上皇ご夫妻は、5月14日から5日間の日程で京都府と奈良県へ旅行に出かけられました。ご夫妻の地方訪問は、お代替わり後の引っ越しの際を除いて4年ぶりです。

ご夫妻は行く先々での温かい歓迎や交流を喜び、帰京後も楽しそうに思い出話をされているということです。

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「久々の長時間の旅行になりますから、シワになりづらい素材であったり、仕立て方も体のご負担にならないよういろいろと考えまして…」

こう語るのはファッションデザイナー・滝沢直己さん。10年以上にわたり、上皇后・美智子さまの洋服のデザイン・制作に関わっています。今回の旅での洋服も滝沢さんが手がけたものです。そこで、美智子さまの服作りへの思いについて聞きました。

ファッションデザイナー・滝沢直己さん
ファッションデザイナー・滝沢直己さん

和の伝統技術を生かした洋服作り

ファッションデザイナー・滝沢直己さん:
合理的に簡単にできて、それで美しいものということがお好みだったと思います。

5月15日、京都・大聖寺を訪れた際に上皇后さまがお召しのジャケットには、銀箔で格子の模様が描かれています。これは「筒描き」という伝統技法を用いたもの。

「筒描き」の技法で描いた格子柄
「筒描き」の技法で描いた格子柄

ファッションデザイナー・滝沢直己さん:
職人さんが手で定規を引かずにフリーハンドでこういう柄を作っているんですね。これは、和装のテクニックで非常に昔からの伝統的な柄なんですが、やはり手による自然の味で、この線が揺らいでる。そこがまた美しさにつながる、そういう技法なんです。

染めや織りといった日本の伝統的な技法や色について造詣が深い美智子さま。和装の技術を洋服に生かしたいと、さまざまな提案をされてきたといいます。

2017年11月 トランプ大統領(当時)夫妻とご面会(皇居・御所)
2017年11月 トランプ大統領(当時)夫妻とご面会(皇居・御所)

平成29(2017)年11月、トランプ大統領(当時)夫妻が来日し、御所で面会されたときのスーツの色は「青白つるばみ」という和装の伝統色。「引き染め」という技法で、グラデーションが施されています。

「引き染め」によるグラデーション
「引き染め」によるグラデーション

ファッションデザイナー・滝沢直己さん:
はけでこういうふうに(生地に色を)塗っていくんですが、そうするとこの色の中に(はけの毛並に沿って)ムラができるんですね。横に線がスーッと入ってますよね。これが布の自然な姿なんです。だんだん薄くしていくという絵画的な作り方ですよね。職人の技と美智子さまの知識、そういったものが一つになってできたものだと思います。

2018年6月 ベトナム・日本外交関係樹立45周年記念レセプション(東京・港区)
2018年6月 ベトナム・日本外交関係樹立45周年記念レセプション(東京・港区)

一方、平成30(2018)年6月、ベトナム・日本外交関係樹立45周年記念レセプションに臨まれたときのドレスのグラデーションは、日本の高品質な化学繊維に「昇華転写」という最新のプリント技術で作り上げたもの。伝統と最先端技術との融合に、美智子さまは「素晴らしいですね」と喜ばれました。

化学繊維(ポリエステル)の生地に昇華転写プリントで作ったグラデーション
化学繊維(ポリエステル)の生地に昇華転写プリントで作ったグラデーション

「遠く離れていても一緒に作っている」職人の技術への敬意

滝沢さんが手掛けた服の中で集大成といえるのが、平成31(2019)年4月30日、皇后として最後の日に退位礼正殿の儀で着用されたドレス。

2019年4月30日 退位礼正殿の儀(皇居・宮殿)
2019年4月30日 退位礼正殿の儀(皇居・宮殿)

美智子さまから「おまかせします」と依頼を受け、職人と共にこれまでの技術と思いを結集した1着を作り上げました。袖の部分には、ある手法で銀箔を施しています。

ファッションデザイナー・滝沢直己さん:
“ちぎり箔”といって箔を手でちぎって置いていくんですね。線があるのが“野毛箔”といって、これも美智子さまから教えていただいた技術なんですけれども…。僕も含めて職人さんたちも楽しいんですよね。本当に新しいことをやらせていただけるということが楽しくて幸せなものづくりだったと思います。

ちぎり箔と野毛箔
ちぎり箔と野毛箔

完成したドレスを納めたとき、美智子さまは「本当にきれいですね」「職人さんたちによくお礼を言ってください」と感謝の思いを示されたといいます。

2014年12月 上皇さま81歳の誕生日 茶会の儀(皇居・宮殿)
2014年12月 上皇さま81歳の誕生日 茶会の儀(皇居・宮殿)

そして、美智子さまは「職人と遠く離れていても、自分も一緒に作っていると思っています」と滝沢さんに話されたことがあったそうです。

ファッションデザイナー・滝沢直己さん:
必ずいつも職人さんの存在があり、日本の伝統が自分の衣服を通じて少し前に進めるようになる。また職人さんたちの技術が、そこでまた新しく移り変わっていくということ。そういう思いがたぶんいつもおありだったと思いますね。

2018年6月 全国植樹祭(福島・南相馬市)
2018年6月 全国植樹祭(福島・南相馬市)

ご自身の服作りを通じて、日本の伝統的な服飾技術が未来に受け継がれることを願われている美智子さまです。

(「皇室ご一家」5月28日放送)