを守る体制を検討したい」とした。
「クマをとって、批判されるのであればハンターを辞めると、当然そうなる。鉄砲を持たなくなる。そうしたらこれからの将来どうなるのかと」(後藤支部長)
銃弾の価格高騰も
他にもハンターを悩ませる問題がある。
「これがいま使われている主流の3種類、この弾が倍くらいになっている。1個の弾で1000円くらい。昔は600円。」(根布谷さん)
銃弾の価格高騰だ。
アメリカやヨーロッパからの輸入に依存している銃弾は、コロナ禍で供給網が混乱した上、ウクライナ情勢や円安も重なり価格が跳ね上がった。
影響が長期化するとクマやシカの捕獲にも支障が出かねず、なり手不足にも拍車がかかるのではと懸念している。
「どうしようもない。ただお金がかかるばかり。シカばかりではなく、クマによって牛が襲われたり人が襲われたりすることがあるので、ハンターの力を借りないとどうしようもない部分がある」(根布谷さん)
地域の住民、そして道民のために働くハンター。
正しい理解とハンターを守る対策が求められている。