韓国の視察団に続き、IAEA=国際原子力機関が原発処理水の海洋放出をめぐる最終調査で来日した。トリチウム以外の放射性物質を取り除いた「処理水」を基準値以下に薄め、沖合い1キロから放出する計画なのだが、そもそもトリチウムとは?その安全性とは? 深掘りする。

福島第一原発に溜まる処理水

東京電力・福島第一原発では、1号機から3号機の内部に溶け落ちた核燃料「燃料デブリ」が残されている。これを冷却する水や地下水などが燃料デブリに触れ「汚染水」となる。この水を専用の装置に通し、トリチウム以外の放射性物質を取り除いたのが「処理水」。廃炉作業に必要な敷地を確保する必要があるとして、進められることになるのが海への放出で、国の基準の40分の1、WHOの飲料水基準の7分の1にまで海水で薄め、沖合1キロから放出する計画。

原発の処理水を海底トンネルで沖合い1キロから放出する計画
原発の処理水を海底トンネルで沖合い1キロから放出する計画
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体や自然の中にも存在

そもそもトリチウムとは、一体どういったものなのか?トリチウムは水素の仲間で、原発事故がおきる前から私たちの体の中や自然の中に存在する物質。生活をしていれば体の中に入ってくるが、汗や尿などで排出される。環境省によると「ALPS(多核種除去設備)で処理することにより、ほとんどの放射性物質は取り除かれるが、水素の放射性同位体であるトリチウムは水分子の一部になって存在しているため、ALPS等の処理で取り除くことができない」という。

トリチウムは水素の仲間(出典:経済産業省)
トリチウムは水素の仲間(出典:経済産業省)

日本以外でも排出

原発で発電を行うとトリチウムは必ず発生するので、原子力に関わる施設では基準を守って海や川に排出されている。例えば、事故を起こす前の福島第一原発では1年間に2兆ベクレル、韓国の古里原発では49兆ベクレル、フランスのラ・アーグ再処理施設では、1京ベクレルのトリチウムを排出している。
一方で、トリチウムによる施設周辺の生態系や環境への影響は確認されていないという。

トリチウムは国内外の原子力施設でも放出(出典:経済産業省)
トリチウムは国内外の原子力施設でも放出(出典:経済産業省)

国際基準よりも厳しい基準

そして、日本政府は、処理水の放出に国際的なものより厳しい基準を設けた。それが1リットルあたり1500ベクレル未満というもので、運転中の原発の排出基準・6万ベクレルの40分の1。WHO・世界保健機関が飲み水に設けている基準の1万ベクレルも下回っている。
専門家は、処理水を海に放出しても海水に含まれるトリチウムの濃度に変化は見られないのではないかと指摘している。

トリチウム濃度(出典:経済産業省)
トリチウム濃度(出典:経済産業省)

青森県でも調査

福島第一原発の沖合で海水や水産物を採取する研究チームは、原発周辺の海域への放射性物質の拡散状況を継続的に調べている。このチームを指揮するのが、福島大学環境放射能研究所の高田兵衛准教授。高田准教授が調べるもう一つの海域が「青森県」

提供:福島大学・環境放射能研究所 高田兵衛准教授
提供:福島大学・環境放射能研究所 高田兵衛准教授

過去には60倍のトリチウム放出も

青森県六ヶ所村にある日本原燃の再処理施設は、全国の原子力発電所で使い終えた使用済み燃料を加工し、再び核燃料として使用するための処理を行う施設。本格的な稼働をする前に、2006年から2008年まで使用済み燃料を試験的に処理し、設備に問題がないか確認する試験が行われていた。

使用済み燃料を試験的に処理し 設備に問題がないか確認する試験が行われる
使用済み燃料を試験的に処理し 設備に問題がないか確認する試験が行われる

その過程で出た廃液を、ろ過などで放射性物質を除去した上で沖合い約3キロから海洋放出。年間でみると福島第一原発で計画されている海洋放出の約60倍にあたる、最大1300兆ベクレルのトリチウムが放出された。

画像のデータは日本原燃・安全協定に基づく定期報告書より
画像のデータは日本原燃・安全協定に基づく定期報告書より

高田兵衛准教授は「その魚を摂取した際の、被ばく線量を簡単に計算する方法を使ってみると、我々に健康被害を及ぼすような数値というのは見えていないと示されている。処理水放出では、見られるかどうかわからないくらいの濃度が数値として出てくる可能性はあるが、ほとんど福島の処理水放出の由来で見えているのか、そうでないのかという区別の判断がつくレベルではないのではないか」と話す。

高田准教授「健康被害を及ぼすような数値というのは見えていないと示されている」
高田准教授「健康被害を及ぼすような数値というのは見えていないと示されている」

技術的な安全性も国際基準で確認

IAEAでは、処理水の海洋放出について国際的な安全基準を満たしているか確認するための現地調査を、2022年2月と11月に実施。2023年6月にも最終的な報告書を公表する考えで、G7広島サミットでは各国の首脳が「IAEAの検証結果を支持すること」を表明した。

IAEAの現地調査 国際的な安全基準を満たしているか確認(提供:東京電力)
IAEAの現地調査 国際的な安全基準を満たしているか確認(提供:東京電力)

高田兵衛准教授は「我々の方は安全ですとか安心を伝えるだけではなくて、こういう数値ですよ、じゃあ実際どれくらいなのか是非みんなで考えてみましょう、といったきっかけになれば。それは絶対風評の被害がおさまる一番大事なことだと思っています」と語った。

福島大学・環境放射能研究所の高田兵衛准教授
福島大学・環境放射能研究所の高田兵衛准教授

処理水の海洋放出を始める時期については、「2023年夏頃まで」という目標。依然、国内外での理解が進んでいないという声もある。待ったなしの状況で、どこまで理解を深めることができるのだろうか。

(福島テレビ)

福島テレビ
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