トランプ米前大統領に対するいわゆる「ロシア疑惑」は、連邦捜査局(FBI)のトランプ嫌いの幹部らが根拠もなく仕掛けた「魔女狩り」捜査だったことが特別検察官の捜査で公式に断罪され、来年の大統領選に向けての波乱要素になりそうだ。

4年前からこの問題を捜査していたジョン・ダーラム特別検察官はこのほど最終報告書をまとめて司法省に提出し、5月15日一般に公表された。
報告書は300ページを越える膨大なものだが、冒頭に記した要旨がその結論を次のようにまとめている。

「(特別捜査)Crossfire Hurricaneの開始」
「FBIは豪州から曖昧で評価できない諜報情報を受け取ると、直ちにCrossfire Hurricane捜査を開始した。具体的には、副長官アンドリュー・マッケイブが指示し、対諜報担当の副部長ピーター・ストロックがCrossfire Hurricaneを担当した。このうちストロック自身はトランプ氏に対して強い敵意を抱いていた。この捜査は情報提供者との対話を一切行うことなく開始された。」
「さらに、FBIは(i)独自の情報データベースにおける重要なレビューを行うことなく、(ii)他の米国の情報機関からの関連情報の収集と検証を行うことなく、(iii)受け取った生の情報を理解するために必要な証人への面接を行うことなく、また(iv)FBIが通常使用する標準的な分析ツールを使用せず捜査を進めた。」
「もしFBIがこれらの手続きを実施していたならば、FBIは自身の経験豊富なロシアアナリストがトランプ氏はロシアの指導者と関与しているという情報を持っていないこと、またCIA、NSA、国務省の機密ポジションにいる他の人物もそのような証拠について知識を持っていないことを知ることができただろう。」
「さらに、ストロックが2017年2月と3月に作成したFBIの記録によれば、Crossfire Hurricaneの開始時点では、FBIは所持している情報の中に、キャンペーン中の任意の時点でトランプ陣営の誰かがロシアの情報機関と連絡を取っていたという情報は持っていなかった。」
これを補足すると、Crossfire HurricaneというのはFBIがトランプ氏のロシア疑惑を解明する捜査作戦の呼び名で、元はと言えばトランプ選対の外交問題助言者ジョージ・パパドプロス氏がロシアがヒラリー・クリントン候補(当時)の失墜につながるような情報を持っているらしいと在英豪州大使に喋り、この話が諜報機関のネットワークを通じてFBIが知るところとなり「トランプ選対がロシアと絡んでいるのかもしれない」という疑いで捜査を始めたものだった。
しかし、その発端のパパドプロス氏の情報も「プーチン大統領の姪」と名乗る女性がほのめかしていた「また聞きのまた聞き」のような話で、FBIも確証を得ることができないまま「トランプのロシア疑惑」という言葉だけが一人歩きすることになった。

「司法省とFBIは、この報告書に記載されている特定の出来事や活動に関連して、法律を厳格に遵守するという重要な使命を守ることができなかった」
ダーラム報告は、トランプ氏をめぐる「ロシア疑惑」の捜査についてこう断罪しているが、平易な表現に直せば「法律を無視した捜査」つまりは「魔女狩り」だったと言うことだろう。
これを受けて、米下院司法委員会のジム・ジョーダン委員長(共和党・オハイオ州)はこの問題の責任を追求するためにダーラム特別検察官を召喚すると公言した。

またトランプ氏も、今この疑惑とは別に秘密文書持ち出し疑惑などでFBIの捜査を受けているが、この報告を受けて「また魔女狩りだ」と声高に非難し始めていて来年の大統領選へ向けて波乱要素にもなりそうだ。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】