「平成の大噴火」となった雲仙・普賢岳の噴火災害(1991年)から2023年で32年。43人が犠牲となった災害から30年以上が経過した今、崩落の危険も指摘されている雲仙・普賢岳の溶岩ドーム「平成新山」の防災視察登山に同行取材した。

調査の目的地「平成新山」を目指す

別名「雲仙ツツジ」とも呼ばれるミヤマキリシマが、山肌をピンク色に染めた雲仙ロープウェイの仁田峠駅。

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ここが防災視察登山の出発地点だ。

「防災登山」は、溶岩ドーム「平成新山」の現状の確認と調査のため、噴火がおさまった28年前から行われている。33回目となった5月15日の防災登山には、国土交通省や林野庁、それに地元の警察や消防など、25機関の77人が集まった。

一行を率いるのは、九州大学の調査チームだ。

九州大学 地震火山観測研究センター・松島健教授:
平成新山の調査は、噴火がおさまった1995年の4月ごろから始めている。平成新山の現状をいろいろと勉強してもらいたい

平成新山の山頂を目指し出発
平成新山の山頂を目指し出発

テレビ長崎・渡海竜馬記者:
仁田峠にやってきました。これから九州大学の調査チームに同行し平成新山の山頂を目指します

ロープウェーで妙見岳駅に移動後、一般の登山道を使って調査の目的地「平成新山」を目指す。

初参加の消防士が持っていたのが「登山道防災マップ」だ。

初参加の消防士:
きょうたまたま持ってきました。こっち(平成新山)初めてなので

「登山道防災マップ」を見れば、危険な場所や突発的な噴火のときの注意点や避難ルートを知ることができる。普賢岳登山の必須アイテムだ。

マップの中で身を隠す場所のひとつとして紹介されているのが、登山道沿いにある「風穴」と呼ばれる洞窟。中は30人ほどが避難できる広さで、かつては蚕の卵を保管する天然の冷蔵庫として使われていた。

九州大学 地震火山観測研究センター・松島健教授:
避難しないといけないときはこの中に入って避難ができる。上にもシェルターとか作ろうと火山防災協議会が検討しているがまだ進んでいない

九州大学 調査チーム・中村謙佑さん:
天井が高かったので大丈夫そうだなと思いました

“活きている火山”だと実感

急勾配の登山道を進むと「平成新山」の入り口が見えてきた。

普段は立ち入り禁止のエリアへ
普段は立ち入り禁止のエリアへ

テレビ長崎・渡海竜馬記者:
こちら普段は立ち入りが制限されているエリアですが、きょうは調査のため特別に立ち入ります!

噴気も確認できる
噴気も確認できる

目の前の風景は一変。溶岩が冷えて固まった幅数メートルの岩が転がり、ところどころ噴気があがっている。

九州大学 地震火山観測研究センター・松島健教授:
地下水が温められて水蒸気となってあがっている

火山ガスや崩落のおそれがあるため、通常は立ち入り禁止。参加者は岩にしがみつきながら進む。

目的地にたどり着いた
目的地にたどり着いた

テレビ長崎・渡海竜馬記者:
登り始めから4時間ほどかけて目的地に到着しました。溶岩の間からは蒸気があふれ出ていて“活きている火山”だと実感する

九州大学 調査チーム・米盛航平さん:
噴気も確認できて植栽もないので、まさに活動中の山だという感じ

九州大学 調査チーム・永山勇志さん:
まだ教科書や参考書などの文字や数式しか見ていなかったので、実際に現場で火山を体感できて、より視野が広がったし新しい考え方が生まれそう

調査チームの計測で溶岩ドームの頂上付近から噴き出す蒸気の温度は約90度。ここ数年、大きな変化はないという。

長崎地方気象台 火山防災官・池田啓二さん:
噴煙、噴気の高さは、おおむね100メートル以下で経過をしているがこの2、3年、少し高いときがあり、400メートル、300メートルを観測している。雲仙岳としては特に「噴気活動が活発になった」「熱の活動が活発になった」という判断はしていない

頻発する地震…リスクは?

一方、気になるのが「地震リスク」だ。

気象庁によると、国内では直近1カ月で震度4以上の地震は14回、観測されている(※2023年5月16日時点)。九州大学の研究チームは溶岩ドームの「頂上」周辺に2つの計測器を設置。半年に1回の防災登山に合わせて、機器の点検やデータの確認を行っている。

九州大学 地震火山観測研究センター・江本賢太郎准教授:
これ(装置)が上方向、横方向の2つの揺れをとるようになっていて、その波がずっと記録されて地震などがくるとガンと揺れる感じです

国の調査などによると、溶岩ドームは1年に数cmずつ島原市街地側へと移動していて、風化や崩壊も確認されている。専門家は「地震リスク」への備えを呼びかけている。

長崎地方気象台 火山防災官・池田啓二さん:
1日に1回あるかないかの地震活動が2010年以降、雲仙岳で現在にかけて継続している

九州大学 地震火山観測研究センター・松島健教授:
長崎市あたりでも震度が感じられるような地震が起きている。今後、大きな地震に発展することもあると思っている。火山だけでなくて地震の対策も重要だと思う

噴火から30年以上がたち、今も活き続ける「平成新山」。もしもに備える調査と研究が続いている。

(テレビ長崎)

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