さまざまな不具合で建物が10cm以上傾くなど問題となっていた分譲マンションの立て替えがやっと完了した。このマンションように明らかな不具合で建て替えとなったマンションに比べて、老朽化したマンションの建て替えはどうするべきか?いま新たな問題に直面している。

“傾きマンション”の立て替えが完了

2023年5月15日、新築の分譲マンションに入居した78歳の女性。引き渡し初日に引っ越しを済ませた入居第1号だ。

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入居した女性:
うれしかったですよ。前と全然違って(壁紙を)真っ白にしてもらったから、明るくぱーっとした感じになって、よかったです

入居までの間、同居する夫が体調を崩したこともあり、1日も早い完成を望んでいた。

入居した女性:
夫が亡くなったら大変だから、1日も早く帰りたかったです。それを目標に生きてきました。こんな立派になってうれしいです

福岡市東区の分譲マンション「ベルヴィ香椎六番館」では、建て替えが完了し、引き渡しが始まっている。しかし、実はこのマンション、3年前は悲惨な状況に陥っていた。

床に置いたボールは勝手に転がり…壁にはひび割れ

記者(2020年1月・取材当時):
床に置いたボールが…止まらないでこっちに戻ってきますね。また、マンションの壁には縦に長くヒビが入ってます

「ベルヴィ香椎六番館」は入居当時、倍率が30倍という人気物件だった。しかし、次第にさまざまな不具合が顕著になってくる。

勝手に転がる床に置いたボール。壁にできたひび割れ。閉まらない入り口のドア。このマンションに住む住民たちは、25年間にわたって悩まされてきたのだ。

JR九州など販売会社側は、一貫して施工不良を否定してきたが、2020年、住民側の調査で、マンションを支える杭(くい)の長さが不足していることが判明。建物は10cm以上傾いていた。

すると一転、販売会社側は施工不良を認め、住民側に謝罪。総額20億円にのぼる費用を全て負担したうえで、マンションの建て替えをすることになったのだ。

「確信があった。あまりにもひどい状態だったから」

一般的にマンションを建て替えるには、住民による「建て替え決議」を行い、住民の5分の4以上の賛成が必要となるが、法律の規定により、無回答は反対票にカウントされてしまう。

「ベルヴィ香椎」の場合、建て替えが必要な「六番館」の住民はほとんどが賛成にもかかわらず、それ以外の6棟を含めた全体で4分の3以上の賛成が必要で、今回のような施工不良による建て替えであっても難しい状況に陥った。

管理組合理事長・佐々木太さん(2020年10月・取材当時):
もうギリギリのところなので、皆さんの方でもぜひ声をかけてください

「六番館」の住民は、ほかの棟の住民に理解を粘り強く求め続け、マンション全体の4分の3という条件をなんとかクリア。建て替えにこぎ着けることができた。

先頭に立って住民たちの意見を取りまとめてきた管理組合の佐々木太理事長も、安堵(あんど)の表情を見せた。

管理組合理事長・佐々木太さん:
とにかくホッとしてます。廊下に穴を掘ってボーリングするわけですから、そういった業者も探さないといけないし、それが功を奏したんですけど、逆に言うとそこまで確信があったんですね。あまりにもひどい状態だったから

佐々木さんは、入居する47戸が全て戻るのを見届けたら理事長の職を辞するつもりだ。

管理組合理事長・佐々木太さん:
ようやく、これで7年間の集大成っていうか、皆さんが入ってきたら、あらためて食事会でもしたいなと思ってます

25年の苦しみを経て、住民たちはようやく住み慣れた場所での安心・安全な生活を再スタートさせる。

「ベルヴィ香椎六番館」のように明らかな不具合で建て替えとなったマンションに比べて、老朽化したマンションの建て替えはどうするべきか?いま新たな問題に直面している。

「建物の老朽化」に加え「所有者の高齢化」

福岡市など都市部を中心に増え続ける分譲マンション。県内のマンション戸数は、2021年の時点で約37万戸。この内、建築から40年を超す「老朽化マンション」は全体の13%余り、約5万戸に及ぶ。

6年前に取材した北九州市内のあるマンションでは、取材した当時、すでに築40年が経過している状態だった。外壁のコンクリートが一部剥がれ、エレベーターも決まった位置に停止しないなど、老朽化が深刻な状況となっていた。

老朽化マンションの住人(2017年・取材当時):
エレベーターは動いているが、正しい位置に止まらない。段差ができて危険なので止めたままにしている

このマンションでは、建物の老朽化とともに所有者の高齢化も進んでいたことから、管理組合の運営や改修費用の工面など課題が山積していた。

老朽化マンションをどう再生させるのか。古くなった部分を修復して住み続ける大規模修繕のほかに、条件が整えばマンションの建て替えも選択肢に入る。

マンション再生の支援事業を手掛ける地元企業の「ラプロス」はこれまでに、県内6物件、県外3物件を建て替えた実績がある。

「ラプロス」樋口繁樹社長:
メリットは新築の部屋が手に入るということ。デメリットは、仮住まいの期間が2年から3年と、新築費用がかかる

容積率に余裕がある場合は、建て替えに合わせて戸数を増やすことで所有者の負担が軽減される可能性もあるが、現実はどうなのか。

「ラプロス」樋口繁樹社長:
下は750万円から上は1,980万円。ざっと1,000万円から1,500万円の手出し資金で建て替えている。仮住まいの費用が別途かかるので、プラス200~300万円を用意しなければいけない

2年後の法改正で選択肢増えるか

一方で、大規模改修をしやすくする法改正の動きも出ていて、老朽化したマンションを建て替えずにすむ新たな選択肢が注目されている。

「ラプロス」樋口繁樹社長:
1棟、まるごとリノベーションも含めて比較検討していくと、今、審議されているが、これがきっかけとなって、自分が住んでいるマンションに置き換えたら「タイミングが来ているのかもしれない」と勉強会などに行き始めると思う。目途とされる2年後の法改正をひとつのタイミングとして再生の相談はもっと増えると思う

今後、確実に増える老朽化マンション。住民も高齢化する中、どのような選択がいいのか。あらためて「向き合い方」が問われている。

(テレビ西日本)

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