保守系大衆紙が民主党候補をベタ褒め
「RFK Jr.(ロバート・F・ケネディー・ジュニア)の挑戦を無視するバイデンは愚か者だ」
大衆紙ニューヨーク・ポスト電子版5月21日に掲載された記事見出しだ。
同紙は保守派支持で知られ、2016年、2020年の大統領選ではトランプ氏を推薦しておりバイデン大統領を批判するのは理解できたが、そのバイデン大統領に挑んで民主党大統領選に立候補を表明したケネディー氏を評価し好意的に取り上げたのが意外だった。
この記事の画像(6枚)同紙もこのミスマッチを認識しているようで、記事は次のように始まる。
「かの日、豚が空を飛んでいるのをあなたが見かけたとすれば、それはロバート・F・ケネディー・ジュニアがニューヨーク・ポストを訪れてバイデン大統領に挑戦することを話し合ったからに他ならない」
「豚が空を飛ぶ(pigs fly)」という表現をブリタニカ辞書で見ると「現実には起こり得ない事柄」とある。つまりその記事は本来起こり得ないほど異例な報道だったということだろう。
それはともかく記事は「ケネディー氏には真の信念とカリスマ性があり、民主党に君臨する数多くの信条を強く否定している」とベタ褒めだ。
ロバート・ケネディー・ジュニア氏は大統領選遊説中に暗殺されたロバート・ケネディー元司法長官の次男。ジョン・ケネディー元大統領の甥にあたる名門の出の69歳。これまでは直接政治活動には関わらず環境保護派の弁護士として行動してきたが、その知名度からいつかは政界入りすると内外から期待されていた。
また同氏はニューヨーク・ポスト紙とのインタビューでバイデン政権の「目玉政策」でもある移民受け入れ問題について「私は国境を閉鎖する」と断言。その理由として「現在の移民政策は非人道的な『死の落とし穴』を設けているようなものだ」と言い、さらに「国境を守れないようでは国家とは言えない」と今の民主党に支配的な左派の考えを頭から否定していて、民主党右派から中間派までの同感を得られる可能性があるとニューヨーク・ポスト紙は分析する。
来年の大統領選に向けて民主党からは一人バイデン大統領が再選出馬を表明しているが、当選時82歳という高齢を不安視する向きも多く、ワシントンポスト紙とABCニュースが5月3日までに行った世論調査で「バイデン氏を再び民主党の大統領候補に」と回答したのは、民主党支持者と民主党に傾いている中間派の36%に過ぎなかった。
支持率では楽勝に思えるバイデンの死角…
「RFK Jr. が2024年大統領選の民主党候補になると私が考えるわけ」
レーガン大統領やブッシュ(父)大統領のスピーチライターをした評論家ダグラス・マッキノン氏は政治ニュースサイト「ザ・ヒル」に5月27日、表題の論評記事を寄稿した。
マッキノン氏はバイデン大統領は最終的には出馬できないと見ているが、それまでの間後継者となり得る民主党の有力者、例えばカマラ・ハリス副大統領やカリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事、それにピート・ブティジェッジ運輸長官らは現職の大統領を差し置いて出馬の名乗りを上げるわけにもゆかず、手も足も出ない状態に追いやられる。
その間ケネディー氏は独り民主党支持者の間で選挙運動ができるわけで、それもニューヨーク・ポスト紙のような共和党支持のマスコミにも取り上げられて支持層を広げてゆくことが予想できる。
そして何よりも「ケネディー」という名前は今も底知れぬ影響力を持っており、民主党内で大きな割合を占める黒人やヒスパニック系、それに中間層の有権者の多くの支持を得ることになるだろうとマッキノン氏は考える。
フォックス・ニュースが5月22日までに行った世論調査で、民主党の候補者として支持されたのはバイデン大統領62%、ケネディー候補16%、作家のマリアンヌ・ウィリアムソンさん8%となっている。
このままならば、バイデン大統領が楽勝するとも思えるが、同大統領は1日、空軍士官学校の卒業式で演台上で転倒し、その様子が繰り返しテレビ・ニュースで伝えられ民主党支持者の間でも不安が募っている。
2024年大統領選の民主党候補はバイデン氏と決めてかかっていると「愚かなこと」と誹りを免れないことになるかも知れない。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】